この「慣らし」とは、パーツ同士の組み合わせで、動きの渋いパーツを馴染ませるという事です。
エンジン腰上の場合、ピストンを新品にした場合はシリンダーとの接触面が、シリンダーを新品にした場合はピストン&リングとの接触面が「スムーズにこすれ合うことが出来る状態まで馴染ませてやる」という状態ですね。
シリンダー&ピストン&リング等が全て新品の場合は(新車もそうですね)全てのパーツがスムーズに動くように「慣らし」をしてあげないといけません。
スクーターのエンジンは基本的に強制空冷という冷却方式ですが、この方式ではあまりエンジンの冷却効果は望めません。
ということは、ピストンの熱膨張がものすごく大きいという事なのです。
ピストンというものは、完全に「真っ直ぐな」上下運動を繰り返しているのではありません。
下図の様に、ピストンピンを軸にして首振り運動も起こっているのです。
アイドリングで熱膨張したピストンの首振り運動により、ピストンとシリンダーの「アタリ」の強い所にキズが入ってしまうのです。
お手持ちのピストン&シリンダーがありましたら良く分かると思いますが、この「ピストンリングの合口」部分がこすれ合うシリンダー内壁部分は、どのポートの穴にもかぶっていませんね。
常に高温のシリンダー内壁部分とこすれ合っている
この様な理由から、ピストンで一番抱きつきやすいのは「ピストンリングの合口部分の上下壁との接触部分」なのです。
まずここを少しだけ削っておきます。
「削る」といいましても、実際は「磨く」といった感じに近いですね。
そして削りムラが出ない様に、必ず斜め45度ずつ交互に削るのがポイントです。
あまり削りすぎるとピストンの首振りを増大させてしまいますからね。
(ピストン表面のオイルの潤滑については、シリンダーにホーニング跡があればまず大丈夫です)
特に純正でも作りの悪い「ハズレ」の部品等は、新品でもピストンスカート部やシリンダーのポート角が鋭利になっていたりします。
下図の場所ですね。
ここを文字通り「角を取ってやる」様に削ります。
シリンダーと接触する部分は全て削ります。
もちろん、ピストンの吸気ポートも角が尖っているようであれば削ります。
ここの内壁側もピストンと接触しますので削っておきます。
シリンダー内壁にはキズを付けない様に注意が必要ですね。
排気、掃気の全てのポートを加工しておきます。
ここも手で撫でてみて、引っ掛かりを感じない様にします。
ポートの角は削りにくいので、棒ヤスリを何種類か用意しましょう。
ピストンリングは減ってはいけないパーツですが、慣らしが終わりスムーズに動くまでに「角」ではなく「シリンダーとの当たり面(側面)」が減ってしまっては元も子もないですからね。
シリンダー&ピストンのクリアランスの少ないボアアップキット等の素組みだと、慣らしがあまり効果が無いというのはこういった理由があるのです。
もちろん、こういった加工を施して実走行による「負荷をかけた慣らし」をした後にもう一度腰上をバラし、ピストンとシリンダーの「アタリ」の強い所を再度削ってやれば「慣らし」は終了します。
当然ピストンリングも新品の物を角を取って組むべきですね。
シリンダーのクリアランスが広がってしまいますので。
…シリンダー内壁は、あくまでホーニング跡さえ付けていれば大丈夫です。
それでも抱きついてしまう(大きなキズが入ってしまう)といった場合なら、元々のピストン&シリンダーのクリアランスが不適切と言う事になりますね。
当然ピストン&シリンダーの寿命も大幅に伸びてきますよ。
たしかにオイル管理等がしっかりしていれば、軽い抱き付きにしかなりませんので(焼き付く事はまず無いでしょう)、その時に付いたキズのみを修正して「アタリ」を取っているんでしょうね。
手っ取り早い「慣らし」のやり方ですね(笑
(メーカー指定の「低回転で長距離を走行」という方法では、エンジン内部にかなりのカーボンが溜まってしまいますし、ピストンリングも慣らしが終わる頃には寿命です。)
この様な事はマニュアルには書いていませんのでなかなか実行しにくいと思いますが、間違いなく完全に「慣らし」を行う方法ですね。
ボアアップキット等や新品シリンダーは高額ですので、念には念を入れておくべきだというのが私の理論ですので。
ここでは、ピストンとシリンダーの「慣らし」についての考察をしたいと思います。
皆さんもご存知の通り、ピストンやシリンダー、ピストンリングを新品にした場合、「慣らし」を行わなければなりませんね。
なぜなら、動きの悪いパーツ同士ですと、フリクションロスが起きてエンジンの回転のスムーズさを失わせてしまうからです。
そんな仕組みのエンジンですので、仮にピストン&シリンダーが新品同士だった場合、いきなり高回転まで回すとピストンの熱膨張が激しくなった時に、簡単に抱きついてしまう場合があります。
そして熱膨張の問題以外にも、「慣らし」で解決すべき問題があります。
シリンダー&ピストンのクリアランスの狭いボアアップキット等では、このピストンの「首振り運動」が起こる事により、慣らしをする前にすでにシリンダー内壁&ピストン外壁部にキズが入ってしまうという事が多々あるのです。
・・・私の経験では、ボアアップキットを組んで抱きつかせた人の9割は「慣らしをしたのに抱きついた」というパターンでした。
何故でしょうか?それは、
ボアアップキットのメーカーによっても差はありますが、出荷状態のピストン&シリンダーをそのまま組んで「慣らし運転」をした所で「慣らし」の意味があまり無い
ピストン&シリンダーは、組み付ける前にアタリの強い所を人間の手で「慣らしてやる」事が必要なのです。
まず、ピストンで一番抱き付きやすい部分は下図の斜線部分です。
吸気側の「ピストンリングの合口」が移動する部分ですね。
という事は、
削り方としましては、400番位の耐水ペーパーで2stオイルを使って削ります。
削り具合については、指で触ってツルツル位になれば十分でしょう。
そして、「慣らし」の中で最も重要なパーツ同士がキズ付け合う部分も削っておいた方が良いです。
具体的には、ピストンのスカート部の角、ピストンリングの外周の角、各ポートの角があります。
このようなパーツを無加工で組んでしまうと、エンジンを組み上げてキックしただけでかなりのキズが入ってしまいます・・・
削り具合としては、指でなぞって引っ掛かりが無くなる位が適当ですね。
ポートの角はピストンに引っ掛からない様に、図の様に角を取ります。
最後に、ピストンリングの入るピストンの溝部分や、ピストンリングの「角」も少し取っておいた方が良いですね。
以上の場所の角を取ってやれば、慣らしをする時間がかなり少なくてすむようになります。
ちなみに、仮に新品シリンダー&ピストンを無加工で組んだとして「慣らし」をした場合、鋭利なままのポートの角がピストンとこすれ合って、シリンダー内壁にキズを付けながら馴染んでいく物なのです。
しかしこの仕上げの「アタリ取り」の場合、シリンダー側にも少々キズがあるはずですが、これはピストンの様に削ってしまってはダメです。
・・・こんな面倒くさい事をいちいち行うのは大変手間がかかりますが、ピストン&シリンダーの最高性能を引き出したいのなら是非やっておくべき事です。
余談ですが、私の知り合いのチューナーの人は、ボアアップキットを組むときに無加工で組むと、「抱き付いてからが勝負」という考え方の人もいます。
さて、長くなってしまいましたが、これで一通りの「ピストン&シリンダーの慣らし」については終わりです。
では、次回は慣らしと関連して、「エンジン腰上の組み方」について語りたいと思います。