駆動系の「熱ダレ」についての一考 補足



さて…今回はいきなり「補足」と銘打ったタイトルになっていますが(汗

以前にご説明した「駆動系のタレ」にてついてですが、これに関して多少の補足を行ってみたいと

思います。

とはいえ大筋が変わるわけではなく、「熱の影響」の部分にて説明不足の点があった感がありますので

多少の補足になりますが。


ではまず、以前のコンテンツ内容に対しての軽いまとめを行っておきますね。



・駆動系に「熱が入る」事による、アクセラレーション&変速回転数の低下が「熱ダレ」といわれる物

・その原因は主に「ゴムで出来ているベルト」や「アルミ製プーリー」等の動作不良である

・一般的に言われている「センタースプリングのバネレート低下」はほとんど起こりえていない

・そもそも、100℃にも満たない駆動系の温度でセンタースプリングが極度に柔らかくなる事は無い

・仮に10%、20%ものバネレート低下が起こる温度までセンタースプリングの温度が向上したとすれば

 先にベルトやWR、Oリング等の非金属パーツが融解してしまわないとおかしい


・だが、金属製の駆動系パーツに劣化や不備がある場合は、確実な動作不良を引き起こす

・それも体感で言う「熱ダレ」の症状と似通るので曲解しやすい



と、こんな感じでしょうか。


とにかくゴムのベルトに対し「無駄な側圧」を掛け続けストレスを与えてしまうと動作不良を引き起こす可能性は

とんでもなく高くなる、という事です。


が、ここで少し気になったのが、この一般的な言葉で言われる「駆動系のタレ」という言葉、これの定義を

もっとはっきりさせておかねばならないと思いましてね。

何故かと言いますと…大きなキッカケになったのが、スクーターチャンプ2009の特集で行われていた…

「センタースプリング激ヤバテスト」なんです。


とはいえ、これを書いている時点ではすでに2010年ですが、よくよく自分の書いたコンテンツを読み直してみると、

「熱ダレ」の定義がしっかりしていない部分もあったのかな、とも取れましたので。

改めてその辺の決め事を羅列してみたいと思います。



では、いきなりですが世間一般で言われる「駆動系の熱ダレ」といった表現ですが、これは私の定義として


ある程度駆動系に熱が入ってきた場合、変速回転数がガタ落ちして復帰出来なくなる


といった事だと捉えています。


これは、「明らかに走行性能が激変してしまい、にっちもさっちもいかなくなる状態」を指しているのであり、

走行フィーリングが大して変わらない、タコメーターの変速回転数が大きく変動しない場合には「熱ダレ」とは

呼ばない、という事になりますね。


でもって、この「変速回転数の低下、激変」ってのが「走行性能の低下」にまで現れるとなれば、それはもう

正常時には仮に7000rpm変速だったものが6000rpmにまで落ちてしまう、といった様な状態になります。

…通常は、よほど駆動系のセッティングがギリギリの所であったりしない限り、100〜200rpm程度の変動では

サーキット走行やシビアな競技でもなければ走行性能の変化は体感すら出来ないLVになりますからね。

仮にタコメーター無しで走ったらその程度を体感しろと言う方が難しいですから(笑


と、これが一応の私の「熱ダレ」の定義となりますが、これは皆さんのおっしゃる「熱ダレ」と言われるものと

大差は無い、と感じていますんでさほど問題は無いのですが…

前述のスクーターチャンプ2009の実験レポートでは、一般的な定義とはかなり異なる印象を受けてしまいます。

これはスクーターチャンプがお手元にない方はちょっと分かりづらいかと思いますが、そこはなんとかして

資料を都合して下さいませ。

さすがに記事自体を丸ごと転載する訳にはいきませんので…(汗



ではまず、以前に掲示板で書いた事も引用しながら、あらましを辿っていきたいと思います。


最初の前提として、スクーターチャンプの実験モデルはグランドアクシスのノーマル車で、1型用と2型用の

バネレートの異なるセンタースプリングを用意し、ドリブンユニットにセット時の反力を計測、後は最大開度まで

ドリブンユニットを開いた状態のスプリング反力を計測しておき、その間の段階を踏んだセンタースプリングの

ストローク変化量の各段階の反力データも取り、各段階にて温度変化を与えどの位の反力の差が出るのか、と

いった実験です。


参考までに、その反力数値と温度変化の状態を記しておきますね。

あ、3種類の温度状況で計測しているのは1型用のセンタースプリングだけなので表記もこれのみとします。


・センタースプリング反力計測時の温度設定

1:21〜23℃程度 (常温・未走行時のパーツ温度)

