エンジンの「トルク」と「馬力(パワー)」について



さてさて、今回はですね、よく言われる「トルク」「馬力(パワー)」について解説してみましょう。

これ、よく表現としては「トルクがある」とか「パワーがある」といった表現が使われますが、これは実際には

きっちりとした定義がありまして、ちゃんと理解しておかないとエンジン特性を変更するにあたり、何がどうなると

いった方向性を見極めづらい、といった事もある、ある意味基本でもありますがとても大切な事だったりします。


もちろん、この件の解説はいくらでもWEBに溢れていますんで、今回はそれらをスクーターに生かす為の要素も

取り入れた上での、私流の解説を行っていきたいと思います。



※一応ページ内リンクの目次を付けておきます。




・「トルク」と「馬力」の定義


さて、まず最初に一番大切な事をお話しておきます。

一般的に、と言いますか、サービスマニュアルやエンジンの仕様緒元表では、エンジンの性能の表記として


最大トルク 「6250rpm/0.81kg-m」


最大出力 「6500rpm/7.2ps」


といった風に表記していますよね。

ちなみにこの数値はライブDio-ZXの物になりますが、今回はこの数値を一応の教材としてお話を進めます。

(※現在だとps表記ではなくkw表記もありますが、ここではps表記を用います)


まずはこの2つの数値ですが、これは皆さんご存知の通り、前者が「最大トルク」で、後者が「最大出力」

なるのですが、簡単な所で「出力(kw)」は「ps=馬力(パワー)」と同義となります。


※以下は全て「出力(kw)=馬力(ps)=パワー」といった意味合いとして同義とします

※「最大出力」は「ピークパワー」と表記しますがこれは「パワーピーク」でも同義とします

※「最大トルク」は「ピークトルク」と表記しますがこれは「トルクピーク」でも同義とします


「トルク」というのは、実はこちらがエンジンの「力」とも言える数値でして、トルクカムの項目でも少しお話をして

いますが、エンジンの場合は「クランク軸に働く力の値」なので、クランクシャフトを回そうとしている力である、と

イメージ的に解釈すれば良いでしょう。


現実的なイメージとしては、トルクレンチでプリセットを上記の0.8kg-m程度に合わせ、そのプリセットにてボルトに

掛けている「力」をイメージすれば分かりやすいかと。

(※トルクレンチの場合はプリセット単位が「Nm」である事が多いですがこれは脳内変換して下さい)

で、単純にエンジン、というかクランクシャフトが「回される力」の場合はこれと逆で、「軸」から発生する力にて

トルクレンチの「柄」の部分が「回されている」と考えればイメージも掴みやすいかと思いますよ。


もちろん、「クランクシャフト中心部で0.8kg-mの力が発生している」という事は、中心から半径1mの点において

「0.8kg=800gのオモリが付いていてもそれを回せる力」だという事になります。


これが仮に、最少変速状態のドライブ側ベルトかかり径が「40φ」の場合だと、クランクシャフト中心からは20oの

所になるので


ベルトかかり半径20oの点:1000oの50分の1の所なので

そこに掛かるトルク値は0.8(kg-m)x50倍=「40kg-m」


となります。この例はドライブ側プーリーがベルトを引く力、といった事で過去に紹介した一例と同じです。

「0.8kg-mのトルクを出しているエンジン(クランクシャフト)であれば、ベルトかかり径40φの所を40kg-mの力で

回転方向へ引いている」という事ですね。

こう考えれば、クランクシャフトを回している力が、プーリーを回している力になり、そこに掛かっているベルトが

どの程度の力で「引かれているのか」の数値にもなるんですよ。

…が、この辺は私が解説するよりも教科書とか参考書とかの方が分かりやすいのである程度割愛します(汗


と、大雑把に絵で書いてみますと…


「トルク」とはピストンを叩きクランクを回す「力」である


こんな感じでしょうか。

実際にはちょっと違いますが、「ピストンを叩く力≒トルク」と考えても良いでしょう。

ピストンを強い力で叩けば、クランクシャフトも強い力で回せる、という、至極単純な事なんですね。

が、これは完全にイコールでは無いので、まずは「トルク」というイメージ作りの一例としてお考え下さい。



さて、とりあえず「トルク」という「力」についての定義はおおむねこんな所ですが、次に「馬力=パワー」の定義を

解説してみましょう。


まず、この「馬力」という単語については皆さんも会話等で多数使われるかと思いますが、意味合いとしては結構

難しい、と言いますかイメージしにくいものなんですよね(汗

この馬力というか出力ってやつは、「トルク×回転数」の「仕事量」なんですよ。

大雑把に言いますと、「同一時間内にて、より多くの動作を行える」とでも言いますか、「物理的な力」だけではなく

「時間」も絡んでくるんです。

同一時間内でどれだけの動作を起こせるか、または同一の力でいかに早い時間で動作を完了するか、ですね。


これはですね、「馬力=ps」というものは、一応はトルク×回転数に係数を掛けて求めるものなのですが…

私、この係数ってのは上手く説明出来ないので嫌いなのですがこの件に限っては使用せざるを得ないので

とりあえずは一般的な「出力の求め方」のご紹介としますね。


クランクを回す力である「トルク値」と、それが「エンジン何回転」で発生しているかの両者を掛け合わせる場合、

計算式は


(トルク値"kg-m"×エンジン回転数"rpm")/716=出力"ps"


こうなります。


※注:本来は最大「出力」が「何ps(馬力)」って表記はおかしいので…99年以降は「kw表示」が義務になってます。

電気に例えると「100Vの力」で「15Aの量」を流すと「出力は1500w(1.5kw=2ps程度)」ってのと同じ感じですね。



で、上記のライブDioZXの場合だと…諸元表にて「トルク値」と「それを発生する回転数」が判明しているのは

最大トルク 「6250rpm/0.81kg-m」

こちらの「最大トルク」を発生している表記になりますよね。そしてこれを上記の計算式にて「出力」を算出すると


(0.81×6250)/716=7.07053…ps


といった解となります。


…と、ここで違和感のある方もおられるかとは思いますが。

上記のエンジン特性だと、「最大トルク」を発揮する回転数と「最大出力」を発揮する回転数というのは異なって

いますよね?その上で「最大トルク」を発生する時点での「最大出力」を計算すると、明らかに低い数値です。

これは


「最大トルク」を発生している回転数が「最大出力」を発生している訳では無い


という事なんですね。


で、これがどういう事なのかを大雑把に言いますと、仮に最大トルク発生回転数の6250rpmで変速する様に

WRを調整したものと、最大出力発生回転数の6500rpmでの変速に調整したものとでは、「クランクを回す力」が

一見すると大きい6250rpmでの変速よりも、エンジン自体の仕事量=「出力」の大きい6500rpm変速の方が、

「加速力に優れる」んですよ。


これは簡単な話で、仮に「10kg-m」のトルクを発生させる、という強力なエンジンがあったとしましょう。

このエンジンにて、ライブDio-ZXの最大出力と同等値である「7.2ps」を発揮させるには


(10"kg-m"×515.52"rpm")/716=7.2"ps"


と、こうなります。

わずか515.52rpmの回転数で、「10kg-m」のトルクを発生させれば良い訳ですが…実際には「どこの回転域」にて

最大トルクを発生させるかがエンジンの構成やチャンバー等の仕事であるのは言うまでもありませんが、実際に

ノーマルエンジンべースにてこんな特性を持たせるのは不可能ですが(笑

(こんな極端な特性は50ccの何十倍もの巨大排気量でもないと不可能です)


