変速比増大の弊害と本当の「ベルトスリップ」



さて。前回のコンテンツでは、皆さんが非常に注目されるであろう「変速比」について解説しました。

今回は前回の予告通り、その変速比に密接に関係する事柄を解説しましょう。

表題通り、変速比増大による弊害なのですが、今回はあくまで「変速比"増大"」なので

変速状態としては「最小変速状態」の時の問題点、と言う事になりますね。

変速比が「大きい」場合は「ローギヤ方向」になるのでお間違え無き様にお願い致します。


(※本コンテンツは前回のコンテンツ内容を理解していないと内容がさっぱり分かりませんのでご注意をば)



※今回も定番で阿呆の様に長ったらしい為、ページ内リンクの目次を付けておきます。




・変速比増大加工による弊害


さてさて。前回コンテンツにおいて「変速比」と言う物がどういった物なのかはお分かり頂けたかと思います。

次に、実際のチューニングや加工による変速比増大の場合の、見落としがちな点…と言いますか

これまた一般に溢れている手法の駄目な点をすぱっと一刀両断してみたいと思います。


回を重ねるごとにどんどん辛口になっているのは承知の上ですが、理解を深めずに無茶な加工やセットを

施したりするのは決してお奨め出来るモノでは無いので、「勘違いによるやりすぎ」という物もきちっと認識して

おくべきだと思いますよ。


ではまず、タイトル通り「変速比増大による弊害」なんですが、「増大」ですから発進時の変速比、

つまり最小変速状態における弊害、になります。

これは前述しました様に、ノーマルで「2.8」とかであればそれを「3.0」まで増大させたいというのが手法ですね。

この手法を取る場合…一般的にはボスを長くしてプーリーとフェイス間を広げ、ベルトをより「内側」に

落とし込むという手法が基本的です。


もちろん、プーリーのベルト摺動面を薄くしたり、長いベルトを入れたりするのもほぼ同義ですが、これらにより

ドライブ側ベルトかかり径を小さくし、ドリブン側ベルトかかり径を大きくするのが減速比増大の

手法ですね。


さて、一般的にはこういう手法は非常に行いやすく、しかも効果も体感しやすいのでさまざまな所で紹介も

されていますし、ココを読まれる方であれば施工もされている方がほとんどだと思われます。

が、ここで気を付けて頂きたいのが…この「ドライブ側ベルト落とし込み」という手法にも限度がある」

と言う事なんですよ。


これまた言葉がきつくなりますが、正直現在ですとこの手法の蔓延により、無茶苦茶な落とし込みを平気で

推奨していたりする事が「多々」あるんですね。

とても代表的な一例を出しますと…


・ベルト内側がボスに当たるまでベルトを落とし込むのは愚策


と言う事が挙げられます。

これ、変速比を限界まで増大させたいのは分かりますが、メカニズム的にはそこまでやっちゃ絶対に駄目です。

こんなのは大間違いなんですよ…


「ベルトの裏側がボスに当たるまで行っちゃ何故駄目なんだ?」と言われますと…これって簡単な事なんですよ。

まず、何度かご説明しましたが、Vベルトってのは「摺動面(側面)からの側圧」にて保持されるべきモノなんです。

これがですね、最小変速状態でベルトの内側がボスに当たるまで落ち込んでいる場合…



発進してトルクカム負荷が起こり


ドリブン側でベルトが張られた時には


ドライブ側のベルトがボスに当たり


潰れて喰い込んでしまい


本来はベルト側面にかかるべき「側圧」が


ベルト内側面から


ボス面に向かって逃げてしまう



=ベルト側面にかかるべき側圧が少なくなり


最悪のベルトスリップを誘発する



という事が起きるのですよ…

軽く絵を描きますとこういう事になります↓


クラッチインの瞬間のベルトの「喰い込み」



駆動系がきちっとセットされた状態だと、一見ベルトは最低限度張っている様に見えますが、実際に

クラッチイン程度の負荷がかかってもドリブン側のトルクカムの負荷は増大し、ベルトを停止状態よりも

さらに強く張っていく力が起こります。(ドリブン側ベルトかかり径が大きくなると言う事です)

となれば、ドライブ側ベルトかかり径も小さくなる方向へ動くのですが、ここでボスとベルト内側のクリアランスが

あまりにも無い場合だと…


ボスとベルトが当たると有効側圧が逃げてしまいます



こうなります。

ボスとベルト内側底面が接触し、なおかつぐりぐりと押し付けられてしまうので、本来必要であるハズの

「ベルト側面への側圧」がボスに逃げまくってしまい、最低限度ベルトをグリップさせるだけの側圧すら

無くなってしまいます。


この状態だと…以前のコンテンツで解説した「最低限度のベルトスリップ率」を軽くオーバーし、最悪とも言える

ベルト回転方向へ対してプーリー&フェイスが空転する程のベルトスリップを起こすのです。

これは比喩ではなく、ドライブ側ベルトがかかっている部分では「物理的に」プーリー&フェイスは空回りを

していますよ。

こうなってしまっては正直変速がどうとか言ってる場合ではなく、スクーターの駆動系構成としては致命的

ミスになるんですよね。


もっと分かりやすく言いますと、本来「V」ベルトってのは2面の側圧のみでベルトを保持しているのですが、

ベルト内側、底面部分がボスと当たってしまう事により、「3面支持」になります。

となれば、ベルト側面からの入力が一定の圧である以上、2面で保持するのと3面で保持するのとでは

「1面あたりの面圧」ってのは格段に下がってしまいますよね?

