スクーターレーサーの視点から見たJOGとDioの違い


ここでは、「JOGとDioはどう違うのか?」ということを、
私がメインで参戦している「FNクラス」を例に出してJOGとDioの比較をしてみます。

※私はSUZUKI車についてはほとんど分かりませんのでご了承下さい

さて、このクラスで主流なのは、3YK型JOG-Z&ZRかライブDio-ZXですね。

比率的にはJOG:Dioで8:2といった所です。

JOGはヤマハエンジン特有のレスポンスの良さと高回転型の特性で、ストレートはDioより速いです。

Dioはドライブフェイス等が重いため?にトルクのあるエンジン特性です。しかしフォーク、フレーム剛性はJOGよりはるかに上です。

以上がFNクラスのマシンの特徴となります。

(実質規制前JOGのワンメイクレースとなっていますが…)


スクーターレーサーの視点から見たJOGとDioの違い (フロント足廻り編)


さて、JOG:Dioの比率のみを見ると、JOGの方が速いからJOGが多いという風に見えます。

しかしなぜコーナーリングを重視するレースでフロントの足廻りが弱いJOGが多いのか…

一般的には「JOGのフォークは弱い」と言われています。確かにそうですね。
しかし実際の旋回性についてはJOGの方が上なのです。

※ちなみに、F=3.00 R=3.50サイズのタイヤを履かせて、JOG=250mm Dio=305mmのリヤサスを入れた場合です。

「安定性」は確かにDioの方が上なのですが、速く曲がるという事を大前提にすれば、
JOGの方が「初期旋回」にはるかに秀でています。

ご存じの通りJOGはフォーク左側にしかオイルダンパーが入ってないので、立ち上がりではかなりフロントがアウト側に逃げてしまいます。
…しかしそれは「操れてしまえば」問題ないのです。


それに加えてフレーム剛性もありません。
だからといって「挙動不審」というデメリットばかりではなく、

「ブレーキング等でミスを犯し、タイヤが滑った場合でもフレームが程よくしなってグリップを回復してくれる」

という嘘のようなメリットがあるのです。

この様な状況がDioで起こった場合、一気にグリップを失ってしまいグリップ回復にかなりてこずりますが…


基本的にスクーターはフリーステアで操るバイクではありませんので、「両腕の力を抜いて乗れば 安定して旋回する」というDioの特性よりも、「挙動はガタつくが絶対的な旋回力に優れた」JOGの方が、比較的速いコーナーリングが可能な訳なのです。 (JOGの不安定さを操れれば、ですが)


そしてフロントブレーキですが、JOGが対向2POTキャリパーなのに対し、Dioは片押し1POTキャリパーという構造です。

はっきり言ってDioの制動力はJOGには全く及びません…

ブレーキタッチはDioの方が良いと思うのですが、いかんせん絶対的な制動力の差はどうにもなりませんね。

高速域からのフルブレーキングを多用するサーキット走行では、ある意味フロントフォークよりもネックになる部分です…


…好きなので私はDioで頑張っていますが(苦


スクーターレーサーの視点から見たJOGとDioの違い (リヤ足廻り編)


ここではリヤの足廻りについて触れたいと思います。


JOGとDioを乗り比べた事がある方なら、JOGのリヤサスの動きの悪さをご存知でしょう。

まず、JOGとDioの決定的な違いは「リヤサスのキャスター角」にあります。

車体の真横からリヤサスを見ると、JOGは少し傾いていて、Dioはほぼ直立です。


さて、ブレーキング時には当然リヤサスは縮みます。
当然コーナーリング中にも沈んでいます。
サスペンションは常に動いています。

そこで、「サスが縮む」という動きのみを見れば、サスが傾いているJOGの方が動きが良さそうなものです。
しかし実際にはDioの方が動きが良いですね。

…その原因は「エンジンハンガー」にあります。

「サスが縮む」挙動が起きた時、Dioのエンジンハンガーが「エンジン自体を上方向に動かしてGを吸収」 する仕組みなのに対し、JOGのエンジンハンガーは「エンジン自体を前方向に動かしてGを吸収」する仕組みになっています。

JOGのエンジンの動き Dioのエンジンの動き


エンジンユニット自体が前にズレる動きをすると、リヤサスの下側の付け根も前方に移動してしまいます。
すると、リヤサス自体はGを吸収したくて縮もうとするのに、エンジンがどんどん前方に動いてリヤサスのキャスター角を立てようとする 為に、なかなかリヤサスが動いてくれないという状態になってしまっているのです。