で、このわずが「1分間に515回転程度のエンジン回転数」で変速させる様にWRを調整したとすれば…

「6500rpm/7.2ps」の特性を持つエンジンと比較して、どちらが加速力に優れそうですか?って事です(笑

ギヤ比や駆動系構成を大幅に見直さない限り、いくら「力」が強くとも、たった毎分515回転しかクランクが回らずに

いるのでは、「出力」自体が同程度でもまったくもって「加速力」には繋がらない、とも言えるんですね。

そういう特性だと、ノーマルに比べ死ぬほどハイギヤな減速比をこしらえないと加速力には繋がりません。

(※この辺は「後輪駆動力」と「走行抵抗」に絡んできますがこの辺はまた後々に)


と、一つの例えで、「トルク」という力にて…仮に0.81kg-mを発生するとすれば、810gの重さの物体に対して

それを「動かす事の出来る力」といった事なのですが、仮にその「810gの物体を1m移動させる」という

事を行う場合、これを「1分間に何回行えるか」となれば、これは「力」の強い弱いだけでは把握出来ませんよね。


で、上記の一例は「出力が同じでトルク値・ピークパワー発生回転数が異なる」場合ですが、「仕事量」ってのは

同一でもその内訳が異なると大きく特性も異なってくる、という事をまず念頭において頂きたく思いますよ。



そして、今度は逆に「最大出力」の表記からその回転数での「発生トルク値」を求めてみましょう。

これはさっきの式と逆になるだけで、「6500rpm/7.2ps」の場合であれば


(7.2"ps"×716)/6500"rpm"=0.7931…kg-m


となりますね。

すなわち、最大出力7.2psを発揮している6500rpmの時点では、


最大トルクは「6500rpm/0.793kg-m」まで低下している


のです。


ちょっと分かりづらいかもしれませんが、そうなっていないとこれはおかしいと言いますか、メーカーの発表値と

合致しませんし、これはライブDio-ZXに限らず、どんな車やバイクでも計算してみると解に納得出来ますので

是非皆さんも一度お試し下さいな。


これが仮に、「6500rpmでもトルクのピークが過ぎず、6250rpm時と同等のトルクを発生している」とすれば…

(0.81"kg-m"×6500"rpm")/716=7.3533…"ps"と、こうなってしまい7.2psを上回ってしまいます(笑

もちろん、現実問題としてはこうなっていてもおかしく無いのですが、定義としてはこういうモノである、といった

所を誤解無き様にお願い致しますね。

(※こんな場合の具体的な一例は後述します)


そしてさっきの逆で、超高回転型エンジンで「20000rpm/7.2ps」といったエンジンがあるとします。

この場合だと、20000rpm時点で発生しているトルク値は


(7.2"ps"/716)×20000"rpm"=0.2577…"kg-m"


