変速比とベルトの「かかり径」について+α



さてさて。前回はトルクカムの動きに対して「中級編」と言えるLVでメカニズムを解説しましたが、これは正直

かなりややこしく、3次元的にモノを考えなくては理解が難しいんですが…

ですので、今回はトルクカム編からまた少し離れ、トルクカムと関係無いとは言いませんが、皆さんが

かなり興味深く追求される点である「変速比&ベルトのかかり径」等について解説してみましょう。


が、もちろんいつもながらココでも今までに出てきた各メカニズムを理解されている事が前提になりますので

分からない場合は当コンテンツを遡って読み直して頂きたく思います。

今回も後々のコンテンツ解説に必要な基礎知識になりますので宜しくお願いします。




※今回もいいかげん長くて小難しい為、ページ内リンクで目次を付けておきます。




・「変速比」とは何か


さて。いきなりですがここでは「変速比」と言うモノについての定義をご解説しましょう。

これは簡単に言いますと、文面や表記としては、駆動系のドライブ&ドリブンプーリーへのベルトの「かかり径」が

変化し、それにより起こりえる「物理的な減速比変化」という意味合いです。

この減速比というものは皆さんもご存知かと思われますが、ギヤ比等でも用いられる、ドライブ側が何回転したら

ドリブン側が1回転するか、という、「回転数の変化」とそれに伴う「伝達軸トルクの変化」にもなります。


表記的には「2.8」といった数値で表されますが、これは軸の回転数の対比が「ドライブ2.8回転にすればドリブンが

1回転」と言う事です。

もちろん実際には小数点以下の数値も踏まえますが、「回される側」を「1」とした基準での回転数の

減速表記になっていますね。

圧縮比と同じで、「2.8」ならば比率として「2.8:1」になりますが、ドリブン側回転数が1という固定表記の為、

ドライブ側が「1以下」になった場合は「0.8(:1)」とかになる事もあります。

(※「1以下」になる場合は表記上は「増速比」になりますが、混乱を避けるためここでは割愛します)