こうなると本当にプーリー&フェイスってのは「空転する」んですよ…


どこかで書きましたが、ボスがスプロケみたいな形状なのならともかく、ベルト裏側と「噛み合って」いる

訳ではありませんからね?この辺りを勘違いしては駄目です。


なので、最小変速状態でのベルトセット状態でベルト裏側がボスに当たっている、もしくは

引き込まれすぎて潰れてるなんてのは


何もメリットは無いどころか駆動系の動作をおかしくする害悪


にしか過ぎないのです。

これ、知らずにやってる方は結構目にするのですが、今すぐやめた方が良いと断言させて頂きます。



では、どの位の余裕が必要かと言えば…

これ、ベルトってのがどの位「潰れるか」にもよるのですけど、ボスとベルト内側のクリアランスは最低でも

1〜2o程度は残しておくべきだと私は考えています。

仮に、ベルト幅が1o潰れるとすれば、前述した様にベルトのかかり径は直径で4o小さくなってしまいますよね。

となれば、ボスとベルトのクリアランスが2oあったとしても、負荷でベルトが潰れて引き込まれた場合には

クリアランスはほぼ0になってしまいますんで、ね。


これを簡単に把握するには、ベルトを張った駆動系の「ドライブ側かかり径」を実測してみれば一発で

判明します。

ベルトの外側ギリギリに細いマジック等を当て、ドライブユニットをくるくる回せば良いんですね。


ベルトかかり径からのボスクリアランス判断



…簡単でしょう?(笑

実に物理的なお話で、実ベルトかかり径さえマジックで線引いて把握すれば、ベルトの厚みとボスの太さから

ボスとベルトにはどの位のクリアランスがあるのかを簡単に把握出来ます。


実際の車両の状態 ここで一例ですが、私の街乗りGダッシュの最小変速状態でのベルトのかかり具合をば。

マジックで線が入っている所が、「ベルトセット時のベルト外周面」になります。

フェイスを外してボスにベルトを掛けてみるとこうなっていますが、「余裕」はきちんとありますね。

ちなみに私、SSマシンや他の車両でも変速比には関係無くココの余裕は1o以上持たせていますよ。



で、図中にも描いていますが、無茶苦茶なセットを施されている駆動系の場合、このベルトかかり径自体の

物理的な限界値よりもさらに実測でのかかり径が小さい、って事も現実としてありえるんです。悲しいですが(泣

こんな場合だと、もうベルトは「組んだ状態で」ぎっちぎちのばっつばつにされてしまい、側圧もクソも全く

無い状態になってしまっているんですよ。

仮に上記の図の様に、ボス外径20φでベルト厚8.5oの場合だと、ベルトかかり径は37oで「限界(とはいっても

それじゃ駄目です)」なので、実計測にてベルトかかり径が35oとかになる訳無いと思われるかもしれませんが、

場合によってはムリクソ組んでやるとなんと収まったりするんです…


が、そんなのが可能なのはセンタースプリングが異常にガチガチな車両か…もしくは

ドリブン外周からベルトがはみ出ていて、トルクカムがまともな動作をしていないセット

でしか「起こりえません」からね(笑

本来、ドライブ側ベルトかかり径が限界であれば、ドリブン側かかり径は小さくなってベルトセットが行われそうな

モノですが、限度を超えたセンタースプリング反力等があればドリブン側のトルクカムはほぼ開かず、先に

ドライブ側ベルトは潰れてしまい、「無理矢理内側に引き込まれて」セットされている事になります。

これだと「ドリブン側かかり径」は変化せず、ドライブ側が見かけだけ落ち込むのでこの時点で無茶苦茶ですよ(笑


それともう一つ、ドリブン側ベルトがセット状態でお皿からはみ出てる場合ですが。

これも3つ上の図を見て頂ければお分かりかと思いますが、負荷がかかった状態だと下手したらドリブン側って

外周からベルトはみ出てるでしょう?

これも、元々のベルトセットを「ドリブンの外周ギリギリ」にしていると、下手すると負荷がかかればベルトは

半分位お皿から飛び出してしまいますよ。


ベルト側面ってのは皿のテーパー面に対し、出来る限り「面」で密着していないといけないのに、それが出来て

いないとまともな動作なんてするはずかない、って事です。(断言

前述した様に、ベルト側面ってのは最大グリップを発揮しているのは「最外周部分」ではありませんが、

それでも側面が皿から飛び出たりするのは良い訳ありません。


…これらの「想定以上のベルトの落ち込み&せり上がり」と言うのはほんの一瞬ですが確実に起こりえているので

ここでも、負荷を考えない目視だけのベルトギリギリ調整というのは無意味と言わざるを

得ないですね。

あ、もちろんこれらの場合の「ベルトセット状態」と言うのは、各パーツを組み込んでエンジンをかけ、

アクセルをあおり駆動系を一度動かした後の「状態」ですので。

…まさかパーツを組んだ直後の「ベルトかかり径」の計測をされる方がおられるとは思いませんが一応補足をば。



それと、補足でもう一つだけ。

「減速比増大」によるボス周辺のクリアランスが大切なのはご理解頂けたかと思いますが、ドリブン側の

「ベルトセット」とでも言うべき所でももちろんやりすぎては駄目なポイントがあります。


これは、トルクカムスライド量の「余裕」なんですが。

ドライブ側の弊害を見ればお気づきの方もおられると思いますが、ドリブン側ベルトかかり径と言うのも

発進負荷の一瞬では確実に「ベルトセット時より大きくなっている」んです。

となれば…もしもですよ、「ベルトセット状態でトルクカムピンがすでに溝の一番上に当たっている」といった

セットの場合はどうなるでしょうね?