となっています。

しかしこの場合だと、いくら出力が高くとも、軸に発生しているトルク自体はかなり小さいので、これまた実際に

「出力」は同じでも、加速に繋がるかといえばそうでは無い事もお分かりかなと思います。

いくらなんでもクランクを回す力がノーマルの3分の1以下では発進すら出来ないでしょうし(笑

ピーク時の20000rpmでクラッチインさせられるならば不可能では無いと思いますが、そんなの無理ですしね。


とまあ、先述のものとあわせて極端な一例ですが、「トルク」と「出力」は別物である、という事で。

「トルクがある」とか「パワーがある」といった表現もよく聞きますが、これはある意味曖昧な表現であるといった

事をまず最初にご理解頂ければ、と思いますよ。


・「ピークトルク回転数」と「パワーバンド」について


さて、ここからは少し実用的な面である、エンジンの出力特性の表現である、「パワーバンド」について

ご説明します。


まず、このパワーバンドという表現ですが、これは皆さんもご存知の様に、エンジンの回転数において


「実用的な出力が持続してくれる回転"域"」


なんですね。

ちなみに「最大出力を発生する回転"数"」は、「ピークパワー回転数」としておきましょう。


で、ここでも教材のライブDio-ZXのノーマル車を出しますが、この車両だと有効パワーバンド域としてはおおむね

「6000〜7500rpm程度」となっています。

が、4000rpmでクラッチインしてそれなりに発進はしますし、その時点では結構出力は低いと思いますが、それでも

発進が出来ない程の低出力では無いという「パワーバンド以下の回転数でも極端に出力が落ちない」

というノーマル設計なので、「実際に変速回転数として使用可能な実用パワーバンド域」ってのはこんなもんだ、と

お考え下さいな。


と、ここで一つ、ライブDio-ZXの物ではありませんが性能曲線図をご覧下さい。

双方の赤線の枠内が、変速回転数に設定してもOKなLVの「出力」を発生している「パワーバンド」になります。


他車のグラフなので最大トルクが0.8kg-mに達していませんが(汗


これ、JOGのグラフなのでちょっと上記のライブの特性とは異なりますが、基本的には似通っているのである程度

グラフの「山」を脳内変換して下さいな。

ちなみにスキャンじゃないのはめんどくさかったからで(以下略


で、「最大トルク」を発生している「ピークトルク回転数」というのが先述の「6250rpm」でして、それに対し

「最大出力」を発生している「ピークパワー回転数」は「6500rpm」になっています。

もちろん、これはわずかな差ではあるのですが…実際にはこのパワーバンド内の一番「出力」が高い回転数に

「変速回転数」を合わせないと、加速力まで鈍ってしまうと言う事はお分かりかと思います。


別に変速回転数は6000rpmでも7000rpmでも、大してピークパワーからは外れないのでそれなりには加速力も

維持出来ますが、それはノーマルの様なパワーバンドが「広い」回転域に渡って存在する仕様だからであり、少し

チューンをしたりするとパワーバンドが狭くなり、途端に難しくなってしまう事も多々ありますね。


なおこれも昔ちらほら耳にしたのですが、「ノーマルエンジンの"ピークトルク回転数"で変速させた方が

加速力が良い」とかって説がありました。

が、ココを読まれた方ならもうお分かりかと思いますが、そんな事をしても全く意味はなく、わざわざ「出力」の

低い所で変速させているに過ぎないので、ピーク出力時よりアンダーパワーな所での変速だと、加速力が良くなる

ハズがないんですよ。


もうちょっと極端な例を出しますと、車のターボ車とかだと「3000rpm/40kg-m」を発揮した上で、最大出力が

「6000rpm/280ps」とかってのもありますが、これだと一番「トルク」があるのは3000rpmになりますが…仮に

トランスミッションが1速シフトアップしても100rpmも回転数が落ち込まないウルトラクロスで素敵な物だったとして、

「最大の加速力」をもって走らせようとすればその3000rpmで順次シフトアップしていくんですか?って事です(笑

当然、そんな走り方をしても限界性能での高加速力は得られません。


で、これをあえてやっているのが原付ニ種ノーマルに多いですが、ユーザー層を考えたメーカーの味付けですし

その辺は今回論じるべき点では無いので割愛します。



とはいえ、この「パワーバンド、ピークパワーがどこにあるのか」はエンジンの個体差にもよりけりで、一つの例で

排気タイミングがクランク角度で数°異なるだけでも、最大出力を発生する回転数は平気で数百回転もズレたり

してしまいますから、まずは自身のエンジンの一番「パワー」の出ている

「最大出力=ピークパワー発生回転数」

を見極めるのが大切です。


ちなみにこの判別ってのは簡単で、ある程度重めのWRを投入して最大変速する速度域まで加速し、そこからは

じっくりタコメーターを凝視し、体感で一番「ぐいっ」と加速していく回転数を判断すれば良いだけです(笑

なおスクーターの場合は普通のMT車と違い、最大変速後で無いと明確な回転上昇は始まらないのが基本

なので、こういったで手法でしかピークパワー回転数を判断する事は出来ません。

そうしないと、適当に見当つけたWRをぶちこみ、実際に加速が良い所が出るまで何度も試しまくって走らないと

いけませんから。

それはある程度エンジン特性を把握した後に行うべき微調整で、始めに明確にパワーバンド特性が分からない

のであれば、いきなり最初からやるべき手法では無かったりします。


で…もちろんのごとく、駆動系構成がおかしくて変速中にエンジン回転数が激しく上昇する様な構成であれば、

おそらく一生かかっても「最大出力を発揮する回転数=一番おいしい所」というものは見極められませんよ。

なので、「変速回転数を一定に出来ていない駆動系構成」ってのはこういった面でも不利なんです。

変速回転数が安定せずぐちゃぐちゃなのに、それの体感でこの位が一番パワーが出ている、なんてのはアテに

ならんにも程がありますから。そんな事私でも無理で(以下略


なので、初心者さんにありがちな「ノーマルエンジンだとWRは何gが一番良いのか」なんて事は、少なくとも

エンジンの製造誤差が無く全く同一でもない限り、アドバイスのしようが無いんですよ、って事です。

ちょろっといじくったりするのでも、デジタルタコメーターが無いとドツボにはまるというのは誇張ではありません。


何か一つでも駆動系パーツを変更してみて、「変速回転数が変動しているかどうかすら分からない」のでは

セッティングがどうこう、なんて出来るワケがありませんし。

もちろん、タコ無しでのソフトないじり具合の変化を楽しむのを否定する訳ではありませんが、タコあった方が

色々と楽しいですし、くだらん遠回りをしなくて済む、とは断言出来ます。


…もっとはっきり言いますと、あまり経験の無い方の場合、正確なエンジン回転数の情報すら無い状態から

きちんとした特性を把握したり、パワーバンドを見極めたり変速回転数が変動しているかどうか、といった事を

正確に判断する事自体がそもそも出来ないですよね。

さっきも書きましたが、これは初心者の方を馬鹿にするのではなく、「熟練者でも体感だけに頼るのは愚の骨頂」

というのが鉄則なので、そういった意味でも「自身に入ってくる情報」が少ない状態で試行錯誤してもあまり意味は

無い、と言わせて頂きます。


で、チャンバーメーカーさんとかであれば、おおむねノーマルに自社のチャンバーをくっつけると何回転程度に

パワーのピークが来るかを知っているので、そこで変速させるにはだいたいWRは何g、といった事も言えますが

ちょっと気の利いてるメーカーさんならば、「何rpm程度にピークが来るからその辺で変速する様に合わせろ」と

いった指定になっていたりします。

「何回転位で変速させろ」とは言えますが「何gのWRで変速させろ」なんて事は本来ならば迂闊には

言えないモノなんですよ。

ある程度でもそれが言えるとすれば、個体差の少ない新車時かそれにごく近い車両のみですから。

だからこそ、他メーカーのパーツ等を混在させての使用はやめて下さい、ってなっているんですね。


…当然のごとく、自社のチャンバーをノーマルエンジンにくっつければ何回転位がピークなのかすら答えられない、

といった事があれば、もはや何を考えてチャンバー作っているのか分からないLVで(以下略



次に、ちょっと話を戻しまして…先述のライブDio-ZXのノーマル車の出力特性ですが。

先にメーカー発表値の値を出しましたが、これをちょっとしたグラフにしてみました。


適当ですが、前述の出力特性にて「判明している値」を基準とし、

6250rpm/0.81kg-mから6500rpm/0.793kg-mまでの「250rpmで

トルク値が0.017kg-m低下する」といった特性と仮定し、その上で

6250rpmをピークトルク回転数とし、上にも下にも「トルク値の変化」を

回転数に比例させて行ってみた数値の表となります。



すなわち、ピークトルクが6250rpmで最大値の「0.81kg-m」ですが、そこから下の回転は250rpmごとにトルクが

0.017kg-mずつ下がっていき、上の回転でも同等の比率で下がっていくと言う仮定ですね。


もちろんこれは一般的なエンジンの「特性」を加味しており、ピークトルク回転数から上はいくら回転数を上げても

発生トルク値は下がっていく、という至極当然の現象を、「一定比率」と仮定して表したモノです。

実際にはピークトルク回転数を過ぎるとこんなもんじゃなくもっとガクっと落ち込んでると思いますけれども

まずは勉強の過程の仮定の話なので(笑

あ、実際には「最大トルク発生回転数」と「最大出力発生回転数」が同一回転数のエンジンもあったりしますよ。


…とまあ、説明しづらいですが、次のグラフも合わせてご覧下さい。


2軸グラフy1=トルクy2=出力x=回転数



図中の赤点の6500rpmが、最大出力の7.2psを発揮している箇所になります。

ここが最大出力、パワーのピーク回転数ですが、「トルク」のピークはそのもう少し前の6250rpm点なので、

そこを頂点として「トルク値」が上にも下にも均等に下がっていっている状態を表しました。


で…このグラフを見て、何か気付く点がありますよね?