注:以下、「変速比」は「減速比」と同義の扱いとして定義します


で、もっと分かりやすいのがファイナルギヤの減速比で、これも理屈は同じなんです。

Dio-ZX系だと1次が13-41丁で2次が13-45丁ですが、両者の減速比同士を掛け合わせた数値がトータルでの

「総減速比」になり、その値は「10.912」になりますね。

が、これはあくまでクラッチの軸が何回転したかに対し、リヤタイヤが何回転回るかを表すモノなので、

クランクシャフト回転数にも変動はありますしここに「変速比」を加味するのであれば、さっきのギヤ減速比に

さらに「変速比」を掛け合わせてやれば良いんです。


ここで一例を出しますが…

仮にライブDio-ZXですが、この車両の緒元データとしては

変速比 2.850〜0.860

ファイナルギヤ減速比 10.912

となっています。

が、ここで言う「変速比」は変動していく物であり、ここが無段変速である上での「減速比の変更」になっていますね。

「最大減速比2.850」とはあくまで「駆動系が一切変速していない状態」の減速比であり、ここにギヤ減速比を

掛け合わせても、それは最小変速(最大減速)状態でのリヤタイヤの回転数と言う訳です。

これは勘違いしてはいけませんが、実際に出ている速度を求める時にはこれに加え、クランクシャフト回転数と

リヤタイヤ直径が必要となります。

これについては今は割愛しますが、とりあえずは「変速比=減速比」と言うのがどんな物かを認識して下さいな。


後、もう一つ補足で…

「最大減速比」とは、「一番減速している=一番ドリブン側で力が出る」という状態ですが、これは実際には

「最小変速状態」の事を指しています。

「最小変速状態」が「最大減速比」になっているのであり、「最大変速状態」では減速比は「最小」となっている

事をお間違え無き様にお願いしますね。

…誤解の無い様に出来るだけ正しい意味合いをお勉強されることもオススメします(汗


で、前述の最小減速比と最大減速比をそれぞれファイナルギヤ減速比にかけてみると…

最小変速状態 変速比 2.850×ファイナルギヤ減速比 10.912=総減速比「31.099」

最大変速状態 変速比 0.860×ファイナルギヤ減速比 10.912=総減速比「9.384」

となります。

要は、「クランクシャフトが何回転すればリヤタイヤが1回転するか」と言う事ですね。

実際に速度に関連する目安の一つはこの「総減速比」なので、色々な車種のデータを取ってみると

非常〜に面白いですよ。



・「ベルトのかかり径」と変速比変化


では次に、実際の走行状態にて行われる、駆動系の「変速比の変化」という物についてご説明します。

これは皆さんもよくご存知かと思われますが、要はドライブ&ドリブン双方共に、向き合ったお互いの

テーパー皿の距離を変え、それによってベルトのかかり径を変更して結果的にドライブ/ドリブンでの

減速比を変更していく、というメカニズムです。

…わざわざご説明する程でも無いのですが、一応の基本と言う事で(笑


では、ここでは数値を分かりやすくする為に、ちょっと変速比を広げるチューンを行った駆動系のライブDio-ZXと

いった感じの車両、という物体を教材とさせて頂きますね。

この車両の変速比は上記の通りノーマルでは「2.850〜0.860」となっていますが、ここでは上にも下にも

変速幅を広げ、「3.000〜0.800」という数値的にキリのいいチューン度合いになってます。

以下、これを「基準」としますので宜しくお願い致します。


さて、この「変速比の変動」を持った駆動系の場合、実際にベルトの「かかり径」と言うのはどういう風に

変化するかと言う事ですが、これには絶対的な法則がまず存在します。

まず一つは、


・プーリーの横スライド量=トルクカム皿の横スライド量


という点が挙げられます。

これは実に単純な事ですが、まずこれをご理解頂かないとお話になりませんので(汗

ランププレートでプーリーが押され、プーリーはドライブフェイス側に向かいスライドするのが変速という

動作になりますが、「ベルトの幅」ってのは基本的に一定なので、プーリーが1oスライドした場合だと

同様にトルクカム皿も1oスライドする、と言う事です。

実際にはベルトの横幅と言うものはいくぶん潰れる物ですが、だからといってドライブ側でベルト幅が1o

潰れ細くなったとしても、ドリブン側は全く潰れないのか、といえばそんな事ありえませんので、ね。


ドライブ/ドリブンの横スライド量は完全比例



と、単純にこういう事になります。

これが分かっていれば、ドライブ/ドリブン双方のベルトの「落とし込み具合」や「上がり具合」も簡単に

算出したり視覚的な位置判断を行えたりしますね。

注意したい点は、よくWRの移動量増大等の手法を行う時でも、これはWR自体の移動量を増やすのは

この「プーリーやトルクカム皿のスライド量」を変化させている、という風に考えるべき、と言う点です。


それとここで注意点を一つ挙げておきますが、ここで言う「スライド量」というのは「ベルト方向へ対して垂直」

スライドの数値、という意味合いです。

某社のトルクカム解説みたく、トルクカム皿の「捻り角」がどうたらなんてのは

無視して下さいな。あんなもんは本当に理解すべき点を混乱させるだけの意味の無いうんちくなので。

と言うか…皿の捻られ具合がどうトルクカムの効きに影響するのかと小一時間問い詰めたいですが。

その前に溝の角度って何の意味があるのか知ってます?って(以下略


あ、そしてもうひとつ補足を一つ入れておきますが。

以前にもどこかで書いたと思いますが、ベルトってのはただのゴムなので、実際に走行させて走行中に

強烈な側圧がかかったとすると、幅自体はいくぶん細くなります。

が、巷でたまに聞く「ベルトが伸びる」と言う事に関しては、ほんのわずかにはあるかもしれませんが、

実際の変速比や走行フィーリングに影響する程は伸びていないと。

これは断言させて頂きますね。


これはですね、「引っ張り強度」ってのはこういうベルトでも十分すぎる程にありますんで、仮に天井にベルトを

引っ掛け、体重80kgの人間がぶら下がったとしてもそんな何oも伸びないですよ。

前回ご説明しました「ベルトを引く力」にしても数百kgもある訳ではありませんからね。せいぜい数十kgのLVです。

なので、劣化の限界を超える程にボロボロになった物ならともかく、通常使用で「ベルトが切れる」なんてのは

いかに駆動系構成が異常であるか、と言う点もご理解頂けるかと思いますよ(笑



さて。次にこの「変速比」という物を具体的に数値化してみましょう。

これはですね、プーリー等を加工する時には個人的には必須な数値なんですが…

実際にはこれをしっかりと考慮して駆動系の変速比を考えるのはちょっと難しいんですね。


では、ここで先程の駆動系構成を一例とし、実際のベルトかかり径となる数値の一覧表をご覧下さい。

あくまで、ライブDio-ZXに多少のチューンを加えた物で、仕様的には、

変速比「2.850〜0.860」をプーリーのみの加工により「3.000〜0.800」に変更

ベルトはノーマルのまま 「18x671o」

という構成になります。なお、ボスやフェイス面は一切無加工とし、ノーマルとの違いは変速比のみですね。


ユニットスライド量とベルトかかり径
上記の駆動系構成だと、実際のベルトかかり径と言う物はこうなります。

「スライド量」と言うのは、先述した様にベルトセット状態から1o単位で

プーリー&トルクカム皿が移動していく量を定義しています。

この駆動系構成の場合、プーリーストローク量(ユニットスライド量)は

「0〜11o」となる構成に設定していますよ。



※これだとトルクカム皿のスライドも0oから始まる様に見えますが、これはあくまで「ベルトセット時の

トルクカム皿の位置」を「0o」としているので、本当は表記にてスライド0oの状態でも、トルクカム皿は一杯に

閉めた状態よりも物理的に2o程度スライドして開いている「位置」が「始点(表中の0o点)」である、と言う点は

お間違え無き様にお願いします。


と、簡単ではありますがまずはこの「ベルトかかり径」をご覧下さい。

この数値を元に、先程の「最大減速(変速)比」と「最小減速(変速)比」を求めると…


最大減速比=ドリブン側かかり径108φ÷ドライブ側かかり径36φ=3.000

最小減速比=ドリブン側かかり径64φ÷ドライブ側かかり径80φ=0.800


となります。

…少数点以下のゼロはあえて残してますが(笑

後、フルノーマル車でもこの「変速比」という数値はサービスマニュアルに記載されていますが、

きちんとした計測を行えば実際のベルトかかり径より「変速比」が導き出せるんですね。


そして次に、


・「プーリー&トルクカムの横スライド量」の変化量が一定であれば

 「ベルトかかり径」の変移も正比例して一定量で変化する


という点も、絶対不変の法則として存在します。


これは簡単にご説明しますと、先述の「ユニットスライド量」ってありますよね。

これはプーリーが1oスライドすればトルクカム皿も1oスライドする、という物ですが、これは両者の

どちらもが「正比例した同一の数値変移」であるので、まとめて「ユニットスライド量」とします。


この「ユニットスライド量」に対し、仮に1oのユニットスライドが起こると、ベルトかかり径ももちろん

ドライブ/ドリブン側双方で変化しますよね?