これは当然、負荷がかかった時にはトルクカムを閉じられないと言う事です。


となれば…

ドライブ側ではただでさえ側圧が無いのに、それで無理矢理ドリブン側を「引き」、その力と走行負荷を

同時に受けるトルクカムは当然もっと「効いて閉まろうとする」んですが、これが閉まらないと最低限度の

ドライブ側ベルト側圧すら稼げないのですよ…

ドリブン側でトルクカムを効かせてベルトを「張らなければ」、ベルトがグリップするしない以前の問題に

なってしまいます。

となればもう側圧のドライブ/ドリブンのバランスなんてどっちつかずになり、まともなセッティングなんて

絶対に行えないんですよ。


トルクカムスライドのマイナス側への余裕



これも簡単ですがこういう事なんです。


クラッチインの瞬間にベルトが強く「引かれて」も


トルクカムは効く(閉じる)方向に全く動けない


と言う事になりますね。


下手をすれば、「ドライブ/ドリブン双方でベルトに接するユニットが空転している」という

状況もありえるんです。

くどいですが、これは変速過程における最小限度の「ベルト滑り」ではなく、本気でベルトが空転しているので

エンジンパワーを効率良くリヤタイヤに伝えなければならない駆動系としては洒落にならないロスが出ますよ。

症状が起こるのはほんのわずかな時間だとしても、実際には「規定変速回転数+最小変速状態」になるまでは

ずっとロスりながら加速している、という事にもなりえますのでね。


ちなみにコレも、ドライブ側と同じくベルトセット状態でマジックで線を引いた上でバラし、トルクカムピンを

目視しつつベルトをあてがってやれば「セット状態のピン位置」が簡単に把握出来ます。

しかしドライブ側と違い「ベルトを張った状態」にはならないので多少の差異は出ますが、目安を取るのには

問題ありませんので。



トルクカムのピン位置にしても、ノーマルだとそんなトルクカム溝に余裕が無い程ギリギリの位置ですか?

仮に何千kmも走ってベルト幅が1oも2o減った場合、ベルトセット時のトルクカムピン位置はどうなりますか?

ベルト幅が減ればドライブ側のベルトかかり径はどの位変化しますか?内側がボスに当たるまでの余裕は?

何故にサービスマニュアルには「ベルト幅の使用限界値」が「明確に」設定されているのでしょうね?

車種によってはたかが1o程度の「幅の減り」でベルト交換を指定しているその意図は?


…私の分析に納得が行かないと思われる方がおられましたら、これら全てに「耐久性を加味した上での

しっかりとした説明」を付けて頂きたいです。

仮にそれが出来るのであれば、ボスにベルトが当たるばっつばつセットもありだと思いますし、私もそこまで

全否定したりはしませんよ。

で、「トルクカムの溝延長」ってのもよく聞くチューニング手法ですが…機構的なものを考えると本当に溝延長が

必要なのは「どちら側へ向けて」なのでしょうかね…



そして最後にもうひとつ。

さすがにドライブ/ドリブン双方で無茶なセットを施しているとデメリットだらけと言うのはご理解頂けたかと

思いますが、こういうのを知らずに駆動系構成を作っていると…おかしな手法により上記の症状を

改善する(?)と言う事まで色々と紹介されているのが悲しいです(泣


簡単にご説明しますと、上記のドライブ/ドリブンどちら側でもベルトスリップが起きる場合、あからさまに

クラッチイン時の挙動がおかしくなったり、ミート直後でも変速自体が「うぁんうぁん」とかっておかしくなる

場合があります。

こんな時には…大間違いなんですが対処療法みたいなモンとして挙げられているモノがありますよね?


もうココまで読まれた方ですとお分かりだと思いますが、某雑誌とかにもたまに出ていますけれども

ベルトセット状態での「ベルトの張り」を調整するなどというわけのわからん手法があります。

ドライブ側ではボスとベルトのクリアランス、ドリブン側ではベルトのはみ出し防止とトルクカムスライドの余裕、

これらをきちんと守っていれば、無負荷状態でかかっているベルトを押しての「張り」なんて意識しても

全く意味が無いんですよ。


そりゃ組んだ後にエンジンかけてなくてベルトダルダルってのは話は別ですが、基本的にセンタースプリングを

変更しない限りは「セット状態のベルトの張り」なんて極端に変化する訳が無いのです(笑

ベルトを多少短くしても、はたまたトルクカム溝を変更しても…前述の様に「駆動系構成が正常であれば」

指で押して分かる位の「ベルトの張り具合」への影響なんてありえません。

それを「調整」って一体…元々ドライブ側でのボスとベルトのクリアランスなんか完全に0以下で、ばっつばつに

ベルトが張りまくられている風にセットされている駆動系であればそんな「調整」も要るんだろうな

思いますけれどね。


一応簡単な絵も付けておきますが…


ベルト内側とボスに余裕があれば「ベルトの張り」なんて変化しないです



こういう事です。

そもそもの構成として



ドライブ/ドリブン双方に「動作の余裕」があれば


「ベルトセット時のベルトの張り」という物は


向き合うお皿同士の間隔を多少変化させた所で


極端に変化する訳が無い



って事です(笑

ボスが1o短くなればトルクカムは1o開く、といった基本の法則に則っていない構成の場合でしか

そんな前後が固定プーリーの機械で、「軸間距離」を変更した様なベルトの張りの変化なんて

出る訳がありません。


仮に、ベルトの張りってのを調整しようとしてボス長でも変化させてみて、実際にベルトの張りが大幅に

変化するのであれば、99.9%の確率でボスとベルトが当たってぶっ潰れてる愚策セットになってますよ。

それに加え、こんな無茶な状態こそが、前項でご説明した、ユニットスライド量に対するベルトかかり径

変化が、ドライブ側とドリブン側で比例せずに無茶苦茶になってしまう一番の要因でもあるんです。


で、ベルトセット時にボスを短くしてセンタースプリングセット長をさらに縮めてやれば、セット時のスプリングの

反力は上がらない事は無いですが…図中にも描いていますが1kgf-o単位でセンタースプリング反力を

上げようとすれば、2oも3oもボスを短くしなければなりませんよ?そんな事もまず不可能ですよね?

ベルト幅は同じままベルト長を極度に短くすれば不可能ではありませんが、そんなのまともに走りますか?