そうです、「ピークトルク回転数」である6250rpmを超え、そこから徐々にトルクが低下していくとしても

「最大出力」はさほど極端に低下していっていないんですよ。

むしろ、エンジン回転数に比例して「トルク」を下げていっても「出力」は上がっていますよね。


とはいえ、前述の様に、本来ならピークトルクの6250rpmを超えきった7000rpmの時点では、トルク値の低下は

0.051kg-m程度ではなく、もっと低下しているかと思いますが…ここで言いたいのは、



「ピークトルク発生回転数」を過ぎ


多少「トルク値」が低下傾向になっていっても


それに伴う「エンジン回転数」が高回転であればある程


「最大出力」の落ち込みも少なくなる



と言う事なんです。


上記のライブDio-ZXのノーマル特性でも、FN仕様とかであればフルノーマルエンジンに対して7000rpm程度での

変速回転数をセットしたりしますが、実際にそのセットで加速力が鈍るかと言えばそうではなく、意外と言っては

何ですが、そっちの方が加速力に優れるからこその手法なんですね。


もちろん、上記の表の様に「7000rpm/7.42ps」を発揮している、と断言は出来ませんが、私の経験と分析では

ライブDio-ZXの場合、きちんとセットしたFN車両であればこの位の出力は出ていると確信しています。

が、どんな車両にもこれが当てはまると言う訳ではなく、3YKのJOGなんかは逆に、7000rpmのピークパワーを

過ぎると途端にトルク値が低下して行っているきらいもあるので、その辺の見極めこそがエンジンの「特性」を

判断する、と言う事になりますね。


と、ちょっと話がずれましたが…

実際のエンジンの場合だと、ピークトルクを過ぎ、ピークパワーにて最大出力を発揮する回転数を越えた後は

2stである以上、一気に発生トルクが下がっていってしまいますから、実際にはライブDio-ZXの場合では下記の

グラフの様な特性になっている、と分析しています。


2軸グラフy1=トルクy2=出力x=回転数・7250rpmからトルクががつんと低下



おおむねこんな感じでしょうか。

7000rpmオーバー後は7250rpm時点では0.017kg-mではなく0.059kg-m、7500rpm時点ではさらに0.05kg-mの

トルク低下を起こしている、と仮定した場合のグラフになります。

6250rpmをトルク発生の頂点とし、下は5500rpm、上は7000rpmまで「同等の比率(250rpmで0.17kg-m)」にて

トルクを下げていき、7250rpm以降はトルクがガタ落ちする、といった現実的なグラフになりますね。


こんな特性だと、さすがにピークパワー(7000rpm)を超えた後の回転数では出力もそれなりに低下してしまいます。

最初に、ライブDio-ZXの有効パワーバンド回転数は約6000〜7500rpmだとしましたが、実際には6000rpmでも

7500rpmでも、ピークパワーに対しては下回る「出力」しか出ていない、といった解釈でOKかと。

そこは「パワーバンド」からは外れていないが、「最大出力」ではないと言う事です。



ここで大事なのは、実際に前述の方法にて「最大出力を発生している回転数」を見極めたとし、それを当面の

基準とするとしても、一度はその前後500rpm程度には細かく変速回転数を振ってやり、本当にその回転数が

一番エンジンの出力を最高に発揮しているかどうかを確認するのが必須、と言う事です。


もちろん、適当にあわせてこの位で良いや、って人はなかなかおられないとは思いますが、それとは逆に、

よほどピーキーなレーシングエンジンでも無い限り、2、300rpm程度は変速回転数がピークからずれても

さほど違和感無く走るモノですが(笑

特に、エンジン自体を高回転型にしても、チャンバーがノーマルマフラーであれば、それ自体パワーバンドが

狭くなりづらい方向性なので、多少変速回転数がずれていても走ったりしますからね。



が、ここでも私の持論の一つで、「変速回転数は極力、パワーバンドの上の方にセットすべし」というのが

ありますが、これも上のグラフを見て頂ければ分かる通り、「パワーバンドの下限気味」にセットした場合だと、

多少オーバーレブさせるよりもはるかに「出力の低下傾向が大きい=加速力が低下する」からなんですよ。

出力というものはトルク×回転数なので、多少のトルク低下に加え回転数もダウンすると「仕事量」はかなり

低下してしまいます。

(理想は寸分の狂いも無くピークパワー回転数を外さない変速回転数が一番ですが)