2:65℃程度 (サーキット走行直後の車両を計測し基準としているが何故か実験では60℃)

3:160℃程度 (明らかに実用範囲ではありえない温度)


・スクーターチャンプ実験結果 (1型用のみ)

スクーターチャンプデータ抜粋



こんな感じになっていました。

実際にはセンタースプリングが44oのセット長である事なんてありえませんし、ノーマルならプーリーの

横ストローク量は9o程度しかないので実用のスプリング稼動範囲としては「40o〜31o」位って所でしょうか。


…で、この数値を馬鹿正直に受け止めれば、「センタースプリングは熱により柔らかくなる」とは

取れますが、これにはツッコミ所が多いんですよ(笑


まず、上記の表にも書いていますが、「計測温度」の基準がおかしいんです。

これは、紙面によると「常温」の場合は一切走行していない状態まで駆動系を扇風機で冷やした上での

反力計測としていますが、この状態の温度でのスプリング反力を測ったところで、何の意味もありません。


これは以前のコンテンツにも書いていますが、


機械、金属部品というものは


「暖機」しないと安定した性能を発揮しない


んですよ。

したがって、「走行していない状態で、動作適温まで温まってもいない状態」と、「実走行負荷をかけた状態」を

比較して「バネレートが変わってる!」なんて言っても、何の役にも立たないんですよね。

せめて駆動系全体を均一温度にすべきでしょう。上記の温度は「センタースプリングのみの温度」ですから。

そして160℃時の反力計測においては、実際の車両への装着は行っていません。


で、これはたまに耳にする件で、「完全な冷間時から走り出してしばらくは調子が良いが、各部が温まってくると

タレの様な症状が出始める」といった状況があります。

ですが、こんなのは至極当然でして、それは「暖機が終わった状態」でしか無いんですよ。

これはセンタースプリングだけではなく、ベルト等のゴムパーツまで、ある程度の温度まで熱されないと

想定した真っ当な動作など行ってくれない、というだけの話です。


なので、「温まってくるとタレる」ってのは本来その時点で「正常な状態」なのであり、冷間時にセットを

合わせても何の意味もない、と言う事はお分かり頂けるかと。

すなわち、「未走行時の常温と実走行負荷時の温度を比較しても全く無意味」と言う事です。


もっと分かりやすく言うと、タイヤなんかそうですよね。

常温のタイヤでいきなりコーナーを目一杯攻めたらどうなります?最大のグリップ力を思いっきり発揮して

最高の性能を出してくれますか?ってのと同義です。

…ベルトの材質であるあの硬いゴムだと、タイヤのコンパウンドより低い温度域にて最大のグリップ力を

発揮すると思えますかね?(笑


これはセンスプ云々の単体温度で物を考えても意味はなく、実際にはゴムのベルトをどの位の力で挟んで

張っているのか、といった力の問題になるので、「そこ」だけを見ても意味はないんですよ。

で、タイヤだって加熱させすぎると文字通り「タレる」様に、ベルトだって当然そうなるって事です。



次に、「160℃」時のレート変化の計測ですが…これはもはや言うまでもなく、実際の運用においてそこまで

センタースプリング、いや駆動系が高温になる状況などありえない、と。この一言に尽きます。

実際には気温30℃オーバーの炎天下のサーキットでガンガンに駆動系をいじめても、駆動系の温度は

100℃オーバーにすらなりえません。

負荷が桁違いなクラッチアウター部分限定ならば、街乗りで何度も発進を繰り返していればそれなりに熱く

なるので話は別ですが、センタースプリングにそれほどの温度上昇はありえず、これは上記の引用データの

65℃程度を「事実上の上限」としても良い、と私は分析していますよ。


…簡単な実験だと、走行後すぐにセンタースプリングを外して水ぶっかけてみて下さいな。

その水は一瞬で蒸発しますか?って事ですよ(笑

ちなみに私、プーリーに対し径のあっていないプーリーボスをぶち込んだりして駆動系がぶっ壊れても文句は

言えないような極限状態の駆動系タレさせ発熱実験ってのもサーキットでやった事あります。

そこまで無茶苦茶をするとケースカバーは迂闊に触れないLVまで発熱してバラすのに往生こきましたが、

それでも160℃とかってLVには絶対になっていなかった、と断言しても良いですね。


なので…そんな実用範囲から大きく外れた無茶苦茶な温度で「バネレート変化があった!」と言ってもこれまた

意味が無いんですよ。

「温度変化によるレートの変化」を実験するのではなく、これは実際の運用状態において、センタースプリングが

「変速回転数が激変する程に柔らかくなっているのか?」といった点が大事なのですからね。



では次に、数字のマジックと言いますか、「表記の仕方」ってのがいかに難しいかと言う事も踏まえた上で

上記の数字をもう少し掘り下げてみましょう。