これは上記のかかり径数値を見て頂ければお分かりかと思いますが、私の分析では現在の所、

駆動系の各お皿のベルト摺動面の角度が常識的な数値だった場合ですと、


ユニットスライド量1oに対し、ベルトかかり径は直径で約「4o」変化する


と言う事を基準としています。

これは簡単な事ですが、テーパー面角度の違いにより、同じ角度同士の皿の距離が向き合っていて

その距離が変化した場合、間に挟まれているVベルトはどれだけ「押し出される&落とし込まれるか」という事です。

これまた厳密に言えば細かな差異は出ますが…単純にプーリーボスを1o長くしたとすれば、ドライブ側の

ベルトかかり径は約4o小さくなり、対するドリブン側のベルトかかり径は約4o大きくなる、と…


実はこれだけの事なんですが、これを逆手に取れば、


実際には計測自体が不可能な、「どれだけ変速が進めば何km/h出ているか」


という、トルクカムの使い方等を考えるにあたり非常に有用なデータが取れるんですよ。

最小変速状態の最大減速比ってのは意外と簡単に計測出来ますが、それ以外となるとかなり難しいので

こういった理論から逆に導き出すと言う事も大切だ、だと私は考えています。


では、次に先程のユニットスライド1oずつの変移に対する、ベルトかかり径変移を記録したグラフをご覧下さいな。


ドライブ/ドリブンのベルトかかり径変移



と、これが上記の変速幅を持つドライブ/ドリブンでの、「ベルトかかり径変移」のグラフになります。

…ちょっとデカいですが画像ちっこいと値が見えなくなるのでご勘弁をば(笑


で、表記通り、x軸がユニットスライド量でy軸がその時のベルトかかり径ですね。

これは単純にグラフにしてみれば分かりやすいのですが、ベルトかかり径自体の変移量がユニットスライド量に

対し比例して変化して行くのがお分かりでしょうか。

…ベルト駆動ってのは意外ときっちりしているモノなんですよ(笑


そしてこの「ユニットスライド量」と「ベルトかかり径」が判明すれば、実際の「変速比」も割り出せます。

先程のベルトかかり径から変速比を逆算すると、以下の表になりますね。


ベルトかかり径から導く変速比
この様に、まず最初に「最小変速比」が分かっていれば、その後の

変速比を導き出すのは実は簡単だったりするんですよ。

これは後述しますが、「変速比」さえ分かってしまえばプーリーが

何o動けば何km/h出ているか、等の速度計算も可能なので、

実際の駆動系構成や「限度を超えない」ハイスピードプーリーの

作製にも大変役立ってきますね。


…私の言う「やりすぎは禁物」とかってのは実はこのあたりの数値計算から来ているという事も補足として

付けておきます(笑


あ、ちなみにですね、ここで記してある「変速比(減速比)」なんですが、これは別の機会に解説予定である

「変速進行によるトルクカムの効きと軸トルク減衰率のうんたら」って感じの物に大きく絡んでくるんです。

カンの良い方であればすでに私が何を言わんとするかをお分かりだと思いますが、実はこの辺に

トルクカムに関する大きな秘密、勘違いしやすい点が含まれているので…が、それはまたの機会に。



で…ここでひとつだけものすんごく大事な注意点を挙げておきます。

上記の変速比換算の表ですが…これは「最小変速状態」でのベルトかかり径は36o/108oになっていますよね?

これだと、額面通り受け止めれば最小変速状態の「ベルトかかり径を計測した」と考えられると思います。

が、これははっきり言いますが、「それだけ」では無いんですよ。


仮に…上記の表の元となった、ライブDio-ZXのノーマル変速比を例に挙げますが、おおむね上記の表の

「最小変速状態=0.35oスライド時&最大変速状態=10.35oスライド時」の「変速比」と同等な数値に

なるんですが。

その場合、「0.35oのユニットスライド」では「ベルトかかり径は直径で1.4o」変化するので、変速比においては

最小変速状態=「37.4o/106.6o=2.850」程度

最大変速状態=「77.4o/66.6o=0.860」程度

となります。

…ほんのわずかの誤差はあるんですが、これなら近似値として良い範囲だと思いますよ(汗

「元々」のデータ自体がベルトかかり径の「実測値」から拾ったモノですが、これなら私も細かい事は

言いませんね。ライブDio-ZXのノーマル変速比だとこの位で、ユニットスライド量も約10o、といった

解釈になっていますよ。もっと分かりやすく言うとボスを0.35o伸ばせば最大減速比だけは2.860→3.000まで

高められる、って事です。(もちろんベルトは同一寸法ですよ)