通常、ピークから多少オーバー気味な変速回転数ではあまり困る事はありませんが、アンダー気味だと実際の

走行において、アクセル開度を小さくして加速する時等にはあからさまにパワーバンド手前の回転域で変速を

行って加速していってしまう、といった事にもなりかねず、そういう意味の「余裕」を持たせたセットでもある、と

いう事です。


…これもちと言葉が悪いですが、WRを重めにし理想の変速回転数より低い回転数でどうたらこうたら、といった

説もありますが、そんな事をしても全く意味が無いどころか逆効果にしかなっていない、と言う事もお分かりかとも。

特に、パワーバンドを外れると一気にトルクの無くなる原付一種の場合は致命的とも言って良いでしょうね。


そういう「わざと駆動系での効率を抑える」特性のセッティングを施したいのであれば、これもある意味簡単な話で、


「アクセル全開加速の場合はパワーバンド上限近い変速回転数」に

セットした上で

「アクセルの開度を小さくし、少し変速回転数を下げて走れば良い」


たったこれだけの話なんですよ(笑

わざわざアクセル全開時にピークパワー付近を外した変速にし、上り坂や急加速時の余裕を無くしても何の意味も

ありませんからね。


バイクってのは特に、このスクーターってヤツでも人間の「コントロール」にて特性を変えてやる事はある程度

可能ですから、何でもかんでも全開基準で合わせていると、他の所の「余裕」ってものも無くなってしまうと

いう事も覚えておかれると宜しいかと思います。

私がいつも言っている通り、アクセル全開時とハーフ時でも変速回転数は異なりますし、アクセルと言う物は

そういった点をコントロールする為の装置であり、「スイッチ」ではありませんからね。



で、上記のライブDio-ZXのパワーグラフその2であれば、私ならきっちりと「7000rpm/7.42ps」での変速に

セットしますし、この場合だとアクセル全開時の変速回転数として使えるのは6500rpm強〜7000rpm強程度

までしかありませんしね。

最初に書いた「6000〜7500rpmパワーバンド」の中でさらに「ピーク気味の出力を持続出来ている部分」となれば、

わずか500rpm分程度しか存在しない、という事にもなりますから、ワンランク上の見極めが大切と言う事です。


ちなみにこれが原付2種とか大排気量の場合は、多少有効パワーバンドを外していたとしても、もっさりして全く

走らないLVにまでは「出力」って落ち込まないので、アンダーパワーであればある程、変速回転数の変動や

ピークパワーの見極めミスは許されなくなってくる、というのが真理って一面もあります。

…仮に、元々10psあるエンジンの車体が、パワーバンド外して9ps程度の加速になったとしてもそれが遅すぎて

おかしくてしょうがないとは思いにくいでしょ?って事で。

「何も知らず」に原付2種のノーマルに乗るとしても、そこで大きな違和感を感じる人はなかなか居ないですしね。



「トルク型エンジン」という言葉について


と、あえてノーマルエンジンのパワーグラフを元に解説してきましたが、おおむね「トルク」と「パワー」の

関係性というもの、そして「ピークトルク」と「ピークパワー」の違いについては把握されたかと思います。

では次に、巷でよく言われる「トルク型エンジン」といった言葉について少し突っ込んでみましょう。


さて、この「トルク型」って言葉ですが…まずは私の意見をはっきり言っておきますが、私個人としてはこの

「トルク型エンジン」って言い方はあまり好きでは無いんですよね。

便宜上、「同一回転域のパワーバンドが存在するエンジン同士での、パワーバンド内の力の比較」といった

場合にはこの言葉を使う事もありますが、本来は「パワー」が違うと言うべきだと思います。


で、これは別に言葉の揚げ足を取ろうという事では無くてですね、これはちょっとおかしな風味の認識が

世の中に広まっているのかな、と思うフシが度々あるからなんですよ。


あくまで、私の知る限りでの一般的には、「トルク型エンジン」といわれるものの特性としては、


「クラッチインの瞬間や、パワーバンドに入るまでの回転域の力強さ」


と、


「比較的低回転でのピークパワーの発生」


このどちらか、もしくは両方を併せ持つエンジン特性を表現していると感じています。


が…こういう事象に限って言えばちょっとおかしな話で、ちょっと極端な話ですが「比較的高回転で」ピークパワーを

発生する、高回転側にパワーのピークがある特性は「高回転型エンジン」といわれる特性のはずですが、

それと比較してある程度低めの回転域にてピークパワーが発生するのであれば、「中回転型エンジン」とでも

言うのが正確なのではないか、と考えています。


そして、「トルク型」といえば「力がある」といった事を連想するかと思いますが、これもおかしな話で、実際に

「6000rpm/7.2ps」を発揮しているエンジンがあるとして、これを「10000rpm/7.2ps」を発揮しているエンジンと

比較しても、実際にはピークパワー発生回転数での出力って同等なのですから、きちんと最大出力にて

変速させた上での全開加速であれば、どっちが「力がある」なんて表現出来ないんですよ。


もちろん、上記の二例であれば6000rpmにて7.2psを発揮しているエンジンの方が、「トルク値」そのものは

勝っていないといけませんが、だからといってそれが「トルクがある」と表現するのはおかしいと私は思います。

一般的に言われている「トルクがある」とか「トルク型特性」ってのは、単純にパワーバンド以下の回転数でも

そこそこ力があるか、さほど高回転でピークを発生していないだけの特性である、と解釈すべきでは無いかと。


そして、これって至極単純に言えば、


パワーバンドが「下」に向かって広めで、なおかつ


高めの回転数ではピークパワーを発生「しない」エンジン特性


だという、たったこれだけの話だと思いますよ。要はノーマルみたいなもんです。

もちろん、パワーバンドが広いのはデメリットにはなりませんし、なおかつ低回転でそれなりの出力を発揮して

いるのであれば、トルク値はそれなりに大きいのは分かりますが、だからといってそれをトルク型、といった

表現を行うのはちょっとおかしいかな、と私は考えますね。

…だからなんなんだ、と言われると何でもねえ、としか言えませんが、せっかく今回は「エンジンのトルク」ってモノを

だらだらと解説したのでそのおまけ、って事で(笑



で、それを言うならば、高回転でパワーがピークになるエンジンだと「トルク」ってのは小さくないとダメなのか、

って話にもなるんですが、実際にはそんな事ありません。

上記の様に、「最大出力」が同等値であるならば、クランクシャフトで発生するトルク値ってのは双方を比較した

場合のみに限っては低・中回転型のエンジンの方が大きくなりますが、上記の回転数上昇とトルク値減衰の

簡易グラフでもお分かりの通り、エンジン回転数に対し可能な限り高回転側で最大トルクを発揮する方が

「高出力」ってのははるかに出しやすいんですよ。

低・中回転域にて最大トルクを発生するとしたグラフも作ってみればよく分かります。


が、ここで勘違いしてはいけないのは、「回さなければ出力が高くならない」のではなく、


「ピストンを叩く力(トルク)」が最大になる「回転数」を



可能な限り「高い」回転数に設定する



と、これが一番大切なんですね。


とはいえ、これは実質はチャンバーの性能と特性で8割方決定されるものですから、2stではいかにチャンバーの

「特性」が大切か、という事にもなります。

「回して稼ぐ」のではなく、「元々そこにパワーのピークがある」という事で、これを決めるのはチャンバーですので。


仮に、上記のライブ-DioZXのノーマルマフラーの充填効率で発生する最大トルクってのは「0.81kg-m」ですが、

これが仮に、「10000rpm」にてその「最大トルク値」を発揮したらどうなると思います?

そうです、これは簡単な話で、「(0.81×10000)/716=11.31ps」を発揮する、ってだけの事ですね。


で、これだけを見ると結構な高出力に見えるかと思いますが、仮にこれだけの「出力」を発生させるとすれば、

ノーマルマフラーの「充填効率」をそのままで、それを「発生する回転数」のみを引き上げてやっても良いんです。

別に「ピストンを叩く力」を大きくしなくとも高出力は出せる、とも言えるんですよ。


とはいえ、仮にそんなチャンバーを作れと言われてもそう簡単には行かないものですが、ここで私が言いたいのは

仮にノーマルマフラー程度の混合気充填効率でも、それを「高い回転数」で発生してやれば出力はかなり

増大する、という事なんですね。

言葉を換えれば、ピストンを叩く力が同等でも、出力は上がるとも言えます。


そして、この出力値、「11.31ps」を、今度は最大出力が出ているピークパワー回転数はノーマルと変化させず、

6500rpmで同等の出力を出そうとすれば、必要なトルク値は「(11.31×716)/6500=1.245…」となり、

実に「1.24kg-m」もの高トルクが必要になってしまいますね。


これだと普通に原付ニ種で100ccとかの車両でも最大発生トルクは1.0〜1.1kg-m程度ですから、それをさらに

上回る事は、かなり込み入ったチューンを行わなければまず不可能になります。

と言うか50ccの排気量のままではまず無理でしょう。

教材として出しているライブDio-ZXでも2st原付一種スクーターではダントツの数値ですが、これが3YK-JOGや

AF28スーパーDio-ZXだとわずか「0.74kg-m」程度ですので。


具体的な一例を出しますと、仮にノーマルマフラーと同等な「トルク」を発生する、大して充填効率は良くない

チャンバーで、ピークパワーを発生するのが10000rpmと言う高回転である物をくっつけたエンジンがあるとします。

これで先述の「11.31ps/10000rpm」を発生しているとして、このエンジンに対し、ボアアップを前提としたチューンで

パワーのピークを発生させる回転数をノーマル6500rpm程度から変化させず、「トルク値の向上」にて最大出力の

11.31psを稼ごうとすれば…そんなの簡単に可能だと思いますか?


100ccで1.0kg-m程度のトルクしか出ていないのに、それを上回る1.24kg-mものトルクを出そうと思えば、単純に

排気量のみを考えても100ccよりもっと大きくしないとそれだけのトルクは出せない、という事になってしまいます。

もちろん、実際のチューンにおいては排気ポートの高効率化や圧縮比UPも行なうので、原付ニ種のノーマルとは

異なり「排気量に見合ったトルク値」を生み出せますが、それでもライブのノーマル比で1.5倍ものトルク値をクランク

シャフトに生み出す事はかなり至難の業になりますのでね。



なので…これまたいつもの口になりますが、パワーバンドやピークパワー発生回転数がノーマルとほぼ変化しない

ボアアップのみのチューン、となれば、ノーマルエンジンをある程度高回転型にしただけのエンジンに対しても

出力的には劣ってしまう事が多い、と言うのはこの辺にも理由があるんです。

そして、安価な社外品だとその「排気量なり」のトルクがきちんと出ていればまだ良いですが、実際にはさして

「トルク」が出ていないものをちょろっと高回転にパワーのピークをずらしただけで最大出力的に誤魔化している、

なんてのはいくらでもあるんですよ。


私、質問板等で何度も言っていますが、「他の特性がノーマルと変わらず、排気量だけが上がるボアアップキット」

なんてのはなかなか存在するものではありませんからね。

そういうのがあれば何にも誤魔化されずに性能比較ってのも出来るのですが…仮に「ボアアップした」と

言われてもその時点では何が何やら分からないですし。

排気ポート弦長や圧縮比がうんこみたいな設定のモノはいくらでも(以下略


…これはチャンバーも同じで、仮にオクムラにしても、ピークを発生するのは9000〜10000rpmというそこそこの

高回転型ですが、これも「トルク発生値」がどの程度あるかといえばノーマルとさして変わらないか少し弱い

程度だと私は分析していますしね。

「トルク」が多少弱くても「高回転で」そのトルク値が出ていれば十分に「高出力」は稼げます。

ちなみに、「ノーマルと同等のパワーバンドを維持しつつ、パワーが上がる」といった特性の物がなかなか無いのも

ミソで、そういう物は作製が難しいという事でもあったりするんですよね。仮にノーマルより劣ってたら一発でバレ(略


もっと極論を言うと、小排気量で低トルクエンジンベースの場合、高い出力を出す為には「低〜中回転で走らせる」

といった仕様が前提だとまず不可能に近い、とも言えますからね。

トルクを出したのみでピークパワー発生回転数をほぼ変化させない、という事ですが、それを行うチューニングと

なれば、圧縮比UPやノーマルとパワーバンドが変わらないチャンバー、ビッグキャブ等でも限界はあり、当然の

ごとくポート加工でも他をどうこうしても足らなくなるので、結局ボアアップするのが大前提、としかなりません。


…その位、「低・中回転パワーバンドの高出力エンジン」をこしらえるのは難しい、という事で。

もちろん、130ccとかの大排気量であれば7000rpm/1.5kg-mとかのトルク値も可能だと思われますが、そこまで

いくともう1ランク別の話になってしまいますから、原付一種ベースでは無理であると言い切っても良いですね。


レギュレーションで排気量に縛りがあるレーシングエンジンの場合でも、チューンするにしてもノーマルと同等の

パワーバンドを維持したまま「出力を上げる」なんてのはすぐに限界が来てしまいますし。

排気量を決められたレーシングエンジンでも、世の中にそこまで低〜中回転型の物があるのか、と言う点も

鑑みれば、それは余計に難しいことである、という事もお分かりかと思いますよ。



とまあ、「トルク型」という言葉についてのあら捜しみたいになりましたが、発進の瞬間やちょっとアクセルを開けた

状態で「パワーがある」のを、トルク型って言っている様な物言いは何かおかしいのではないか、といった事で。

別に、高回転高出力型でも「トルク」ってのはちゃんとありますからね。その辺を誤解無き様にお願いしたいです。


そして「どの回転域にパワーバンド、ピークパワーを存在させるか」こそがエンジンの特性を決定する

上で一番最初に考えなくてはいけない部分、と言う事もお忘れなき様に。

適当にエンジン作って「この辺がパワーバンドになった」ってのは本末転倒です。

…チューナー的な物言いをするなら、漠然と「速くしたい!」って言われるのもちょっと困る、って事で(笑



・「ピストンを叩く力」と「クランク回転数」


さて、相変わらず長くなっていますが次に、トルクを生み出す原動力である「ピストンを叩く力」と、それによる

「エンジンの回転数」的なものに関して解説してみましょう。


とはいえ、これは非常に単純な話でして…まずエンジン回転数の単位ってのは「rpm」、すなわち


「revolution per minute (れぼりゅーしょん・ぱー・みにっつ)」


ですから、


クランクシャフトが1分間に何回回っているか


と言う事になります。


で、そんな御託はさておいて(笑

この回転数ってヤツは、要は数値が高いと「同一時間内で多く回転している」って事なのですが…

これ、この「クランクシャフトを同一時間内に多く回転させよう」とすれば、エンジン的な動作としては

何が必要になってくると思います?