まず、現実的な60℃状態において、最大に反力変化がある30oまでセンタースプリングを縮めた状態での

反力数値の変化を見てみます。

…「常温」と比べても意味はありませんが、冷間時から暖機時までの変化とでもしておきましょうかね(笑


・常温21〜23℃時=39.00kg

・60℃時=38.35kg

・その差=0.65kg


一応こうなっていますが…ではコレ、どこかの商品名と言いますかよくある「何%のレート違い」といった感じで、

パーセンテージで変化率を表してみると…




元々「39.00kg」の反力が「38.35kg」になったところで、わずか



「1.68%のバネレート低下」



にしかなっていない



んですけれどね(笑

ちなみにセンタースプリングセット長が一番長い状態の44o時でもバネレート変化率はたった「1.89%」程度です。


…これね、仮に実用上ではありえない160℃にまで熱せられたとしても「3.6%」程度ですよ?

社外品だと平気で「10%UP!」とかって謳ってて実は20%以上硬いとかってのもザラにあるのに、この程度の

反力変化を気にしてどうなるんですか?と、声を大にして言いたいです。

しかも前述の通り、この1.68%の反力差が出るのは全く暖気していない状態から実働状態まで

持っていった場合ですからね。

ある程度温まった状態と実働状態を比較すれば、このわずかな差すら出ない事は明白です。


こういうのはですね、「数値だけ」で見ると確かに変化はありますが、それが「どの程度の影響があるのか」を

判断しないと何の約にも立たないんですよ。

これがポートタイミングとかBTDC点火時期で3°の差とかピストンクリアランスで3/100の差とかであれば無視は

出来ませんが、なんでもかんでもシビアになった方が良いと言う訳ではなく、「必要性に応じた」シビアさを

身につけないといけないんですね。

しかも上記の実験だと、全く意味のない「比較条件」をこしらえているので余計に無意味でしかありません。


ちなみに、もちろん私もDioのセンタースプリングをあっためたりして簡易実験したことありますけど、実際は

そこそこ暖機時の温度と60℃とかってのを比べても、正直計測数値では誤差の範囲にしかなりませんでした。

コンテンツにするLVですらなかったのでいつぞやのセンタースプリング反力データの所にも書いてはいませんが、

暖気が済んだ後と目一杯走った後の温度差&バネレート変化なんて無視してOKだ、と私は判断したんですよね。



次に、上記のスクーターチャンプデータにもう少し突っ込んでみましょう。

上記の数値はあくまで「実際に規定の長さまでスプリングを縮めた時点での反力」になっていますが、これを

各セクションにおいての「バネレート」を計算したものが下の表になります。


スクーターチャンプデータ バネレート変化



…あえて上記の項目ではスルーしましたが、この表記では60℃時&160℃時のどちらにおいても、


40〜35o圧縮時よりも

35〜30o圧縮時の方が

平均バネレート的には低下している


んですけれどね。何ですかコレは(笑


正直、こんな細かい所に突っ込んでも意味はありませんがこれって普通に考えるとおかしいんですよ?

センタースプリングってのは「直巻き」のスプリングですから、反力変化は圧縮数値に比例して強くなって

いかなければならないのですが…計測方法等の問題はありますがここまで細かい事を言ってしまえば

誤差や計測間違いのLVでしかない、とも見て取れるんです。


この時点で物理的におかしな事になっているのに、その上で温度変化を与えて反力の微細な差を

検証しようとしてももはや「誤差の範囲」にしかならないでしょう。

これが+側に比例してバネレートが向上しているのなら分かりますが、センタースプリング圧縮数値をもう少し

細かく段階的に分けて反力計測しても、○o〜○oまで、といった区間平均のバネレートを算出するとそんな

ばっちり正確&一定値には出てこないんですよ…


だからこそ、私の個人的実験でも無視してしかるべきLVでの変化しかなく、センタースプリングにおいては

「実用範囲内でのセット長やそれに付随する反力変化」だけ計測していれば良い、としか考えていません。

細かな数値を無視するな!と思われる方もおられるかと思いますが、WR重量で数gとかの場合とは違い、

気にしてもしょうがない点を勘定に入れすぎてしまい、それによりセッティング方法等が間違った方向に

向いてしまう、なんてのは私が最も嫌う点でもありますからね(笑


そして、これはあくまでセンタースプリングを「真っ直ぐ押し縮めた」場合の反力変化であり、実際の運用では

世間の片隅でよく言われる「捻り角」ってのも影響してくるはずですが。

…でもね、単純な真っ直ぐ圧縮の状態での反力計測でも誤差があり近似値しか求められないのに、さらに

そこから捻りながら圧縮される力、なんてどうやってセッティングやタレ具合の加味にすれば良いんです?