で…これだと結局ベルトかかり径の「実測」から求めてんじゃねえか、って言われそうですが(笑

じゃあ試しに、ライブDio-ZXを持ってる方、もしくはホンダ大径駆動系車を持ってる方はですね、

ライブDio-ZXと全く同じ駆動系構成を放り込み、18x671o程度のベルトを突っ込んでみて、

その状態で一度エンジンを掛けきちんとベルトを「張った」上で、ベルトかかり径を計測してみて下さいな。


おそらく、実際のベルトかかり径を測れ、と言われると…99%の方が「ベルトの外周にマジックを当て、そのまま

プーリー&ドリブンユニットを回して線を引く」と思われますが…



残念ながら


この手法で計測した数値は


上記の「ベルトかかり径」の数値とは


程遠い値になります(汗



上記のライブDio-ZXの「ノーマル構成」にてベルトかかり径を外周で測ってみても、ドライブ径37.4oで

ドリブン径106.6oには絶対にならないんです。


…「お前はそれを計測してから逆算したって言ったじゃねえか!」ってツッコミ入りそうですが(笑

そうですよ。私ももちろんそうやって、「ベルトの外側にマジックを当てて」数値拾っていますけども…

が、これはですね、この手法ですと「ベルトの一番外側」の「かかり径」を測っているだけなんです。

このVベルトってやつはですね、実際に側面がテーパー皿の摺動面に対しグリップしているモノですが、



ベルトの「側面の最外周側」が


一番最大のグリップ力を


発揮している訳では無く


実際の「ベルトかかり径」となる点(線)は


ベルト側面最外周の部分では無い



と言う事なんですね。


…これは難しいので詳細は割愛しますが、仮にプーリーやフェイスにテーパー角度が無く、なおかつ

側圧もベルト側面に対し一定にまんべんなくかかるのであれば話は別ですが、テーパーユニットである以上

ドライブ/ドリブン双方での「Vベルトの外側のかかり径」同士を計測しても、イコールで減速比とはならないんです。


じゃあどうやって数値を出したんだ、と言われれば…正直、後は計算で確実に寸法を出す手法はあるんですよ。

が、これは個人的な意見で申し訳ありませんが、ちょっと簡単には公には出来ないんです、と言いますか

したくないんですね(汗

…今までにも色々な事を解説はして来ていますが、ここまでぶっちゃけてしまうのはさすがにイヤです(断言

これは長い年月をかけて解析し裏付けも得た、とーっても苦労した事の一つなので。


が、これではただの嫌味にしかなりませんので、ヒントだけは出しておきます。

この変速比ってやつは…上記でご説明した様に「減速比」でもあるんですよ。

となれば…「減速比」ってのは分解をせずとも簡単に判断する手法、ありますよね?

それさえ分かれば、ノーマルだと駆動系の「変速比」ってのはサービスマニュアルに載っているのですから

どこをどう補正すれば「実測から本当のかかり径になるのか」を導き出す事が可能ですよ。

これも圧縮比計算みたいなモンで、一度分かってしまえばいくらでも応用は利くものですから。

ここまで読んで理屈を理解して頂けた方でしたら、私と違いすぐに気付かれると思いますし。

…頭の切れる方だと「なーんだ」と思われるかもしれませんが、元々数学とか得意じゃない私の場合は

それに気付くのにかなりの時間を要した、って事なのでご容赦下さいな_| ̄|○



とまあ、かなりややこしい事になってしまいましたが。

今回は明確な数値とデータを出しましたので、いつもみたくわけわからんって事は無いと思います(汗

こういった点を考えていくのが「変速比」を考慮すると言う事であり、これが無けれぱハイスピードな

プーリーも有用なトルクカムもまず作れないので。

ちなみに、いくら変速比だけを計算しても、実際の運用においてこれでは無理がありすぎる、とかってのは

ある程度それらをパーツに反映出来る能力と体感出来る経験も必要ではありますが…

それらが全部簡単に出来ちゃったら私も含め誰も苦労はしませんよね(笑



・変速比の決め打ちによる速度計算式等&タイヤ外径の「潰れ」の加味


さて次に。

こういったベルトかかり径の変化により「変速比」が変化していき、それにより「実際に出ている速度」

導く事も出来るのですが、これをちょっと補足で入れておきますね。


まず、ここで「速度計算式」を少々。


エンジン回転数×60÷駆動系減速比÷ファイナルギア総減速比×タイヤの外周(km)=時速


これが一般的に使われている「速度計算式」になります。


「時速」を求めるので、まず「分速」であるエンジン回転数に60を掛け、それを駆動系で減速させ

さらにギヤで減速させて、その「1時間あたりの回転数」にて、「タイヤ外周」が何km進んでいるか、

と言う計算です。もちろん時速の単位は「km/h」なので、タイヤ外周値はkm換算しないと駄目ですね。

これで、「1時間あたりに進む距離」が出せます。


では、これに先程の車両の最小&最大変速状態の変速比を代入し、他は下記の条件にてひとつ

計算をしてみましょう。


・変速回転数 8000rpm

・最大減速比 3.000

・最小減速比 0.800

・ファイナルギヤ比 10.912

・リヤタイヤ外周(3.50-10 負荷時直径) 1284.88o (≒0.00128km)


とした場合、最大&最小減速比の状態にて出ている速度は


最小変速(最大減速)状態=

8000×60÷3÷10.912×0.00128=18.76km/h

最大変速(最小減速)状態=

8000×60÷0.8÷10.912×0.00128=70.38km/h


となりますね。

こういう式ってありますんで、前述の様に変速比さえ計測&算出出来れば、


プーリー&トルクカムが何oスライドすれば何km/h速度が出ているか&

速度が何km/h出ていればどの位の変速状態なのか


という事を割り出せます。


…簡単な所で、仮にDio-ZX系でクレアカムを使うとすれば、「溝の折れている所では何km/h出ているのか」も

判断出来ますよね?