…そうです、


「クランクシャフトを速く回そう」とするならば


ピストンをより「強い力」で叩かなければならない



という事が基本となります。


…前述の「トルク」を生み出しているのは当然ピストンを叩く力なんですが、クランクシャフトを速く回転させて

いるのも実は同じ要因になるんですよ。

おもくそ強い力でピストンを叩かなければ、それなりの高回転に到達することすら出来ないんですね。


なので、比較的高回転側にピークパワー&パワーバンドが存在するエンジンであれば、それなりにトルク値も

強力で無いといけないとも言えますが、だからといってピストンさえ強く叩けばいくらでも高回転まで回るかと

言えばそうではありません。

何故かと言いますと、パワーバンドを超えた後はもう惰性で回っている様なモンだからです。


「回す」事だけを考えれば、パワーバンドが仮に7000rpm程度が上限のエンジンがあるとしても、その回転数を

超えきった所までも回るといえば回りますが、そこにパワーバンドが存在する訳ではありませんね。

パワー、すなわち出力的な最大効率を得られるのは前述の通り「最大のトルク値」が発生している所から、

回転数の兼ね合いもありますが多少オーバーした回転数なので、そこから先はすでにピストンを叩く力も

弱くなって来ていますし、それまで回っていた後の惰性、と言いますか慣性によって「回っている」という事です。

ノーマルエンジンでも無負荷空転なら10000rpm程度は回りますが、実走行ではそこまでは回せませんしね。



で、結局何が言いたいのかと申しますとですね、今回の課題である「エンジンのトルク」、これは実際には「力」と

いった要素のみではなく、エンジン回転数までも左右しているという事なんです。

ピークパワー発生回転数が6〜7000rpm程度に存在する中回転型エンジンであるとしても、だからといって

よほどチャンバー設計で抑えられていない限りは、そこまで「回せない」エンジンでは無い、って事なんですよ。

基本的に「力」が無いとエンジンは「回せない」んです。


後、ノーマルマフラー仕様だと車種にもよりますが、いくらエンジン構成を高回転向けに振ってもチャンバーの

特性影響率の方が大きいのでさほど高回転側にパワーバンド&ピークパワーを持ってくる事は出来ませんが、

それでも上手くやれば、「一発のピストンを叩く力」を増大させつつ、1000rpm以上のピークパワー発生回転数の

向上も十二分に可能ですしね。


そしてもう一つ、前項にて「ノーマルのトルク値」にてそれを発生する回転数のみを高めた場合、といった物を

一例として出しましたが、こういった場合だと仮にノーマル7000rpmにて最大トルク値を発生している状態を

チャンバーの特性により10000rpmにて発生させようとした場合、当然のごとく「ピストンを叩く力」ってのは

ある程度強く無いとそこまで高回転だとノーマル状態と同等のトルクって発揮しにくいんです。


「クランクを速く回す」のに「力」がある程度必要な為に、クランクを速く回しつつさらに同等の「クランク軸トルク」を

出そうとすればちょっとは余裕が必要、って事になります。

上記の例で、「7000rpmと10000rpmでピストンを叩く力が同一」だとした場合、10000rpm時の場合は「クランクを

速く回す」為にその力を食われてしまい、その「10000rpmという高い回転数」を維持している状態で、さらに

「クランクを回す力=トルク」を7000rpm時と同等にまで発揮するには、7000rpm時より+αの「ピストンを叩く力」を

発生させていないといけないんですよ。


簡単に単位抜きで表現しますと…


・ピストンを叩く力=「10」で7000rpm →クランクを回す為の力「2」 クランク軸での発生トルク=「8」

・ピストンを叩く力=「12」10000rpm →クランクを回す為の力「4」 クランク軸での発生トルク=「8」


って感じの事になります。


なので、ノーマルマフラーの混合気充填効率のまま、すなわちピストンを叩く力は変化させずにそれを発生する

ピークを10000rpmに持って行けるチャンバーを作ったとしても、実際にはノーマルと同等のトルクは10000rpmでは

発揮していないはずですね。

とはいえ、そこまで膨大な差が出るものでもありませんが、最初の文章の一応の補足として


ピストンを叩く力は完全にイコールで「クランク軸トルク」に換算される訳ではない


という事も付け加えておきます。

最初は「言葉と動作メカニズムの分かりやすい切り分け」としてとりあえず同等と考えて下さい、とは書きましたが

基本的にはこういった感じである、といった事はイメージとして持っていてOKかと思いますよ。

「あまり回さずにハイパワーを求める」なんてのはどのみち難しいと言う事は以前のグラフでお分かりかとも。


が、ピストンを叩く力を際限なく高めればいくらでも高回転型になる、と言う訳でも無く、いくらピストンを叩く力が

強くとも、チャンバーの特性により「何回転程度にパワーバンドが発生するか」は大きく異なりますから、実際の

チューンにおいては使用するチャンバーの特性を第一に掴んでいないと何も出来無いんですね。


仮に、排気量を大きくして強大なトルクを発生させるエンジンをこしらえてたとすれば、ピストンをかなり強い

力でぶっ叩くので高回転側にパワーバンドが発生しそうですが、それを決めるのはチャンバーの特性であり、

「どこまで回るか」となれば、実際にパワーバンドが6〜7000rpm程度に存在したとしても、無負荷空転であれば

11000rpmとか回るでしょ、って事で。


ちなみに、いくらチャンバーが高回転型だとしても、2stの場合はピストン重量が重たかったりすると思った程は

高回転型にはなりえないですよ。

ボア径とストローク長のバランスってのも良く聞きますが、これってピストンが超軽量である4stであるからこそ

大きな影響力があるのであり、2stだと多少ストロークが長くとも高回転型になりえない、なんて事は無いです。

スクエアストロークが理想といえば確かにそうですが、ピン上も下もかなり長い2st用ピストンに対し、その点を

論じてもほとんど無駄に近い、って事も付け加えさせて頂きますね。


…たまに聞きますが、「ストロークを上げずボアアップのみ行った場合」だと、ストロークに対しボアの比率が

上がるのでショートストロークエンジンとなり高回転型化する、ってのは…物理的にそんな事ありえません。

ポートタイミングやチャンバーが変わらないのであれば高回転側にパワーバンドが大きく移動する事は無く、

ボアアップしたのであればピストンががっつり重くなるのに、そこで明確な高回転型の特性になんてなる訳は

ありませんからね。

そんな事を考えるならコンロッド長変化による力の伝達効率の差異を考えていた方がはるかに建設的です。



で、ついでにもう一つ補足を。

駆動系にちょろっと関連することなのですが良い機会なのでこれも少々ご説明しておきますね。


まず、エンジン自体をチューニングし、ピストンを叩く力のみを上げた場合、「特性の変わらない」ボアアップや

圧縮比UPを行ったとしましょう。

こんな場合、駆動系構成はもちろんWRも一切変更しないとどんな症状が起こりますかね?