Dioのエンジンユニットも少しは前方に動くのですが、JOGに比べるとその移動量は少ないです。

※ここでの「リヤサスの動き」とは、「よくストロークする」という意味合いです。
※「一瞬で沈む」という意味合いではありませんので…



そしてリヤブレーキですが、フロントブレーキと違いリヤブレーキはDioの方がコントロール性は高いですね。

JOGのリヤブレーキシューは熱にも弱く、すぐにロックしてしまうという弱点があります。


スクーターはエンジンの搭載位置が「リヤミッドシップ」になっていますね。

ですので、絶対的な制動力を得るにはリヤブレーキを強く掛けるというのがセオリーです。


…しかしサーキット走行という状況では、リヤブレーキを強く効かせるという事はほとんどありません。

スクーターのエンジンは、リヤブレーキを強く掛ければ掛けるほどエンジン回転が極端に落ちてしまうのです。
(駆動系との兼ね合いですね)

ですので、いくらDioのリヤブレーキがコントローラブルな物でもあまりメリットにはならないのです…(泣


(私は結構リヤブレーキを使うライダーですので助かっていますが)



スクーターレーサーの視点から見たJOGとDioの違い (エンジンパワー編)


さて、エンジンですが、JOGもDioも横置き型の「クランクケースリードバルブ」式エンジンです。

出力自体は私は分かりませんが、ここでは比較対照にするためキャブやリードバルブ、マフラーも含めた出力を「ほぼ同等」という事にします。

(パワーがある方が速い、という事はとりあえず置いときまして)


では何故JOGの方がDioより速いのでしょうか?

まず、クランクシャフト自体の回転力がリヤタイヤに伝わるまでの間にパワーロスが発生すると、当然リヤタイヤにパワーが伝わりにくくなり、スピードにも繋がりません。
JOGとDioの決定的な差は、この「パワーロス」にあると私は思います。

どのあたりがロスなのかと言いますと

・Dioの方がドライブフェイスが重くて大きい

・Dioの方がクーリングファンが重くて大きい

この2点が大きいと思われます。

各パーツの比較です


JOGとDioの各パーツを並べてみました。

パッと見の大きさからして違いますね。

ドライブフェイスはJOGがアルミ製なのに対し、

Dioは鉄製です。

(画像をクリックすると拡大します。)



クラッチ側パーツやクランクシャフト本体の重量も関係してくると思われますが、現時点では詳細未確認ですので割愛します。
ちなみにローター(フライホイール)はJOG約695g、Dio約675gでDioの方が軽いですね。

上記の2点はクランクシャフトに直結して回転しているので、ほぼダイレクトに出力特性に影響があります。

しかも回転軸の支持部から一番遠い部分の重量にこれだけの差があるのです。

特にドライブフェイスは約3倍の重量差があります…

すなわちDioは、1回のクランクシャフト回転で、JOGより遥かに重い物を回さなければならないという事ですね。

(非常に乱暴な理論ではありますが…クランクの回転バランスはホンダが悪いのは明確ですし、おそらくクランクウェブ本体もヤマハが軽そうです)

これらは低出力のエンジンではかなりの差になってしまいます。


…しかしDioエンジンもデメリットばかりではありません。

クランクシャフト廻りが重いということは、クランクシャフトの「回転慣性が強くなる」という事でもあります。
軽い物より重い物を振り回す方が力が出ますよね?=「トルクがある」という事です。

例えばコーナーの立ち上がり等でアクセルを開けた場合、瞬間的な「トルク」が要求されますね。
そのような場合はDioの方が回転慣性が強いので、一瞬の加速力はDioの方が優れています。

しかしエンジン回転そのものの「レスポンス」は、やはりクランクシャフト廻りが軽いJOGの勝ちになってしまいます。

…だからといって「加速力」や「スピード」に直結するか、と言われればそうでも無いのです。

いくら回転のレスポンスが良いエンジンでも、「加速そのもののレスポンス」(この場合はアクセルオンですぐにスピードが回復するか) に繋がらなければ意味が無いですし、重いクランク廻りで「回り出せばトルクが出るエンジン」でも、回転が落ちた時に「重いクランク廻りを素早く回せない」程 出力の無いエンジンでは、スピードは出るかもしれませんがレスポンスは稼げません。


やはりエンジンの出力特性とクランクシャフト廻りの慣性重量には黄金比があるハズです。
FNクラスではクランクシャフト廻りの重量変更等は一切行えませんのでどうにもなりませんが。

…あくまで根本的な部分の特性の比較ですので、駆動系チューンやインナーローター装着時等では少々話が違ってきます。

その辺はまた改めて…


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