が、エンジンの仕様は個人個人で全く違いますから…仮にハイギヤを入れている上に変速回転数が

10000rpmとかのエンジンを使われている人の場合、ノーマルの様に「45°溝が終わる」速度域が

35km/hとかでは無く、55km/hとか60km/hの時点とかだったりする場合も普通にあります。


これだと普段60km/h巡航する事が多いのであれば、常用する全ての速度域にて45°トルクカム溝を

使って走っているのと同義なので、常用している速度域では駆動系のアクセルOFF時のシフトアップ量が

増大したり、走行負荷の減衰に対するトルクカムの効き過ぎを常に誘発している事にしかなっていませんからね。

(これは今後のコンテンツで詳しく解説します)


こういった事を防ぐ為にも、ある程度の速度と変速状態の兼ね合い、そして各パーツの「担当範囲」と

いう物も把握しておく事が必要、となって来ると言う事です。

これらもある程度理解しておかないと、自分が常用する速度域にて45°→60°という溝の特性を期待して

入れたつもりのクレアカムが、実は45°一直線モノを入れてるのとほぼ同じ「溝の使い方」だった、って

アホらしいオチになったりもしますんで、ね…



そしてここで、上記計算式を使うにあたっての大事な補足を入れておきますね。

それは何かと言いますと、タイヤ外径の「潰れ具合」なんです。

この速度計算式と言う物は使われている方も多数居られると思いますが、「実走行でのタイヤ外径の補正」を

行われている方はなかなかおられないのでは、と思いますので。


詳しくは下の絵をご覧頂きたいのですが、簡単に言いますとタイヤ接地面ってのは思っているよりも

かなり潰れている為、実測の直径や外周から算出した直径では、「出来る限り実走に近い速度計算」を

行うには役不足だ、って事です。


実走状態での「タイヤ接地面の潰れ」



とまあ、実に簡単な事なので補足はこれだけって事で(笑

簡単にこの「潰れている」ってのを体感したい方は、リヤタイヤ外周に柔らかいメジャーを巻いた上で

誰かに乗車して貰い、どの程度「外径」が変わるかを測ってみれば良いですよ。

「車体からホイールを取り外した状態で計測した数値」とは明らかに変わりますからね。

分かりやすい一例として、バイクではなく車のタイヤを真正面から見てみれば一目瞭然です。

車重が違いすぎるからってのは関係無く、ただのゴムが潰れないなんてありえない、と言う事で。


…とはいっても、ある意味これは知らない方が幸せな知識だったりもするんですけれどね(笑

メーカーのタイヤ外径や外周の数値を元に速度計算をした事がある方ですと、実際の補正を入れると

かなりマイナスな値になってしまいますんで。

が、それはある意味スピードメーターよりも確実に正確に近い現実なので受け入れなければ駄目ですね。


もちろん、実際の走行においては路面&空気抵抗もありますが、それらを加味するうんぬんの前に、この

「タイヤ外径潰れによる誤差」を加味しないと話にならないです。


これも良い機会なのでお話しておきますが、「空気抵抗」がいくらあるとしても、実走行状態にてエンジンの

回転数はタコメーターで実際に確認出来ますよね?