もしくは「ベルトの張り」を調整したいが為にセンタースプリングをがっつり強化すると?そんなのはまず

セッティング手法としてありえないですよね。


そしてベルトを使い込んで幅を細くして利用したりするのも「セッティング手法のひとつ」ではありますが、

それをやるならば駆動系の「稼動範囲の限界」ってのはしっかりと考慮しましょう、と…



そもそも、現実的な変速比にて駆動系構成が収まり、なおかつベルト底面〜ボス間のクリアランスの余裕や

トルクカムのマイナス側(閉じ側)への動作余裕が「普通に」ある場合は…

「ベルトセット状態のベルトの張り」なんか気にしても全くの無意味です。


駆動系とはベルトの張りも含め、「きちんとした負荷がかかって始めて正常動作する物」ですからね。

チェーンやシャフトドライブみたいな「動作時の各部寸法&形状変化」が少ない訳では無い事を理解しましょう。

ベルトの張りにしても、「軸間距離の変更でしかベルト側圧を変更出来ない」ベルト式コンプレッサーやモーターを

使った一般の機械と一緒にしては駄目って事ですよ。根本的に物事の構成が違いますからね。

スクーターの駆動系のベルト側圧はそんな手法で変更する物ではありません(断言


そして…仮に停車時にノーマルよりベルトがばっつばつに張っている構成だとしても、エンジンのトルクが

あればある程、駆動系構成が同一でもトルクカムは強く効くので、発進直後にしてもベルトの「張り」は格段に

強くなってしまうんですよ?

走行負荷が同一でもベルトを引く力が大きくなれば、トルクカムの効きは増大しベルトを強く張るのは

トルクカム中級編にてご説明した通りです。


「限界を突き詰める」のと「訳も分からず無茶をする」のは大違いですよ。

これってボス長を簡単に大きく変更出来るヤマハ乗りの方に多い傾向ですが、心当たりのある方、もしくは

この辺りの余裕という物を気にした事の無い方は、明日にでもご自身の駆動系構成を再チェックして

みる事を強く強くオススメ致します。


単純にドライブ側のベルトかかり径を実測すれば、現状が無茶かどうかなんて一発で分かりますからね。

ドライブ側のベルトかかり径をばしばし落とし込み、ドリブン側はずんどこせり上げていけば、際限無く

減速比の増大が可能な訳でもありません。発進時を気にするのなら「総減速比」も鑑みた上であれば

どの程度ドライブ/ドリブンでの「変速比」が必要なのかもおのずと分かってきますし。

前回も言いましたが、直径が200oとかのプーリーを使えるとしたら実際に200km/h出ると思いますか?って事と

これも意味合いは同じ事ですよ。




・本当の意味での「発進時のベルトスリップ」


相変わらず今回も長くなってしまっていますが(汗

前回には変速比のお話から始まり、クラッチイン時の駆動系動作、そして今回はどうしてもそれを絡めて

行かなければならない変速比増大加工の限度についてお話してきました。

この辺りは切っても切れない関係の上、流れ的に繋げてご説明しないと分かりづらくなってしまうので、

どうしても長くなってしまっていますが、今回はここで、「発進時のベルトスリップ」というモノを解説致しましょう。

長文を読んでご理解頂けた方に対し、「すぐに実践出来る物」をおまけでご紹介するのもすでにパターン化して

来た気もしていますが(笑



さて、一般にはよく「ベルトが滑る」とかって言われていますが、トルクカム中級編でもお話した通り、

ベルトスリップってのは最低限度は無いと駄目なんですよ。変速進行が出来ませんからね。

が、これは「プーリー等の回転方向への明確な空転という意味では無い」のは死ぬほどご説明した通りですが、

そうではない明確なベルトの空転と言うのは、上記の様に駆動系構成が悪いと比喩ではなく確実に

起こっているハズだと私は分析しています。


具体的にはですね、さっきの話で「ドライブ側ベルト落とし込みが限度を超えている場合」ですが…

これだと、クラッチインの瞬間はともかく、その後のトルクカムへの負荷がまだ少ない半クラ状態では

一応トルクカムは効き始めますが、その「ある程度」トルクカムが効いてベルトを張ろうとする力以上に、

ドライブ側ベルトをグリップさせる為の「側圧」って失われているんです。


前述した通り、ドライブ側ベルトは潰れまくってボスに押し付けられている状態では十分な側圧を得る事が出来ず、

実際に半クラ状態で変速が始まっても、まだベルト側圧が足らない為に滑るんです。

ベルトのある「位置」も、最初にボスにめりこみまくっているのであれば、きちんとしたかかり径が得られるまで、

すなわち多少変速が進みベルト裏とボスが離れた状態になるまで「変速が進行しないと」まともなグリップ力は

得られませんよね?

なので、クラッチイン後の一瞬でドライブ側ベルトの側圧を取り戻す事は不可能であり、3面支持になってる

ベルトもあいまって、100%の空転とは言いませんがどう考えてもプーリー&フェイスの回転に対してかなり

スリップをしているんですよ。


…これはぱっと考えただけでは分かりづらいと思いますが、これに加え先程の駄目パターンの様に

トルクカム自体の開き具合に「閉じる側」の余裕が無い場合は余計に酷くなります。

ドライブでは側圧が足らずベルトが空転しかけ、それを抑えるはずのトルクカムは、ドライブ側ベルトの

側圧が足らない為にまともな力でドリブンユニットを引けず余計にトルクカムが効かなくなり、さらには

トルクカム閉まり側の余裕が無い場合は下手するとドリブン側でも多大なスリップが起こっていると

言う事になりもう最悪ですね(汗


が、これだと変速とかもう無茶苦茶になって、リヤタイヤまともに回らないのではないか?と思われると

思いますが、世の中上手く出来てまして、これでも「前に進む」事が可能なんです。

と言いますか、それが不可能なのであればここまで間違ったセットが疑問も持たれずに世の中に

広まりまくる訳がありませんけどね。ある程度まともに走ってしまうと「これは駄目な手法なのかも?」なんて

考えないのが人間の性ですから…


そして、体感は出来ずともある程度走って「しまう」その秘密は



発進直後でクラッチイン直後の加速では


ベルトが過度に滑っている場合


クラッチシューがほとんど滑っていない


(=半クラがほとんどない)