可能であればどなたかそれを測定&計算して頂きたいですよ。私の脳味噌ではまず無理なので。


しかも、それがどれ位の力であるかのめぼしもついていないのであれば、そんなモンを勘定に入れる事すら

おかしい、ってのはお分かりかと思いますよ…

あ、これを考えるならばヤマハであれば特有の左巻きスプリングってのも気にしないといけませんし、自由長が

長いスプリングなら圧縮時のレート変化も小さめになるって事も必要ですしその逆もしかりで(以下略



では次に、ここからは私の理論をふまえての「バネレート変化の影響力」というものを少しだけ出していって

みたいと思います。

ちなみに今回は以前とは違いしっかり数値を出すので一切容赦しません(笑


で、これから表記する車両データはDioZXですがフルノーマルだという前提でお読み下さいな。

いつもはライブDio-ZXなのでたまにはスーパーDio-ZXを出しますが、この車両のデータとして


・7000rpm程度の変速開始と仮定

・発生トルク=0.73kg-m

・最大変速(減速)比2.711 (※実測での未変速状態)

・WR=51g

・WRガイド&ランプ角度 (無変速時のWRポジション)=30°&25°

・トルクカム溝 45°時

・実ベルトかかり径42φ&107φ


と、公に出来ない部分(各部の作用半径等)は割愛しますがおおよそこんな構成となります。

(※7100rpmにて0.73kg-mのトルクが出ている場合なので実際はもう少し低回転変速ですが、後述の

数値表記を分かりやすくする為に多少の補正を入れています)

ちなみにサービスマニュアル値の最大変速比「3.000」ってのはこの車両は絶対に表記の方が間違ってますよ(笑


で、この状態は未変速状態であり、ここから「7100rpm程度」の変速が始まる瞬間、として、その時点での

ドライブ側、ドリブン側双方でベルトを「挟む(張る)力」

を下図に表記しました。



駆動系ベルト側圧計算



こんな感じとなります。

上記の仕様だとこんな感じになっており、ドライブドリブン双方共に、ベルトへの側圧は「約80kg」同士といった

所でしょうか。


ちなみに厳密に言いますと上記の力関係のバランスになるのは「7103rpm」なんですが、力の数値を分かりやすく

「80kg」に揃える為に多少はしょってます(汗

これは「ドリブン側合力が80kg出ている」事がまず大前提であり、その力を上回る、イコール変速が

開始出来るギリギリの線ではドライブ側でベルトを張る力も80kg以上は最低限度必要である、といった事に

なります。


なのでスーパーDio-ZXのノーマル車構成では「最少変速状態の最大減速比において、80kgでプーリーを

押し出す力」が出せるのが7100rpm程度、って事ですね。

もちろんトルクカムの効く力、実際の作用力ってのも上記の条件だとこの位出ているのは仮定ではなく事実です。


なおトルクカム力の計算式やどこの寸法を拾っているのか等は公開出来ませんがご容赦下さい。

WR重量の遠心力が「プーリーを押す力」に変換される計算式はスクーターチャンプ2002からの抜粋です。



で…この図の中での「ベルトを挟んで張る力」の数値を見て頂ければお分かりかと思いますが…ドリブン側の

その力(合力)の配分としては、変速開始の瞬間にはトルクカムの力は実に「63.75%」をも占めています。

トルクカムの後半溝90°にあわせて硬いと言われるホンダのあずき色スプリングでも、このDio-ZXにおける

「ベルトを引き、トルクカムの作用に変換される力」と比較すればこの程度の影響力なんだ、という事です。


…意外だと思われる方もおられるかと思いますが、トルクカムの効く「作用力」ってかなり強烈なんですよ。

私は今までに他人様がここへ言及しているのは見た事が無く、苦労して弾き出したので参考までに(汗


そして、上記の図では変速開始の瞬間ですから、実際に変速が開始される段になるとドライブ側の

ベルトを張る力、ベルトに掛かる側圧はドリブン側のそれを上回らないと変速は開始出来ません。

なので実際には7200rpm程度にて変速を「開始」し、その後すぐ7100rpmとかに落ち着く状況ってのもあります。

実はこの辺の発進の瞬間の各部の動作、ってのが駆動系では一番ややこしかったりします。



と、駆動系の構成は今回の主題では無いのでそれはおいときまして、この上記の「状態」を基準とし、そこから

グランドアクシスの例の様にセンタースプリング反力が低下したとすれば、実際の変速回転数は

はたしてどの位落ち込むのでしょうか?