となれば、「実走」にてそこまで回っているのだから、タイヤもそれに比例した回転数で無いとおかしいですし。


そもそも、

実走行のタコメーター表示は「走行抵抗がかかっている上でそこまで回っている」

のですよ。


実際に走行している回転数=速度に、空気抵抗や走行抵抗を加味する必要なんて無いんですよ。

実走行にて各種抵抗が過大であるのであれば、そもそもそこまで回転数が上がらないですからね。

「理論上最高速」と言うのはタイヤ潰れの補正を加え、なおかつ実走行での最大変速後の

エンジン回転数が維持出来ていれば、それはイコールで最高速度になっている、と言う事です。


これまた言葉キツいですが…正確なパルス式スピードメーターやサイクルメーターを使っている上で

「計算上はこれだけ回ったらこの速度が出るはずなのに出ていない&狂ってる」と言うのは、大抵の方が

この「タイヤ潰れ」を加味していないからそう思えてしまうんです。

それは速度計算の値から外れるという物ではなく、「加味するべき物が根本的に足りていない」んですよ…



そして仮にライブDio-ZXのフルノーマルに上記計算式を当てはめると…

変速回転数は一番おいしいと思われる7000rpmに調整し、変速終了後はMAX8000rpmまで引っ張ったとしましょう。

変速比はノーマルのままで0.860、リヤタイヤは90/90とすれば、


変速終了の瞬間で

7000×60÷0.860÷10.912×0.00121=54.15km/h


最大変速後、8000rpmまで引っ張れば

8000×60÷0.860÷10.912×0.00121=61.89km/h


と、こうなります。


こう考えれば、「ノーマルで7000rpm変速での変速終了」ってのはわずか54km/h時、って事も導き出せますよね。

ちょっと前にこのお話はしたと思いますが、ノーマルだとそんなものなんですよ。

…とは言ってもノーマルのスピードメーターってのはかなりのハッピーメーターなので、実際には

「メーター読み」だともっと速い数値を指しますけれどね(笑

ちなみに私は「計算式による速度表記」には全て上記の実「速」補正を掛けていますのでよろしくです。



・クラッチイン〜ミート時におけるシフトアップ現象の図解


なお、ここでひとつふたつ気をつけなければならない事があります。

最大変速状態は実際には変速が進行し限界点に達した「瞬間」ですから、これに関しては特に問題は

ありませんが…

最小変速状態だと、「駆動系が全く変速していない状態で変速回転数が8000rpmの場合、18.76kmの速度が

出ている」と言う事になります。


が、これは前回もちょろっとお話しましたが、クラッチインの後にはこの「8000rpmの最小変速状態で18.76km/h」と

いう所まで、ずっと変速固定状態で加速している訳ではないと言う点が大事ですね。


※くどい様ですが、クラッチシューがアウターに接触する瞬間を「クラッチイン」、完全に食いついた時を

「クラッチミート」としていますのでお間違え無き様にお願いします。


リヤタイヤを浮かせた無負荷の状態ではなく、実際の走行状態の場合はクラッチイン〜完全ミートまでの間には

ある程度変速が進行していき、完全ミート(「全クラ」と言うべきですかね)した瞬間に100%のトルクカム負荷がかかり

最小変速状態まで素早くキックダウンしている、と言う事です。

…これは文章では分かりづらいと思いますが、言葉を返せば


「設定した変速回転数+最小変速状態の変速比」にて

出ているはずの速度まで実速度が出ていない「発進直後の加速中の段階」では

クラッチシューはアウターと100%はグリップしていない、絶対に半クラの状態が存在する


という事にも繋がるんです。

上記の仕様だと、8000rpm変速にての最小変速状態で出ているはずの速度は18.76km/hですが、

この速度に到達するまでは絶対にクラッチシューの100%グリップはありえず、半クラ状態にて

加速しつつも駆動系もシフトアップしているんですよ。



これは前回もご説明しましたが、100%の走行負荷が無い状態では変速回転数はガタ落ちするので、

仮にクラッチイン6000rpmミート8000rpm変速回転数8000rpmのセットだとしても、クラッチが滑っている状態だと

トルクカムに対しては100%の負荷がかからず、実際の変速回転数は無負荷状態とまでは言いませんがそれなりに

落ちます。


ちなみに、通常の加速側変速においても、「アクセルを全開にせず、トルクカムの効きを100%出さない場合」だと、

6000rpmや7000rpm位でもちゃんと加速しますよね?加速自体はアクセル全開時よりは遅いですけどちゃんと

変速して走ります(笑


これは、クラッチミート後の加速中は「トルクカムが100%効く為に必要な走行負荷」は100%になるのですが、いくら

トルクカムの相方の「ドリブン皿」に100%の負荷がありトルクカムを効かせる準備があるとしても、アクセル開度が

少ない場合は「ドライブ側でベルトを引く力」が少なくなり「トルクカムを100%の力では"引いていない"」ので、

結果的にはトルクカムの効き自体が100%にならず弱い為、アクセル全開時よりも低い回転数にて変速が

進行するという立証になるんです。


仮に、「その回転数では変速は行われていない!」って考えると…どうあっても7000rpmで60km/hとかを出す事は

不可能になってしまいますよね?状況に関係無く絶対に8000rpmに達さないと変速が始まらないのでは、

「8000rpm以下で18.76km/hを超える速度を出す事」は絶対に不可能ですから。

なので、クラッチが完全ミートしていない極低速域では、駆動系のシフトアップは如実に行われているんです。



で、よく「クラッチが滑る」とも言いますが、発進直後ってのはスクーターでもクラッチはある程度滑っていなければ

ならないですし、半クラ時間を短くする方向へのチューンは可能でもありますが…仮にクラッチシューが

クラッチイン〜ミートまでに全く滑らないとしたら確実に即エンストこきますよ(笑

マニュアルクラッチ付きのバイクや車で、発進時にスパっとクラッチを繋ぐとどうなりますか?って事です。


ではここで、前回はちょっと説明不足だった、何故か一般的には全く公開されていない発進時の

駆動系の動作と言う物をいつもの絵でご説明してみますね。


まずは停止状態からアクセルを開け、設定した回転数にてクラッチインが行われた直後ですが…


クラッチイン〜半クラ加速状態



この時点ではまだ速度がのっておらず走行負荷はかなり高く、トルクカムは強烈に効きそうなものですが…

実際にはクラッチシューとアウターが完全密着していないので、トルクカムの効く力は100%には到底到達して

いません。

したがって、「規定変速回転数よりも低いエンジン回転数にて発生出来るWR遠心力」でもドリブン側の

ベルト側圧に打ち勝ち、変速自体は進行してしまいます。

「規定変速回転数」とは「アクセル全開でのフルパワー加速時」で変速進行するエンジン回転数です。


ちなみに図中では半クラ加速状態での変速回転数を7000〜8000rpmとしていますが、実際にはもっと高い&

低い「エンジン回転数」になる事も駆動系構成によってはありえるのであくまで表記は一例です。

トルクカムへの負荷のかかり方や溝の使い方がおかしいとエンジン回転数が規定変速回転数をオーバーする事も

ありますし、「低負荷により変速回転数は仮に5000rpmまで落ちているとしても、"エンジン回転数"自体はそれを

突破して回っている」という症状も出るんですが、難しいのでこれはここでは割愛しますね(汗

ここで大事なのはそんな細かい点ではないのでスルーでも結構です。


そして少し速度が乗り、走行負荷も減りクラッチシューとアウターとの回転数が同期してクラッチシューが

完全ミートすると…


半クラ〜完全クラッチミートした瞬間



ここで初めて「規定変速回転数」で正しく変速が行われる状態になり、トルクカム負荷は100%となるので

駆動系は「最小変速状態+規定変速回転数」にキックダウンが行われ、、ここから「変速進行」が

改めて始まるのです。

…ちょっと分かりづらいと思いますが、「本当は」こういうモノだと思って下さいな。



で、ここでさらに裏付けを取れる写真をくっつけておきましょうか。

「本当にクラッチイン〜ミートまでの間にシフトアップなんて起こってるのか?」と思われる方も

いらっしゃるかと思いますんで、上記理論や数値もふまえてこの写真をご覧下さい。


新品プーリー装着にて変速比3の状態、変速回転数8000rpmにて20km/h弱まで加速後
これは一度も使ってない新品プーリーを装着し、実際の走行実験を行ったものです。

