さて、今回は前回に引き続き、点火時期関連のお話を続けたいと思います。
具体的な「今現在の自分自身のエンジンの点火時期の把握」という事に関しては前コンテンツにて
ご紹介した通りですが、今回はそれが「点火時期としてどうなのか」といった事や、表題通り2stエンジンの
絶対的付加要素である「パワーの谷」やそれらとの関連性についてお話してみますね。
なお改めて多少補足しておきますが、ここで行われる「クランク角度での表記」は、ピストンが
上死点(TDC)にある状態を、「クランクシャフトの回転角度が0°」と表記するという事です。
単純にピストンが下死点(BDC)にあれば、クランクは180°回転しているという事になります。
その場合、表記としては「ATDCもしくはBTDC180°」となります。
このあたりはポートタイミング等を考える点においても必須なので、ご存知で無い方は勉強される事を
お奨め致しますね。
エンジンの仕組み等の理解において、ある程度のLVを超えるとどうしてもこの意味合いを理解する事が
必要になってきますので…
・いつもの目次
・燃焼圧力がピストンを叩く「クランク角度」
ではまず、基本中の基本となる、「混合気の燃焼による圧力波がピストンを叩く」といった
事柄について触れてみたいと思います。
これは皆さんもご存知の通り、シリンダー内にある混合気はピストン上昇と共に圧縮され、プラグが
点火され混合気に着火し混合気の燃焼が起こり、それにより発生する「燃焼圧力」がピストントップを叩いて
クランクを回転させる力になっていきます。
ピストンというものは、強くぶっ叩けばクランクは速く回りクランク軸での力も出ますが、その燃焼圧力が
「ピストンを叩くタイミング」って、一番無駄が無く効率が良くなるのはどういった状態の時だと思われますか?
これは、以前のコンテンツでも少し触れましたが、
「ピストンが上死点に達し、わずかに下降を始めた状態」
なんですよ。
基本的にはATDC10°辺りが理想だと言われていますね。
すでに下がっていこうとしているピストンを「押して」やるのが最良のタイミングで、これだと無駄な力も
要りませんし、上死点に達した瞬間にピストントップを叩くよりもはるかにロスが少なくなります。
まずはこれが「点火時期」を考えるにあたっての基本中の基本です。
点火時期調整とはこの一点の効率を追い求めるための調整だ、と言っても差し支えは無いかとも。
で、ピストンというものは「往復運動」をしているので、上死点および下死点においては、ほんのわずかの
時間ではありますが、「ストロークスピードとしては完全に0」になっており、「停止」しているんですよ。
なので、仮に上死点ぴったりにて燃焼圧力がピストンに到達した場合、完全停止しているピストンを
叩いてやって加速させる、といった動作になってしまい、これでは機械の動作としての効率が悪いんですね。
なので、わずかに上死点を過ぎATDCで加速し始めたピストンを「押してやる」といった燃焼圧力の
到達の「させ方」こそが、ピストンやクランクの動作としては一番効率が良くなる、という事になります。
と、いつもの下手絵ですがこんなイメージになっていますね。
例えば、完全に停止している車両を「押す」のと、下り坂等で少しでも動いている車両を「押す」のとでは
「同じ力」を加えて押そうとするとしても、どちらがより加速させやすいでしょうか、といった感じですね。
「点火時期調整」というものは言葉尻だけ聞くと一体何の為に行っているのかを理解しづらい面も多少
あるかと思いますが、実際にはエンジン、というかクランクシャフトが効率良く力を出す為のとても大切な
要素を「セッティング」しているんですよ。
駆動系と同じで、エンジンパワー=クランクの仕事量が多くても駆動系がヘボいとリヤタイヤは強く速く
回らないですし、いくら燃焼圧力そのものが強大になっても、効率良くピストンを叩けないのでは
クランクシャフトには「力」は伝わりませんからね。
そして、これは前コンテンツにてご説明した通りですが、仮にストローク41.4oでコンロッド長80oの
縦型Dio系エンジンの場合だと、ATDC10°点というのはストローク量にしてわずか「0.4o」ピストンが
下降した位置になります。
なので、実際には寸法で現すと結構シビアになるんですよね。クランク角度でモノを考える、という事は
そういう事である、という事も改めて認識して頂けると幸いです。
次に、そのATDC10°点付近で「燃焼圧力をピストンに到達させる」といった目的の為の調整の手法ですが、
これはまず自身のエンジンにくっついているCDIの点火時期をきっちり把握しないと全くお話になりません。
点火時期コンテンツその2の最初で書いた様に、現状が何度か分からないのに正確な進角も遅角も無いと
いう、至極当然の理由になります(笑
なので、ここから先は少なくともご自身の車両もしくはCDIの「ある程度正確な」点火時期のグラフを手元に