そうです、こんな場合は、


「駆動系構成を何も変更していないのに、全開加速時の変速回転数が上がってしまう」


んですよね。


これは、ピストンを叩く力が増大しクランク軸トルクが増大した事により、従ってベルトがトルクカムを「引く力」も

増大したのでトルクカムが強く効き、WR重量が変わっていない場合はWRにより大きな遠心力を発生しないと

「変速出来ない」ので、増大したトルクカムの力を上回れるまで自動的に変速回転数が上がり、WRの遠心力が

強まるのでその症状が起こる、という事です。

「ピストンを叩く力」を上げたのであれば「ベルトを強く引く」ので「トルクカムの効き」って増大するんですよ。


あ、これはもちろん「ピークパワーを発生させる回転数」を変化させずにパワーUPさせた、という場合で、実際には

排気量「のみ」を上げたとかビッグキャブをくっつけたとかであれば、他をいじくらずとも変速回転数がある程度

上がっていないとおかしいんですよ。そうならないと大して「パワーUP」なんてしていないのと同義です。



もう一つ例を挙げると、「純正互換タイプ」の社外品マフラーってありますよね。

あれも、「最大出力を発揮する回転数がノーマルと同じ位」であれば、ポン付けしたとしても

本当にパワーUPしているのならば変速回転数がいくらかは上がってしまわないとおかしいんです。


尖った特性のチャンバーのごとく、最大出力発生回転数が激変しているのならばともかくとしても、本当に

「同一回転域にてノーマルよりパワーが出ている、ピストンを叩く力が増大している」のであれば、WRは

重くしないと同等の変速回転数には落ち着かないんですね。

基本的に、


パワーバンドの幅や位置が変化せずにトルク「のみ」が上がっているのであれば

同一駆動系構成、同一WR重量だと変速回転数も上がっていないとおかしい


って事になります。


これはボアアップでも同じで、特性を変化させない、すなわポートタイミングは同一でなおかつチャンバーも

パワーバンドを発生する回転域は変化させない為にボアアップ前と同一の特性の物でないと、ボアアップ自体の

効果の単純比較は出来ません。


で、WRを大きく変更しないと駄目な位、高回転側にパワーパンドが移動している特性なのであればそれはもう

「互換品」と言うべき物では無いでしょう、とも。

そして互換品を謳う品で、ポン付けではスカスカ感が出る上にWRをいくら調整しても最大出力が出ている回転数は

大して変化していなかった、ってなれば…さすがに残念でしたね、としか言えませんけれどね。


もしそういう品があったとしてもですね、それってセッティングが悪いのではなくて「元」が悪い、というのもきちんと

判断出来る様になってくれば脱、初心者って感じかなと私は考えていますよ。


「ノーマル互換マフラーを付けるとそのままではパワー感が無いのでWRを多少軽くしてやった」といった事でも、

本当に多少高回転側にパワーバンドが移行しているのを確認出来たのならともかく、「全域においてノーマルより

トルクダウンしている」のを多少の高回転変速により「出力を稼いでいる」に過ぎない、とも言えますから。

駄目な物は駄目、としっかり自信を持って分析出来るという事を身に付けなければ、一生初心者ですからね。



…ちょっと難しいかもしれませんが、この辺はスクーターだからこその駆動系のシステムも多々絡んでくるので、

様々な部分の関連性をきちんと理解していないといけません。

上記の、エンジンパワーのみを上げた場合も「エンジン回転数」が上がっているのには違いありませんが、これは

実際は「変速回転数」が上がっているのであって、一般的なMTのバイクや車と一緒にしてはいけないんですよ。

と言いますか、スクーターを論ずるのなら他の車両のメカニズムの応用なんてほとんど効かない、ってのは

いつも私が言ってる通りですが。


で、「フライホイールを重くしてトルクがある」って感覚も、前述の通り「パワーバンド外の回転域にて、エンジンに

なんとか勢いをつけて回せているから、発進等のパワーバンド手前やオーバーレブ域で「がつんと力が出た様に

感じているだけ」って事なんですね。場合によっては逆に力は低下していると感じる場合もありますが…

そもそも、「はずみ車」としてのフライホイールの意味は、「エンジンパワーが足らない部分での扱いやすさ」

出す為にくっついているものである、ってのが大前提です。

なので、私は「フライホイールを重くすればトルクが出る」なんて表現はナンセンスだと考えていますよ。

この辺はまたの機会にご説明しようかと思いますが、軸にくっついている物の重量を増減させても「トルク値」は

変わりませんのでね。



で、もう一つついでに言っておきますとですね…これはイメージ的におかしいかなと思われる方もおられるかと

思いますが、良い機会なのでひとつ。

圧縮比に関係する事なんですが…これってですね、一般的には


「圧縮比」を上げすぎると、ピストン上昇時のポンピングロスとなり


オーバーレブ回転数が落ち込む


といった事があるかと思います。


が、これはですね、もちろん「言葉だけを解釈すれば」正解ではあるのですが、実際のエンジン構成においては

そうでも無い場合もあります。

何故かと言いますと、実際には


「圧縮比」を限度を超えない程度に多少上げた場合


オーバーレブ回転数が高まり、パワーバンドも広くなる


って事があるんですよ。


なんだそりゃ、って思われるかもしれませんが、これは実は簡単な話でして、さっきの話と同じで「ピストンを

叩く力が足らなくても、高回転が回らない上にパワーバンド前後の「実用的なトルク値」も低下する」

いう事です。

ノーマルで圧縮比が低すぎ、「ピストンを叩く力があからさまに足りていない」場合は、圧縮比を上げると燃焼時の

「爆発圧力」は強まり、その分ピストンを叩く力も増大しますよね?


原付1種でノーマルの圧縮比が7.0:1程度ある場合はそこまでの激変とはいきませんが、元々の圧縮比が

低めの原付2種等だと、仮にノーマル6.0:1を7.5:1程度まで高めても、意外とオーバーレブは「ノーマルより」伸びる

事もありますし、なおかつ「パワーバンド前後のトルク値」も向上するので、「使用可能なパワーバンドの幅」って

多少なりと広がったりするんですよ。


これは、圧縮比が「ノーマルより高い」場合でも、ノーマルが低すぎる場合には丁度良い具合になる事も

ありますし、その逆もまたしかり、という…「ノーマル=全てにおいて丁度良い」という事では無いんです。

「圧縮比を高めるとポンピングロスが起こる」のは過剰なまでの圧縮比UPの話であり、ノーマルを多少高めた

程度ではそこまでは行かない場合が多い、といった事を勘違いされない様にお願いします。

「ノーマルより圧縮比を上げた」程度では「圧縮比が高い」という訳では無い場合も多々ありますね。

元々圧縮比が低い物を多少上げてもまだまだ低い、って事も世の中にはたくさんあります。



ただ、これも当然のごとくやりすぎは禁物で、超高効率な混合気充填効率を持つチャンバー等であれば、

ノーマルマフラーではちゃんと行けていた圧縮比でも、実際のエンジン動作時の爆発圧力は向上してしまって

いるので、ポンピングロスどころではなくいきなりボン!って事にもなるので注意は必要ですが(汗

(※チャンバー「特性」はノーマルと同等の回転数でピークパワーを発生すると仮定した場合です)