まず、これはDioですがセンタースプリングが「常温から動作時の温度」にまで達したとし、おおむねですが

「2%」の反力減衰が起こったと仮定してみます。

グランドアクシスの場合なら、未変速時と言うか最少ストローク時であれば「23.90kg→23.45kg」で「1.89%」の

バネレート低下ですから、それよりはわずかに大きく反力が低下してしまっているといった仮定としますね。

数値的に言えばセンタースプリングの反力差は「29kg→28.42kg」でありマイナス0.58kgとなります。

…ホントはこんなに落ちないだろ、と言いたいですが仮定なので今回だけは120%位譲ってみま(以下略



そしてこれは実は計算でもおおむね出るのですが、計算結果だけを表記してみますと


・ドリブン側でベルトを張る力=80kgでは「7103rpm」変速



・ドリブン側でベルトを張る力=79.42kgでは「7077rpm」変速


こういう結果になります。

ドリブン側で「ベルトを張る力」が低下すれば、その分ドライブ側でも「ベルトを張る力」ってのは小さくても

変速が出来ますから、WR重量が変化しない限りは自動的に変速回転数が低下するんですが、センター

スプリング反力がたかだか「2%」変化した程度では理論上はこんな物なんです。


「ドリブン側でベルトを張る力」が「80→79.42kg」になり、「ドライブ側でベルトを張る力」もそれだけで良いので

WR重量や他の箇所は一切同一の条件ですから、「同一のWR重量で低い遠心力を発生する」には回転数が

低くても良いんですよ。

イコール、変速回転数が低くても変速が始まる、と言う事です。


あ、スクーターチャンプの実験では100rpm以上の変化が出ていますが、この数値はあくまでDio-ZXな上に

計算値なので実走行とは多少の差異はありますよ。



…で、この「変速回転数変化」を見て頂ければ…いかがなモンでしょうかね?(笑


しかも、これは少なくとも「未走行の常温」から「サーキット走った実用状態の温度」までセンタースプリングの

温度が上昇したという状態で、さらにスクーターチャンプの実験例よりも多少バネレートが低下したといった

仮定の「変化」があった場合の結果ですから。

実際にはこんな「大きな変化」はある訳がないLVですよ。

前述しましたが、私の計測では誤差の範囲程度で、センスプの反力変化なんて体感でも分からないLVでしたしね。


…とはいってもそんなモンは当然で、そもそも熱による2%程度のバネレート低下が起こっているとしても、


「トルクカム力+センタースプリング反力」である


「ドリブン側合力=ベルトを張る力」に対しては


「0.72%程度の力の低下」にしかなっていない


んですよ?

「ドリブン側でベルトを挟んで張る力の合計値」はたったそれだけしか変化していない、と言う事です。


これが仮に、トルクカムの作用力が「5kg」位しかなくて、センタースプリングの反力がベルトを挟んで張る力の

大半を占めている、となればセンタースプリングの反力低下も大きな症状となって現れるかと思いますが…

そんなのは現実的にありえないのはもうお分かりですよね。


例えて言えば、WRの重量で「51g」入れてたのを0.72%分、「0.3672g」軽い物を入れたとして何が変わるんです?