…こういう理屈なんです。

ベルトとクラッチ、どちらも滑り続ける事はシステム上無理ですし、逆にどちらも滑らないのも

絶対に不可能ですからね。


「半クラでの駆動系シフトアップ現象」も前述した通りですが、これを逆に考えてみて下さい。

発進直後、クラッチインの瞬間にベルトもクラッチシューも全く滑らなかった場合だと、

どう考えてもエンストこきますよね?

クラッチイン〜ミートまでの間は、アウターとシューの回転数は同期していないのですが、これは

ある程度速度が出て…とはいっても前述の通り1種ノーマルで20km/h程度のLVですが、走行負荷が

低減されてくるとやっと双方の回転数が同期します。(=クラッチミートです)


この双方の回転が同期するまではエンストせずにクラッチシューは滑ってくれなければならないのですが

これは「ベルト自体がほぼ滑らないからこそ、クラッチシューが滑り続けてくれる」のであり、

この時点でベルトスリップ率がかなり大きい場合だと、ベルトの方が滑り続けてしまうんですよ…


クラッチシューとアウターのスリップ率 < ベルト側面とプーリー等の摺動面のスリップ率


こうなってしまった場合、半クラがほとんど無くなってしまうと言う事ですね。

「半クラ」が無い変わりに「半ベルト」とでも言えるベルトのスリップが起こっているんです。


で…ココまで来ればもう私が言わずとも皆さんお分かりかと思いますが、発進加速に関しては

「ベルトがだだ滑り」なのと「クラッチシューが半クラで滑る」のとは…どちらがパワーロスがでかいかは

一目瞭然ですよね。

しかもベルトが滑る、と言うか空転しているであろう駆動系構成では、きちんとベルトが適正位置まで

動き、なおかつ変速状態が安定するまで真っ当な変速、いや「加速」すら行えないのですよ。

正直な話、こういうのは無駄の極みなんです_| ̄|○



でもこの症状ってのは…実際にはなかなか体感しづらいんですね。

しかし、これは実はかなり分かりやすい判断方法があるんですよ。

それは



半クラが有るか無いかは


ある程度はエンジン音で判断が可能



だったりします。


一例を出しますとですね、基本的にスクーターの発進加速ってのはアクセル全開加速でも最初に

「パア〜〜〜〜〜」って感じで不安定な回転数に聞こえ、いくぶん速度が乗れば「パアアアア!」と

一定になりますよね。

この、「音が変わる瞬間」こそが「クラッチミート」なのです。


なので…例を出してみますと、SSマシンではよくありがちで、発進時から加速〜ゴールまで全てが

「パアアアアア!!」ってエンジン音がほぼ一定の場合ってよく見かけます。

…これ、かなりの人数の方を否定する事になっちゃうと思いますけれども、


発進時から加速中まで


エンジン音がほぼ変わらない場合は


ほぼ確実に駆動系構成に不備があり


「半クラ」がほとんど無く


無駄なベルトスリップを


起こしまくりのセッティングになっている


と言う事です。


もちろん、クラッチミート後に変速が始まってしまえばその後は「音」は変わらないですよね。

加速中でも最大変速到達前に音が変わっていくのであれば、それは「変速中にエンジン回転が上昇している」

というセッティングミスにしかなっていません。


…残念ながらSS競技だと、多数の方がこんな感じになっていると私は分析していますよ。

なまじパワーがあれば駆動系のおかしさなんてある程度誤魔化せてしまいますし、「音的には」これも

カッコ良いと言うか、スムーズに加速している様には「聞こえる」ので、こういったセットに異を唱える方って

少ないのだと思ってたりします。


が、仮にノーマルなんかもこの音的な変化は分かりづらいですが、ちゃんと体感しようと思えば出来ますからね。

スクーターの駆動系のシステム上、「クラッチミート時点でエンジン音が変わらない時点でおかしい」のですよ…

と言いますか、スクーターでない普通のMT車でも、半クラ時と完全ミート時以降の音は違いますし、そうしないと

他に滑る所が無いのでエンストせずに発進なんて不可能ですんでね。これは当たり前です。

…じゃ替わりにホイルスピンさせればいいんじゃね?ってツッコミは勘弁して下さいよ(笑

あれこそ無駄の極みですし。


※ただ、前項でもご説明した様にフルノーマルの様なパワーバンド回転数低めでミート回転も低い様な

エンジンではこれらの現象は体感しにくい、という点もご留意下さい。

リヤタイヤとクラッチシューの同期が取れるまでに長い時間が必要な高回転型エンジンでは、必ず「半クラ」は

存在しますから、「音」に現れない時点で確実に駆動系がおかしいと言う事です。

(さすがに何故に高回転型エンジン&高回転ミートだと半クラが長いのかは割愛します)



で、こうなっても駆動系ってのは不思議なモンで、ある程度前に向いて進むだけの駆動力ってのは

得られているんですが。

「半クラが長いので短くしたい」ってのもよく耳にしますが、確かに限界以上にドライブ側のベルトを無茶苦茶に

落とし込んでぎっちぎちに張ったりすればこれが改善出来そうな気がしますけども、そんなのは逆にベルトが

滑りまくりの方向性にしか持っていけていないんですよ。

が、一見、対策に対する結果がちゃんとしている様に見えてしまうのがこれの最大の罠なので、私の言っている

事はまず支持されないというのは覚悟の上ですけれど…お前の方がおかしい!って言われて当然でしょう(笑


クラッチシューの材質どうこうってのも無関係ではありませんが、駆動系構成そのものが常識を外れていては

本当に意味のある対策なのかどうかは見極められません。

(が、悲しいかな、今の時代は無茶が平気で常識となっているとしか言えませんよ)