私的な数値だと、これもいつもの通りノーマルエンジン程度であれば圧縮比が「8.0:1」程度でも、混合気の

実際の充填効率がかなり良いチャンバーを使ったとしても極度のポンピングロスを引き起こすまでは行かない、

と分析しています。

逆に圧縮比が8.0:1でも1次圧縮が高めのエンジンだと、高効率チャンバーを使った場合にはある程度の

ポンピングロスは起こりえると分析していますし、その場合は1次2次どちらかを下げないと駄目だ、といった

経験則に基づく「応用」も必要にはなってきますね。


ただ、ノーマルであまりにも圧縮比が低い場合だと、そのおかげでエンジンが回せていないと言う事も

現実として多々ありえる上、パワーバンドも高回転側に作りづらい、といった事も覚えておかれると宜しいかと。

圧縮比というものは、高すぎても低すぎてもエンジンは回らないんですね。



…そもそも、私は大きくポンピングロスが出るまで圧縮比を上げてしまう時点でエンジンとしては駄目な構成だと

考えています。

特に、容積対比のシビアな小排気量の場合だと、適当にやると一瞬で限界突破してしまうので余計に注意が

必要なのは言うまでもありませんね。

逆に、世の中にはノーマルで2次圧縮比が低めでも、1次圧縮で辻褄合わせてる車両ってのが「ノーマルでも」

ありますから、これは実際のエンジン「実働時」の圧縮&爆発圧力が分からないと一概に判断出来ないって事にも

なるので、この辺は経験も大切になってきますよ。


そして最後に、ポンピングロスがあると「パワーバンド上限以降」のエンジンの回り方が確実に落ちてくる事には

なりますが、実は「パワーバンド内での一定回転変速」の状況でも「加速力が鈍る」って事もあります。

…これはスクーターは加速中の回転変動が無い為に一見しては非常に判断しづらいのですが、ポンピングロスが

大幅に増大、すなわち1次2次の両方の圧縮が高すぎるとエンジンの効率としてはかなりダウンしてしまいますよ。


なんでもかんでもばっつばつに混合気を押し込めば速い、って物でもなく、一見すれば「パワーバンド回転数までの

回転上昇」が速くなっていても、それ以降の回転で混合気充填効率が過剰になっている場合は実は宜しくないと

いう事です。


当然、「パワーバンド内」ではある程度無理の無い混合気充填効率を必要とするので、「それまでの回転域」にて

少しでも力を出そうとして無理に1次&2次共に圧縮を上げてしまうと、


「パワーバンド外での性能向上は顕著だが、パワーバンド内では逆に充填効率過剰でロスになる」


となってしまいます。

…これをやらかすと、一見発進の一瞬やパワーバンド入るまでのフィーリングは向上するので、感覚的にかなり

騙されてしまう場合が多々あるんですよね。

だからこそ、私のいつも言ってる「仕様を換えて数m走っただけでは何の比較にもなりゃしない」って事なんです。


で、ピーキーなエンジンだと、発進辺りの低回転域に対してのパワーを出したいが為に1次圧縮を上げる事も

ありますが、やりすぎると全くデメリットにしかならなくなる、といった事も覚えておかれると宜しいかとも。

ちなみに個人的な意見だとですね、私は1次&2次圧縮共にばっつばつに高められている方向性のエンジンは

嫌いだったりしますが(笑


これって、2次圧縮に例えると「ヘッドの効率等を無視して、圧縮比のみギンギンに上げて誤魔化している」のと

同じで、やりすぎってのは「高効率」ではなく無理矢理なチューンの方向性になっている傾向が強いので、私は

何でもかんでも埋めまくったりするのは好きではありませんし、それで大きなメリットも感じた事がありませんね。

掃気流の噴き出し具合にしても、1次圧縮を高めてどうこうってやるのではなくいかにシリンダー内にスムーズに

掃気出来るか、どの位排気ポートやチャンバーで引っ張れるか、って事の方がはるかに大切ですし。


あ、もちろんこれはノーマルの時点での構成を読み取り、その時点で高めなのか丁度よさげなのかもしくは

低めなのか、を見極める事が大切であり、なんでもかんでも1次圧縮UP、というのも駄目って事です。

ちなみに私がSSマシンとかで樹脂で埋まってるクランクを使ってるのは、ホンダ縦型の社外マニホールド部分の

補填の為、と言えばお分かり頂けますかね。

あれらは「1次圧縮をノーマル程度」にする為にやってるだけなんですよ。


そして…実は「チャンバーが同一」でも、1次圧縮のみを高くしすぎるとパワーバンドが全体的に「下」にずれて

アンダーパワーになってしまう事も当たり前にあったりします(汗

とまあ、この辺は1次圧縮2次圧縮どちらにせよ、「やりすぎ」にはご注意下さいませ。

良かれと思ってやった事が、明確なデメリットになっている、という事は現実としてありますからね…

「ギンギンのぱっつぱつ」ではなく「スマートな高効率」を求めるのが「チューニング」だと私は考えていますんで、ね。

「雑」なエンジンは好まない、とでも言った方が良いのかも(笑



・最後にまとめ


さて。今回は大して難しい事では無いのでさらっと行こうかと思いましたが、やっぱりいつものパターンで

あれやこれやの関連性のある事を書き連ねていたら長くなってしまいましたが(笑

とはいえ、この「関連性のある事」ってのは書ける時に書いておかないと、単発で出しても意味不明になって

しまう事が多々あるのでその辺りはご容赦をば。


では最後のまとめですが、本題としては「トルク」と「出力」といった物の違い、と言う点を誤解無く理解して

頂きたい、という事になります。

そして、一般的に言われる「トルク型」」といった曖昧ともとれる表現、「高回転型」と言われる特性の真意、

さらにはそういった「エンジンのパワー特性」を理解するにあたり曲解してはいけない部分、といった点を

ご理解頂けますと幸いです。



・「トルク」とはピストンを叩き、クランクシャフトを回転させる「力」である

・「馬力(ps)、出力(kw)」とは明確な力ではなく「仕事量」である

・「最大出力」を発揮しているピークパワー回転数では「最大トルク」を発揮していない場合が多い

・「最大出力」を発揮している回転数は、「最大トルク」を発揮している回転数より低い事はありえない


・変速回転数一定のスクーターの場合、「最大出力」を発揮している点で変速を行うのが基本

・エンジンをセットするにはまず「最大出力」を発揮している回転数を見極めないと始まらない

・すなわち、変速回転数が変動する様な駆動系構成ではその見極めは大変難しい


・一般的に「トルク型エンジン」と言われるものは実は「比較的低・中回転域にパワーバンドが存在する」と

 いった特性を現しているものが多い

・「高回転型エンジン」でも、高出力を発揮させたいのであればトルクが小さくてはいけない

・すなわち、「高回転で高トルク」を発揮させないと絶対的なパワーを得るのは難しい

・特に排気量が小さい場合、「低めの回転で高いトルク」を出す事は物理的に不可能に近い


・パワーバンドを変化させずにトルク「のみ」を上げた場合、同一駆動系構成、同一WR重量だと

 変速回転数が上がっていないと辻褄が合わない

・エンジンのトルクが上がれば「ベルトがトルクカムを引く力」が強くなり、その影響力によって様々な

 症状や特性変化が起こるのが「無段変速機構を持つスクーター特有のメカニズム」である


・ピストンを「強く」叩かないとクランクシャフトは「速く回転出来ない」

・圧縮比が「低すぎても」回転上昇が鈍い、最高回転が回らない等の弊害は当たり前の様に発生する

・過剰なポンピングロスを生む構成のエンジンの場合、高回転にパワーバンドを発生させられない

 どころか、パワーバンド内での出力すら低下する場合も多い=無駄が多い



と、こんな感じでしょうか。

多岐に渡っての説明でしたのであまりまとまってはいませんが、「本来の意味合い」といった点を間違えず

お読み頂ければ、と思いますよ。


「トルク」と「パワー(馬力&出力)」って言葉にすると難しく、イメージでも掴みづらいものがあるかと思いますが、

きちんとした理解を深めれば、ちゃんと割り切って考えられるんですね。

…とはいえ、正直今回はその辺を文章表現に起こすのは大変でしたが、「エンジン動作」といったイメージの

作製のお役に立てて頂ければ幸いですよ。



「スクーター改造」に戻る