WRを6個入れるとすれば1個に対し「0.0612g」ずつの軽量化ですがそんなの体感出来ますか?(笑


そして私、以前のコンテンツにてこう書いていますが↓


「一般的に言われている「タレ」の原因、「センタースプリングが熱によって柔らかくなる」と言う事が

あまりにも定説として浸透しすぎていますが、これは駆動系全体の1%程度なら影響はあるかも

しれませんが…

取り付け初期のエージング(慣らし)が済んでさえいればまずそんな事はありえない、と。」


これ、はっきりした数字を出せば1%どころじゃなくそれ以下でしょ、って事で。

80kgあるドリブン側合力が79.42kgになったからといって何がどうなるんだ、と。


ちなみに前述のグランドアクシスの例にしても、0.5kg程度センタースプリング反力が低下したとしても

「ドリブン側合力」に対しては0.6%程度の影響率しかありませんよ。



そして、普通は駆動系ってしばらく走って「暖気」してからセットを開始しますよね。

機械の安定動作の為の「暖機」ってのはエンジンだけあっためれば良いって訳でも無いんですよこれってば。

その日一発目にエンジンを始動してすぐ全開で走り、その1発で今日は調子がどうたらなんて事を判断する

人なんてなかなかおられないでしょうが、ある程度熱が入って適温になってきた状態と、限界まで酷使して

駆動系を熱くした状態(といっても65℃程度)への「変化」でも、上記の様な派手な事はまず起こりえません。


で、その差を「体感」って出来ますかね?少なくとも私はサーキット周回でコンマ1のタイムを気にする場合や、

SS1/32mileみたいな、走行条件やライディングがかなり同一条件に近い環境であってもほぼ不可能に近いです。

…手前味噌ですが、私はコレでも「体感力」ってそれなりに自信のある方なのですけれどね(笑



これはですね、


駆動系の暖機すら行っていない状態と



実走行時の「温度差&バネレート変化」なんて比べても



全く無意味である



と。これは力の限り断言させて頂きますよ。


駆動系をキッチリ暖気してベルト等が正常動作し、センタースプリング等にもちゃんと熱が入っているので

あれば、「そこから」は極端に温度自体上げようがありませんし、バネレートにしたって変化のさせようが

無いんですね。


なので、常温から160℃まで温度上昇、とかのありえないLVの温度変化での「バネレート変化具合」を語っても

さらに意味が無いと言う事はお分かり頂けたかとも。


スクーターチャンプの実験では変速回転数にも120〜180rpm程度の差は出ていますが、そりゃセンタースプリング

「以外」の部分の暖機すら終わってない走行一発目にはちょっと位唸り気味になって当然でしょ、とも言えます。

逆に、冷間時一発目の走行で、暖機時に比べ変速回転数が少しも変わらない車両なんて私は見た事ありません。

これは駆動系があったまって変速回転数が落ち着いたところが「正常」ってだけですよ。



とまあ、単なる補足のつもりがそれなりに計算等を出してしまったのでちと長めになりましたが。

私からしてみれば、この程度の「力の変化」で、「センタースプリングが熱ダレする」と言うのは、表現としては

絶対におかしいであろう、と考えていますよ。


最初にも書きましたが、「熱ダレする」って場合、もっと極端に変速回転数の低下が起こり、500rpmとか1000rpmの

LVでピークパワーから外した変速回転数にならなければ明確なもっさり感や加速のマイルドさって感じないでしょ?

これは以前にも掲示板で書きましたが、



たかだか100〜200rpmの変速回転数の低下があったとしても


おもくそピークパワー、パワーバンドすら外してしまう仕様なのか?



とね。

通常はそんな事はあるはずもなく、一般的にはそんな100や200rpmの変速回転数ダウンでは

「熱ダレ」とは呼びませんよ。


仮に7000rpm変速では調子が良いのに6900rpmに変速回転数がダウンしたらもっさりして走らないのですか?