…と言いますか、計算でも出せる「最小変速状態+規定変速回転数の速度域」まではクラッチシューってのは

ある程度は滑っていないと物理的におかしいんですけどね(笑


「音が変わらない」構成だと確かに「半クラ」はかなり短い、と言うかほぼ無い状態ではありますけれども、

その代わりベルトが滑りまくっても良いんですか?って事です。ちなみに私は絶対イヤですけど(爆

ちなみにこんなセットの車両だと、プーリーの最小変速側のベルト当たり面が異常な程にテカテカになり

確実にそこばっかり滑ってる、っていう嫌な確認も出来ますので、ね…

もちろんそんな場合だと、プーリーやベルトの耐久性がどうなるかは言わずもがな、です。


とまあ、またややこしい事になりましたが、無段変速ってのはこのクラッチ周辺の動きは特に難しいので

少しずつイメージを作られるのが理解への近道だと思いますよ。



・ベルトスリップにおける致命的な性能低下


さて。ここまでの解説にて、ドライブ側はもちろんの事、ドリブン側でも場合によっては過度のベルトスリップ、

「ベルト摺動面での側圧不足」によるベルトの空転が発生していると言う事がお分かり頂けたかと

思います。

ドライブ側に関しては過度なベルト落とし込みを行わない限りはまず発生しませんが、ドリブン側は少々

ややこしく、半クラ状態のあるなしによっても変化してしまうので、これも駆動系構成を考えるにあたっては

大変重要、と言いますか…何よりもまず一番先に考えておくべき点だと言う事ですね。



そして今回の本題とも言えるべき点なのですが、上記の様に「ベルトスリップを誘発する駆動系構成」の場合、

一体何がデメリットやトラブルとして発生してくるのか、と言う点についてご説明致しましょう。


まずは大前提として、駆動系の構成が常識的な範囲を超えている無茶苦茶な構成の場合は、私が

ご説明するまでもありませんが、真っ当な性能向上やパワーロスの低下などは不可能と言う事はお分かりかと

思います。


ちょっと話がズレますけども…ここでも勘違いしないで頂きたいのは、仮に駆動系構成の不備によるベルト

スリップや不具合を誘発し、そこでまともに前に進む感覚を取り戻したいが為にごり押しに近い手法で問題解決を

図るのはダメだ、と言う事を声を大にして言いたい訳でして。

これが、センタースプリング反力を過度にかける事により、ある程度改善された様に見えてしまうのがこの手の

手法の嫌な所なのですが…そもそもセンタースプリング反力と言うのは、私に言わせれば駆動系構成の

「オマケ」にしか過ぎないんです。


駆動系構成が正常な場合であれば、車重が重くエンジントルクも多大にあるエンジンの場合だと、トルクカムの

溝を前半45°とし、発進時の走行抵抗に対するトルクカムの効きを最大まで向上させても、それでもまだ

発進時にはベルト側圧が足らないという場合もありえますが、そこまで行って始めてセンタースプリングの

反力強化と言うものが必要になるんですよ。


「他の箇所で補い切れる」場合は、センタースプリングを過度に強化してもデメリットしかないのは少し前の

コンテンツで解説した通りなのですが、そもそもセンタースプリングなんてのは本当に最低限度の効きさえ

あれば良いのです。

具体的にはですね、私はこのパーツの「絶対に必要な役目」としては…



アイドリング〜クラッチイン〜ミートまでにベルトが過度にせり上がらない為の抑制や


駆動系の変速進行〜最大変速時に、「最低限度のベルトを張る力」があれば良い



…たったこれだけだと分析していますよ。

小難しく考えなくとも、トルクカムが100%の効きを発しない場合の補助にしか過ぎないんですね。


走行負荷が無く、ベルトを引く力も完全に0のエンジン停止状態でも、ある程度ベルトを「張っておく」為には

どうしてもセンタースプリングは必要ですよね?

無負荷空転状態でエンジンを回して駆動系の動作を見ても、走行時よりはベルトはぐわんぐわんとたわんで

いますよ。これも走行負荷がかかっていないのでベルトは本来の「張り」にはなっていないのですが、さすがに

センタースプリングが無いともっと酷い事になりますよ。安全な範囲で是非一度お試し下さいな(笑


…なので、センタースプリングで変速の特性をどうこう、というのは本来間違っているとも言えるんです。

(※最大変速時のベルトの張り、と言う点においてはトルクカム自体が効きすぎている場合はセンタースプリングは

必要無い位ですが、これはセンタースプリングがバネである以上、「縮みきった時に反力を無くす事は不可能」

なのでどうにもならない、というか出来ないんです)