上記の仮数値の通り、変速比3.000状態にてクラッチイン約6000rpm、全開加速時の変速回転数を約8000rpmとしています。

これだと計算上はクラッチ完全ミートの瞬間には「8000rpmにて18.76km/h」出ているはずの構成になりますね。



で、スピードメーター読みだと実速の18km/hとはズレが出るので、この実験の前にクラッチが完全にミートした

瞬間のメーター針位置をチェックしておき、そこが「実測の18km/h位」という基準を作りました。

この瞬間が完全ミートになりますが、実はそれ以外にもクラッチミートを見極める手段もあるので、

人間の感覚を駆使して完全ミートを見極めてます(笑


そして実走によりアクセル全開加速にて、そのメーター位置より多少手前に針が来た瞬間に加速を

止めた状態だと、プーリーのベルト跡はこうなっていた…と言う事です。

あ、これも補足しておきますが、「加速中のアクセルOFFによるシフトアップ」を防ぐ為、停止時には

アクセルは全開のままリヤブレーキを強烈に効かせて停車しています。

…これもまた今後詳しく解説しますが、プーリー表面に余計な跡が付いては実験の意味が無いと言う事に

なりますんで、これを理解されるのはちょっと難しいかと思いますがとりあえず私を信じて下さいませ(汗


実際には18km/hギリギリまで加速したのではなく、ある程度余裕を持ってクラッチが完全ミートする前に

停車してますんで、ミスって変速が過度に進行してしまったって事はまずありえないです。

そしてもちろん、このプーリーは新品を組み込み後にベルトを張る為、走る前にわずかに回転を上げて

ベルトを張り直しただけで、リヤタイヤを浮かせた空ぶかし等は一切行っていません。

それをやっちゃうと無負荷での変速進行が大きく行われるので、走って無くてもこういう跡が付いて

しまいますからね。もちろん実験前にも変速を起こしていない事は「目視」での確認も行っています。

当然、実走でのクラッチイン前に変速が始まる様なセットも施していないですよ(笑


さて、いらん突っ込みや正確性を出す為の手法解説に手間取られましたが、改めて上記の写真をご覧下さい。

マジックで線を描いてある所が、「最小変速状態でのベルト外周かかり部分」になります。

ここが最小変速状態でベルトが居る所ですが…プーリー表面の跡を見て頂ければ結果は一目瞭然かと。


完全なクラッチミート前には確実に多少のシフトアップは行われている


と言う事がこれで実証出来たかと思いますよ。

あ、ついでに先程の「ベルト最外周が一番グリップしている訳ではない」と言う点もこの写真ではっきり

見えると思います。


最後に補足で、上記では説明を分かりやすくする為にクラッチイン6000rpm、ミートも変速回転数も8000rpm程度と

していますが、常用回転数が高ければ高い程クラッチシューとリヤタイヤ回転数の同期が遅れる為、実際の

クラッチイン〜ミートまでの半クラ時間も長くなります。

逆にノーマルの様に常用回転数が低いエンジンだと、規定変速回転数以前でも完全ミートが行われた上に

エンジン回転の上昇に伴って規定変速回転数まで加速している、という事もあったりします。

…ここいらへんはとっても難しく、エンジンの特性や状況によっても結構左右されますが、クラッチイン後に

全くシフトアップも半クラも無いと言う事だけは絶対にありえない、と言う事をご理解下さいませ。



とまあ、ちょっと話が飛びましたが、実際のクラッチイン〜ミート〜変速開始=加速ってのは、実はこういった

ちょっと理解しづらい駆動系の動作が行われているんです。

…いい機会なのではっきり言いますけど、私は生まれてこのかた、こういったクラッチイン〜ミートまでのシステムを

きちんと解説している文献、写真等にはお目にかかった事が無いんですよ。

私も長年様々なモノを見てきましたが雑誌等の図解入り解説はもちろん、WEBやパーツメーカーの解説等でも、

皆さんも目にされた事があるであろう「一般的解説」しかありませんでした。

この手の専門書も探しましたがさすがに無かったですしね。


…このクラッチミート付近の解説に関してはコイツ完全電波な理論だな、と思われて当然だと思いますが、

私の解説している駆動系構成というモノは、実際の走行状態、走行負荷を考慮した物と言う点にて

一般の解説とは大きく異なっています。

もっとぶっちゃけますと、雑誌等の解説って奴は基本的に無負荷空転状態での目視確認をベースとして

モノを考えているから、ああいう不正確な解説になっていると思いますんでね。

逆に言えば、私は実走では何がどうなるかってのを把握しているからこそ、雑誌等が紹介している理屈自体が

無負荷状態での分析の結果である、という事も言えるのです。


そりゃそれでも100%の間違いじゃありませんが、駆動系を深く追求するという点においては全くもって駄目な

分析&図解でしかない、と断言させて頂きましょう。

…人様に説明するのにはああいうのが簡単で良いのでしょうけど、トルクカムにしてもそうですが、それらを

書く方は果たして本当に駆動系のシステムを理解した上で書いてるのでしょうか?と思えますが…

とりあえずこれに関してはここで止めましょう。

あの手の図解は「ざっとした印象での初歩の理解」には良いですが、実際には間違いです、と言う事ですよ(断言

一流メーカーや雑誌がメカニズム解説を行っているとしても、間違いなんてザラにあるのが世の中ですのでね…



・最後にまとめ


さて、今回も長くなってしまいましたが。

今回はよく言われる「変速比」と言うものがどんな物なのかを簡単にご紹介してみましたが…