そんな事もまずありえません。


数百、場合によっては1000rpmオーバー単位での「変速回転数が落ちる」症状こそが「タレ」であり、


そんな変速回転数が極端に低下する様な症状が起こる場合は



センタースプリングではなく他の部分がおかしくなっている



単純にこういう事なんですよ。

それが熱の影響を受けやすいゴムのベルトであり、アルミプーリー等のパーツの変形や劣化なんです。

前にも書きましたがセンタースプリングのバネレートが数十%も低下する所にまで温度上昇が起こって

いるならば500℃オーバーとかになっていないとおかしいですし、そこまで行くと確実にベルトなんて溶けてます。


ここいらへんを間違えていては、いつまで経っても本当の意味の「熱ダレ」からは抜け出せませんね。

…だって私も昔に苦労しましたもん(笑


仮に酷い熱ダレに襲われたとしても、「タレるのはセンタースプリングが熱くなっているからなんだ!」と考えて

いくらセンタースプリングをいじくっても、根本的原因がそこに無いのではそれこそ無意味なんです。

「センタースプリングが大きくタレるから変速回転数がガタ落ちするんだ」と安易に結論付けるのではなく、それは

「他にも原因があるのではないか?」と考えられる柔軟性が大切なんですね。



後もういっちょ。

例の記事にて、社外品センタースプリングの中古品と新品の「バネレート」を比較したデータも掲載されて

いましたね。

これは社外品の強化モノで、3年使用した物と新品を比べていましたが…

「反力の差」の数値だけしか結果のデータが載ってなかったのでこれも明記しますと、


・最大30oストローク時の反力

新品:42.35kg

中古:38.20kg

反力の差:4.15kg


とりあえず例を一つだけ出しますがこんなデータでした。

…ここで騙されてはいけないのは、これはあくまで単純な「新品と中古の反力の差」なのであり、上記の様な

「温度変化を加えた状態での反力の差を比較計測した数値ではない」と言う点です。

が、これもね、外した直後ではなく1〜2日放置した状態を経過させた上で測りましたか?ってのを突っ込んで

みたい所ですが(笑


そりゃスプリングなのですから、距離は知りませんがそんだけクソ硬いモノを3年間もの間、圧縮したまんまで

ほっときゃちっとはへたります。

が、これはあくまで「劣化」している事の比較であり、「温度変化」の比較では無い、と言う事です。


…ぶっちゃけて言うとすんげえ紛らわしいんですよコレ。

しかも前述の「熱によるレート変化」を記したグラフの中に、この「ヘタリによる劣化の数値」まで一緒に表記して

いるんですよ。全く異なった状態のバネレート数値の変化を同一表記するなんてあからさまにおかしいですね。


熱ダレの話をしている所に密かに「ヘタリ」の問題を混ぜているなんて、曲解させようとしか思えない記事構成です。

「私個人」の意見であればね、160℃という想定外の無茶苦茶な温度を加えてもさほど変化が見られなかったから

「グラフでの視覚的な変化値」を出したいが為にわざわざソレをねじこんだのかね?と思いますが。


そしてそんな比較物が目の前にあるのならば、一番の本題である熱によるバネレート変化実験もちゃんと

やってみりゃ良いのでは?何故それをやっていないのですかね??