私の言うセンタースプリング変更と言うのは、フルノーマルに対してでも、自身での使い方や体重、車重に

おいて、「適正な反力があるものなのかどうかの基準をまず決めよう」と言っているだけであり、最初に

エンジンパワーに対して適正なモノを選んでおけば、よっぽどエンジンの「トルク」やトルクカム溝を極度に変更

しない限りはセンタースプリングを交換する必要なんて無い筈なんです。

と言いますか、基準とする駆動系の構成を間違えていなければセンタースプリングを極端に変更するという

方向性には絶対にならないんですよ…


なので「タンデム前提車でタンデムしないのであれば確実にノーマルで反力過剰」とかになるのですが、

センタースプリング、これって少しでも強化すれば「変速全域において側圧が過剰」になると同義なので

発進加速等にセンタースプリングを勘定に入れてセッティングするのはそもそも大間違いなのです。

発進が上手い事行かないのであれば減速比、トルクカムの効きとクラッチイン、ミート周辺を見直すべきであり

「センタースプリングに頼れる」のは駆動系構成が大間違いな時のみ、という状況しかありえないんですね。



…多少以前のコンテンツと重複していますが、センタースプリングを過度に強化しても悪い方向への

誤魔化しにしかならないと言うのは今更ながらご説明するまでもありませんが。

で、ドライブ側ベルトが「明確な空転」をしている場合…発進〜完全クラッチミートまでの短い時間のみだと

しても、これは致命的なトラブルとなって症状に出る、と言う事をここで断言させて頂きましょう。


私、いくつか前のコンテンツにて駆動系の熱ダレについて解説したかと思いますが、この「タレ」の原因は

「ゴムで出来ているベルト」だとも言いましたよね。

…ここまでお読み下さった方であればもうお分かりかと思いますが、こういった風にベルトが一部でも無駄な

空転を起こしているのであれば


空転する部分に対しては異常な発熱が起こってしまい


その時点でベルトや駆動系パーツ共に極度の熱を持つ事になり


ベルト摺動面の摩擦係数の極端な低下を引き起こしてしまい


正常な変速、加速が阻害されてしまう「熱ダレ」を起こす


という結論になるのですよ。

何度も言いますが、これは「ベルトかかり径が変化し、変速=加速を進行させる為の最低限度」の

ベルトスリップではなく、明らかに過度なLVになるとこうなる、と言う事ですので。

変速進行うんぬんの前に、駆動系構成が無茶苦茶でまともに動作していない場合だと、正直いくら

「セッティング」を頑張っても、根本的な「熱ダレ」と呼ばれる物の改善にはならないのです。


そしてこれが通常の車両だと…発進加速ってのは何回、何十回も繰り返す物ですよね?

そんなベルト空転状態を、一度エンジンをかけてから止めるまでに繰り返しまくっていると、当然のごとく

駆動系はどんどん熱を持つ一方で、タレなんて出てきて当たり前なのです。


1度スタートすればゴールまで止まらないレースとかだと、こういった「停止&発進の無い走行中」でも

元々ドライブ側ベルトが無茶苦茶な位置にセットされていた場合、コーナーの立ち上がり等でアクセルを開け

「最小変速状態」近くにまで駆動系が戻った時には楽に空転を引き起こしているので、こういった場合でもタレの

原因の一つにはなるのですよ…


駆動系の「パーツ劣化」を除けば、タレの原因はほぼ100%、このベルトの側圧過剰や低下、摩擦係数の

激変により起こりえてしまう、と断言しても良いです。

…走り出してしばらくして「駆動系の温度が安定した状態」で「タレている」となれば、いろいろな所がおかしく

なっている事の証明にしか過ぎず、そこでセンタースプリングを過度に強化して安定を図ろうとしても

温度上昇による摩擦係数低下を側圧強化で補うこと自体が基本的に間違いですからね。

「起こってしまう症状に対して対処療法を施すのでは無く、ハナからその症状が起こらない様にする」ので

なくては本末転倒もいい所なんです。


これも以前と重複しますが、センタースプリングをアホみたいに強化しないとまともに走らないと言う事になれば

その時点で全てが間違っている、と私は分析していますよ。


色々な駆動系構成を試された事がある方であれば経験済みだと思いますが、おかしなセットを施した場合は

異常な程クランクケースカバーや駆動系パーツ単体が発熱しますよね?