簡単に変速比を減少させてハイギヤード化し、最高速度を伸ばすと言うプーリーも世の中には

多数ありますが、それらの品でも「変速比」という点においては一体ノーマル比でどの位の差が

あるのか、という疑問を抱くべきなのです。


とはいっても汎用品にそこまでの厳密設計を求めるのなんてハナから無理なのですが、それが逆に

「デメリット」になる場合だってありますからね。

仮に、最大変速状態においてノーマルの0.860→0.700とかまで変速比が減少しているプーリーがあるとしまして、

エンジンをいじらない限りは変速回転数は変えられませんし、ノーマルエンジンだとしたらそこまでの

ハイギヤードな減速比を使いきれる訳ありませんからね。

極端な話、「直径200oのプーリーを使えば200km/h出るのか?」って事ですよ(笑


まあこんな極端な話は置いておいても、自身のエンジンの持つパワーと減速比の兼ね合いと言うのは

難しいモノではありますが、仮にそこまで減速比の小さいプーリーを使った場合、最大変速後にエンジンの

回転数が上がるどころか下がってくるとすればその時点でもう「やりすぎ」に近いのです。

そして極度のハイスピードプーリーの場合は再加速のレスポンス、キックダウンにもかなりの悪影響を

及ぼしたりしますが、これはまたの機会にご説明致しましょう。

そして、ベルトかかり径がどうこうと言うのもありますが、仮にWRの移動量を増大させるにしても、

「プーリーやユニットの"スライド量"」という物にて把握すべき、と言う点も大事ですね。


そして、多少ではありますがベルトかかり径の変化という物をグラフにしてみました。

…これは前述しましたが、実はここにトルクカムに対し多大な影響があるポイントが隠されています。

「頭で考えているだけでは分からない」とも言うべき、駆動系において非常に大切な事があるのですが

これに気付かれる方は果たして…(汗

もちろんコレに関しては後々のトルクカムの解説コンテンツにてネタバレを予定していますんで

ご期待下さいませ。

が、これを言ってしまうととんでもない辛口になりますが(以下略


そして今回のコンテンツの最後に。

「クラッチイン〜ミート」までの駆動系の動作、これは正直、今回の私の解説を読んだだけでは

素直に納得出来る方は本当にごくわずかだと思います…

私もなんとか分かりやすくする為に絵や図、文章を工夫してはいますが、それでも出来る限り駆動系の

構造の理解が進む為のお手伝いになれば、と考えていますよ。


…と言いますかですね、駆動系ってのは私が小難しく書いてる様にも見えるかもしれませんが、

細かな所を解析していくと私の解説なんかでは比較にならない程に「元々かなり難解な物」だと

言う点をご理解下さい。

別に私、元々簡単なモノを小難しく書いてるのでは無いのですよ(笑

またはっきり言いますけど、この辺は一般的解釈や理論説明の方があまりに稚拙なのです(断言

…なので私の言う事が難しく見える&読めるだけだと思いますよ。まだエンジンとの方がざっとした理解は

簡単だと思いますし。

構成がシンプルだからというのはあると思いますが、駆動系を簡単に分かりきった気になって

ナメてるのは駄目ですよ、って事ですね…



では、軽く今回のコンテンツをまとめておきますね。


1:「ベルトかかり径」から導き出されるのが「変速比」であり、これを無視しては何も出来ない

2:その「ベルトかかり径」と言う物はベルトの最外周部の直径を基点としてはいない

3:ベルトかかり径を求める上で大事なのはドライブ&ドリブンの「ユニットスライド量」である

4:ユニットスライド量に対しての「ベルトかかり径の変移」は必ず比例する


5:クラッチイン〜ミートまでには確実な「駆動系のシフトアップ」が行われている

6:このシフトアップ現象等は「走行負荷のある状態」にて分析&考慮しないと理解しづらい



こんな感じでしょうか。

…まとめると簡単に見えちゃいますが、ココだけ読んで理解したつもりにはならないで下さいね。

そんな簡単なもんじゃあありませんよ駆動系ってのは。


この駆動系を考える上で一番大事な事は、「3次元的にモノを考える」事なんです。

プーリーのマジックがはじっこまで消える等の事柄でも、それは単純な2次元平面的にモノを考えているだけで

本当に構成を理解するにはそれだけでは全くもって考察が足らないのですよ…

代表的な例としてはトルクカムの基本動作、これもパーツを見ているだけでは絶対に完全把握は出来ないと

断言出来ます。


「プーリースライド量=トルクカムスライド量」という一種当たり前すぎる事柄でも、これを明確に記している

文献等は少なくとも私の10ウン年のスクーター人生の内では一度も見た事がありませんから…

実働状態の負荷を考慮して説明しろ、なんて事まで求めるつもりはありませんが、基本中の基本とも呼べる

大事な点がさほど明確にされていない、という点は本当に悲しいです。


私も今回のコンテンツまでで…そうですね、駆動系に関しては自身で持ってる理論&解析結果の半分ちょい位は

ご説明出来ていると思いますが、それでも終わりはまだまだ先になります。

今後も駆動系に関してはさらに難しくなる一方の予定ですが、「そういうモノ」だと思ってお付き合い下さいませ。

ちなみに、次回コンテンツの内容は今回のコンテンツと密接に関係している部分ですので、出来れば

ココを読まれた後には日を置かずにご覧頂きたく思いますので宜しくお願い致しますね。



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