ヘタっている社外品がどの位「タレる」のかはかなーり皆さん興味のある所だと思いますよ。

実は本当は実験したけどバネレート変化率が大きすぎて…とかって邪推も出来てしまいますがね(笑


とまあ、この手の商業記事にはあまり突っ込んでも始まりませんが、ちと「やりすぎ」じゃないの?とは

強く思ったという事で。

…この実験って何の為にやってるんでしたっけね?熱によるセンタースプリングの変化があるか無いかでは

なくて、熱により多大な悪影響が起こるLVでの「熱ダレ」の要因となるのかどうか、ではありませんでしたっけ。

さすがに悪意のある情報操作と取られても文句言えないですよコレってば。


あ、もちろんこれにツッコミがある方がおられればどんどこお便りをお願い致しますね(笑



とまあ、長くなってしまってますが、今回は以前書いた駆動系の「熱ダレ」ってモノに対して少し補足、と言いますか

定義をはっきりさせてみました。


が、勘違いしないで頂きたいのは、私は「センタースプリングは一切熱の影響を受けない」とは言っていません。

コレは以前のコンテンツにも書いた通りですが、だからといってその影響がどれ程の物なのか、それは果たして

体感やタコメーターに変速回転数ガタ落ちの「熱ダレ」となって現れる物なのか、といった点においては、

そんな絶大な影響はありえない、と分析しているという事で。


基本的にはいくら鉄製のバネとかでも温度上昇と共にレート変化がある、ってのは揺るぎなき事実です。

物理的法則を覆す事は無理ですのでそれを否定したりはしませんが、現実的な影響力を鑑みれば、実際に

センタースプリングの微細な変化を「熱ダレ」の考慮に入れる事が建設的なのか、と…


で、私もこれだけ言ってるんですから、最後の最後にひとつ説得力ってモンを出させて頂きましょうかね。

私自身でも、仮にDioのノーマルセンタースプリングなんかは、多少のヘタリが出ても、前述の社外品の様には

「極端な寸法変化や反力変化は無い」というのはちゃーんと実験済みですよ(笑


とりあえずですが私の「23233-GM0-000」の墓場です↓







純正センタースプリングの墓場



上の方のはまだ新し目みたいですが、この段ボール箱の底までこの一種類のブツしか入ってません(笑

これはFNで駆動系のパーツ互換が駄目だった時期や、クレアセンターを煮詰めるまでずーっと買い続けていた

純正ノーマルセンタースプリングのなれの果てです。

ちなみに他にもまだありますが、コレ以上に数を買った人がおられたら是非お友達に(以下略


…10ウン年前ですがその当時、ノーマル新品をいきなり使用すると硬すぎるので、2時間位使って慣らした物を

「ベストの状態の物」とし、サーキット走行毎に対し新品1本を毎回用意していたという…今考えると気が狂った事を

やってましたんで。

これはWR重量変更すら認められていなかった時代の名残でもありますね。

この中には中古エンジンから抜いて放り込んだものもありますが、基本は実用として使ったモノが多いはずで、

当然、この他に新品未開封の物も何本もありますがもう色々な意味でイヤで(以下略


で、これらの様々なモノの自由長やへたり具合を計測しまくっても、サービスマニュアル値を下回る位にまで

ヘタリが来ている物って、これだけ数十本も数があってもその中には数本しかありませんよ(笑

数万kmとか乗りつぶした物であればさすがにそこまで行っているモノもありましたが、それを実際に正常な

車両に取り付けて走行してみても、別に極端に熱ダレとかしたりは一切しなかったですけれどね。

なので私、クレアセンター仕様とかだとセンタースプリングを新品交換したことなんて数える位しかありません。


さすがに古くなって使用限度を超えているモノだと「セット時のバネレートの低下」は当然ありますんで、

新品と比べれば変速回転数が200rpm低下した、とかいう症状はありますが、かといってそのスプリングが

「熱ダレするかどうか」とは全く別問題である、と言う事も補足させて頂きますね。

ノーマルエンジンのパワーで走行毎に毎回同じ程度まで慣らした新品の純正品を使い、その上で色々と

試したり後々の実験に使ってもいましたが、少なくとも今回の理論に対しては、これだけ「分母がでかい」とも

言える、いう事でよろしくです。


…もちろん全部のバネレートを測った訳ではありませんけれどね。

だって、「誤差の範囲しか変わらないモノ」を何十本も測り続けるなんて阿呆だ、ってすぐに気付くでしょ?(笑


ですが、そんな私でも言える事の一つとして、



センタースプリングは社外品の方が


純正品に比べてはるかにヘタリやすい上に


熱の影響も受けやすい



ってのもあるかな、と。

あ、この場合の熱の影響ってのは「冷間時と温間時で」差が激しい、って意味です。


別に社外品を進んで貶めるつもりはありませんが、それが事実に近しいと私は分析しています、って事で。

少なくとも、某D社の様にバネレート20%UPを謳っておきながら実際には40%UPになってるモノとかを

信用しろ、という方が難しいですし(笑

実際にバネレートやセット荷重を計測してまでいちゃもんをつけているとも取れるかと思いますが、そんなモン

一体何に使うんだよって事には変わりありませんよ…



ではでは。

今度こそおしまいにしたいと思いますが…今回はあくまで補足ですし、大して中身無いのでまとめはありません。

と言いますか、まとめや総括は必要ないLVの内容なので(笑

…「熱ダレ」ってのは確かにやっかいなモノですが、そこでセンタースプリングが悪さをしていると言う事は

実用的な範囲だと99%ありえない事である、というのは断言させて頂きますね。

「極小さい力でも影響力は必ずあるから絶対にそれが悪さの根源だ!」なんてのは道理として通りません。


「WR遠心力がプーリーを押す力」や「トルクカムの作用力」を考えてみれば、センタースプリングってのは

「駆動系のおまけ」扱いでしかない事にも気付いてしまうんですよ。

私は以前から言ってますが、センタースプリングってのは「トルクカムが有効に効かない状況において、

最低限度のベルトを張る力を出せれば良い」ってモノにしか過ぎません。(アクセルOFF時等)


そしてセンタースプリングの反力計測は行っている方はたくさんおられるかと思いますが、「トルクカムの力」を

勘定に入れないと、トータル的な力関係ってのは絶対に把握出来ないんですね。

トルクカムの力ってのがどの位なのかを分析せずに、センタースプリングの微細な変化のみを追及しても

まったくもって無意味なんですよ。


センタースプリングは「熱による反力変化」は存在するが


それが致命的な「タレ」の要因になっている事などありえない


そんな事を考える前に「各部の暖機」の必要性も学ぶべき


これを私からの意見のまとめとさせて頂きますね。


熱ダレの様なトラブルがあると「これのせいだ!」って疑う事も大事ですが、冷静に考えてみればちょっと

おかしいなといった事もあるのが世の中なので、何事にも頭は柔らかくして行きましょう、って事で(笑



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