これもバロメーターの一つで、ノーマル状態より極端に駆動系が発熱する事自体、「普通は」ありえません。

仮に全く触れない位に熱くなっているというのであれば、もうその時点で構成がおかしい上にタレを無くす事は

いくらセッティングを行ったとしても絶対に出来ないと言い切っても良いでしょう。


…ちなみに駆動力=ベルトを引く力に対してベルトへの側圧が過剰な場合、これもベルトをいじめるだけなので

あからさまに熱を持つ原因になります。

センタースプリング強化での熱ダレ防止、なんて本当の意味では逆効果である、と断言しても良いですよ。


私見ですが、きちんとした駆動系構成を作り上げる事が出来るのであれば、「全くタレない駆動系」

いうモノも作れるんです。

数時間サーキットを走ろうがツーリングをしようが、パーツ劣化以外の原因での明確なタレを無くす事は

十分出来ますから、「無茶をしない」と言う点を第一として色々と考えてみるのも面白いと思いますよ。


例えの一つとして、フルノーマル新車を買ってきて数時間走った場合でも、もっさりする程の明確なタレなんて

起こりえますか?リコールがかかる程の致命的欠陥がある車両なら別としても、普通はそんな事はまず

ありえないですよね。チューニングにおいてもその位は最低限度必要な水準なんですよ。

そもそも原因も追究せず、後付けのパーツで無茶ばっかりするからこそ駄目になるんだ、と言い切りましょう。

ノーマルのそれなりにバランスの取れた「セッティング」を上回るのは並大抵の事では無理です(断言


長くなりましたが、駆動系構成が異常な場合、加速や変速どうこう言う以前に、明確なタレの原因を引き起こして

いる事がほとんどだ、と言う事で締めさせて頂きますね。



・最後にまとめ


ではでは。

今回も長くなってしまいましたが、この辺でまとめさせて頂きましょう。


今回は前回に引き続き、変速比=減速比という物を交えましたが、まずはドライブ/ドリブンでの「最大減速比」の

無茶な増大を行う手法は絶対に駄目、って事が一番ですね。

だれが最初に言い出したのかは分かりませんが、ボスにベルト裏側が当たる程の落とし込みなんて

メカニズム的には本当に害悪にしか過ぎませんので、これを注意して頂きたいです。


…が、それだと

「じゃあそれよりもっと減速比を増大させたい場合は何も出来なくなってしまうじゃないか!」

と思われるでしょうが、これは簡単な話で。


そんな事は出来ないんです。


安定動作すべきメカニズムの限界を超えて最大減速比を稼ぐのは


「無理」です。


と。力の限り断言させて頂きます。


ベルト長を限界まで長く取り、ベルト落とし込み&せり上がりを常識的な範囲で最大減速比を上げていったとしても

数値的限界はどんな車両でも最大で「3」程度まで行ければ御の字だと私は考えています。

もちろん、元々のドライブ&ドリブンでの最大減速比が元々2.3とか2.4とかに設定されている車両だと、3位まで

減速比を増大させるのは不可能に近い「構成」なはずですからね。

「それ以上」はドライブ/ドリブンを根本的に作り直さない限りは絶対に不可能なんだ、と認識しなければ駄目です。

発進時にそれ以上のローギヤ状態が欲しいのなら、ファイナルギヤをローに取るかリヤタイヤ&ホイールを小径に

する等の手法しかありえないのですね。

一例としてはKN企画のヤマハ用ビッグセカンダリーとかであれば良い方向にも持って行けると思いますが。

…この辺、原付一種50cc用のクーリングシステムで100ccのエンジンを完璧に冷やせますか?って事と

同義になりますからね。

数値ではなく構成における「限界」を見極められないと、何をやっても無茶にしかならないですよ。


それともういっちょ、50ccフルノーマルエンジンでの「総減速比」も考えてみて下さい。

「総」減速比ですからドライブ/ドリブンの減速比とファイナルギヤの減速比の積なんですが…

エンジンをチューンしたり排気量を上げたりした場合、そのノーマルを上回る「総減速比」なんて

本当に必要ですか?

エンジンパワーや車重、タイヤ径に対しそこまでローギヤードに持って行っても意味があるのか?って事です。

そりゃアクセルオンでウイリーを連発したいのなら別ですが、それってホントに「速い」のですかね(笑


原付1種の最小変速状態での総減速比が「30」程度としても、10インチホイールの原付2種車だとパワーが

ある分、総減速比は「20」前後とかにまでハイギヤードになってますよね。

これを仮に1種並みのローギヤードな総減速比に振った所で…メリットなんてあると思います?

そりゃデチューンを無くす程度の多少のローギヤ化であれば良いですが、総減速比を1種の様なローギヤに

近づけたとしても、アクセル開けた瞬間にサオ立ちする位しかメリット(?)はありません。

どこかで書きましたが、普通のミッション車で死ぬほどエンジンパワーが上がった場合、1速発進を行うのと

2速発進とでの「低速域の加速」ではどっちが速いんだ、って話にも繋がります。

そもそも、「サオ立ちまで浮いたらそれ上アクセル開けられない&開けても意味無い」って事もありますしね。

ちょっとアクセル開けただけでポンポンフロント浮いてるのとかを見ると、一体「何の為に」最大減速比を

稼いでいるのか、私にしてみればさっぱりワケが分かりませんよ。


そして…ドライブ側で確実にベルトスリップが存在している駄目駆動系の場合、数値的に減速比を

増大させた程には実際のローギヤード発進は成功していない事が多々あります、というか…

私の経験上、そんな無茶をやってる車両だとサオ立ちしてもおかしくないはずなのに、実際は半クラが

ほとんどなくてベルトだだ滑りな上に唸るだけで走らない、って物しか見た事ありませんしね。

特に「最大減速比」においてはやりすぎたって意味が無い事に気付かないと駄目です(断言


そしてドリブン側の動作不良が原因となるトラブル、クラッチイン〜ミート時の半クラ無し状態も同じで、

こういったところに無理がある場合は性能やセッティングがどうこうってLVですら無いのです。

不具合満載の駆動系をいくら調整した所で、伝達効率の向上や発熱が少ないタレの無い状態になんて

絶対に出来るワケがありませんからね。


もっとも、「駆動系でのパワー伝達ロス」に関してはこれらだけが原因ではありませんが、今回はあくまで

無茶な仕様での明らかな無駄のみのご紹介と言う事で…他の点までここで書くとまた終わりが見えなく

なるのでまたの機会にしますが、今回のコンテンツで私が言いたい事は



1:ボスがベルトに当たる程に余裕の無い「ベルト落とし込み」の構成は駄目

2:トルクカム「閉じ側」の動作の余裕が無い構成も駄目


3:ベルトは潰れる物なのでその余裕を持たせるのが大事・さもなくば本当に空転を引き起こす

4:「無負荷状態でのベルトの張り」を気にしても無意味・走行負荷が無いとベルトは張らない物


5:半クラッチが全く無い場合はベルトがだだ滑りであり、駆動ロスはかなり大きい

6:「空転と言う意味でのベルトスリップ」が大きすぎる場合は明確なタレの原因になる



こんな感じになりますね。

当たり前の様に蔓延している手法でも、間違いって多いと私は分析していますよ。


…私が一番悲しいのは、雑誌やWEBにてご高名な方々や有名なチューナーの方でも、この様な間違った

手法を取り入れてしまってエンジンや車体作りを行われている事が見えてしまう、って事なんです(泣

それだけ間違っている事に気付きにくい、そして分かりづらいと言う事は大いにあるかと思うのですけれども

駆動系なんてのは元々難しいモノですからそうなるのもやむなしかなとは思います…


ですが、それを乗り越えられるかどうか、もしくは分析すべき点を見極める能力を鍛える事も、上を目指す

「チューナー」であれば必須だと思いますので、私の分析も参考にして頂けると嬉しいですよ。

「駆動系とは本当に難しいモノである」と言う事も再認識出来るキッカケになれば、と思っております。




…が、綺麗事を並べても今回はさすがに敵が増えたかな、と思いますけれどね(笑

反論があるなら是非どうぞ、としか私には言えませんが、今回は最後まで読んで頂けた方であれば

きちんと理論を納得して頂けると信じていますよ。



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