用意されている事を前提としてお話を進めて行きますのでご了承下さい。
なおサービスマニュアル表記では、通常はパワーバンドでは無い回転域の点火時期(角度)が表記されていますが
これはあくまで「実走行には関係ない部分の点火時期」であり、仮に2000rpm/BTDC10°といった
表記でも、実際に6〜7000rpmまで回転数を上げるとかなり進角している、といったエンジンもありますから
サービスマニュアル表記のみをアテにするのでは「実際の調整に役に立つ点火時期」を把握する事は絶対に
出来ない、という事もご留意下さい。
あれはあくまで「アイドリング近辺の点火時期のみを測り、CDIがきちんと動いているかどうか」
のみを「トラブルシュート」するだけの参考数値です。
ぶっちゃけると、アイドリングの点火時期だけ測っても高回転の点火時期がぶっ壊れていたりする事もあるので
アイドリング点火時期が規定値だったとしても安心は出来無いのですよね…
ではまず、ここでも例題のエンジンとして、縦型のAF18系Dioエンジンを教材とします。
このエンジンだと、基本的に点火時期そのものは「一律BTDC17°程度」だとお考え下さい。
実際には6000〜7000rpmにて1°程度の遅角はありますが、この程度はまずは誤差と考えておいて下さいな(汗
最初は全回転域において一律固定点火時期の仕様で無いと、初歩の理論も理解しづらくなるので。
他車種ではアイドリング時の2000rpm等では数度遅角している物もあったりしますが、基本的には
「実際の走行中に使わない回転域」はあまり気にしてもしょうがないのでとりあえず無視してもOKです。
さて、ではこの車両で、前述の様にATDC10°付近でピストンに燃焼圧力が到達するのを「一つの理想」と
するのであれば、実際には火炎伝播速度を把握したりしなければならないのでさすがにこの辺は割愛させて
頂きますね。
と言いますか、この辺を出したとしても実際の点火時期調整にははなかなか反映しづらい上、私も皆さんに
完璧にご説明出来る程に理解が進んでいる訳ではありませんので(汗
では皆さんもご存知の様に、「プラグで着火されて燃焼が始まる時期」と、「燃え広がった燃焼圧力が
ピストントップを叩く時期」というのは結構な開きがある、と言いますか時間が掛かるモノなんですが、まずは
これを絵でイメージしてみましょう。
クランク角度はかなりオーバーに書いてますが、左から順番に、点火→燃焼→圧力到達、といった感じになります。
混合気の燃焼圧力というものは「燃え広がるスピードが存在する」という事は前コンテンツにてご紹介した
通りなので、点火時期、すなわち「プラグに火が飛ぶ瞬間」というものは、上死点前でないと燃焼圧力が
効率の良い段階でピストンを叩くのに「間に合わない」とも言えるんですよ。
そして、図の一番左の点火時期が仮に前述の「BTDC17°」とすれば、実際にはどの位のクランク角度にて
燃焼圧力がピストントップを叩いているか、というのが気になる点ですよね。
これは、実際にはピストンスピード、すなわちクランクの回る速さ=エンジン回転数によっても異なっては
来るのですが、一つの例えとして「ノーマルエンジンでピークが7000rpm程度で出ている」といった
条件とし、7000rpm/BTDC17°といった点火時期だと仮定します。
もちろん圧縮比もノーマル、チャンバーもノーマルの至極一般的なものとします。
で、実際に燃焼圧力がピストンを叩いているクランク角度としては…
おおむねですが、「ATDC12°」程度になっているのでは、と、限定的条件ではありますが私は
そう分析しています。
これは、実際の実験と言いますか点火時期を変更してみてやればある程度分かるのですが…条件に
よっても変化があるので定番的なノーマルエンジンとしての変化具合を記してみましょう。
ちなみに、条件としては「2st単気筒ノーマルエンジン、ピークパワー7000rpm程度、ボア径40〜50φ程度」の
構成だとお考え下さい。
※AF18系ノーマルエンジン
・ノーマル時=BTDC17°で着火→ATDC12°で圧力波がピストンを叩く→ノーマル状態
・3°進角でBTDC20°で着火→ATDC9°で圧力波がピストンを叩く→エンジン音が歯切れよくなりパワーUP
・9°進角でBTDC26°で着火→ATDC3°で圧力波がピストンを叩く→異音発生+パワー低下でやばそう
で、もういっちょ例を出しますと
※3YK-JOG系&ライブDio系ノーマルエンジン (点火時期は双方共ノーマルでBTDC14°ほぼ固定)
・ノーマル時=BTDC14°で着火→ATDC15°で圧力波がピストンを叩く→ノーマル状態
・6°進角でBTDC20°で着火→ATDC9°で圧力波がピストンを叩く→エンジン音が歯切れよくなりパワーUP
・12°進角でBTDC26°で着火→ATDC3°で圧力波がピストンを叩く→異音発生+パワー低下でやばそう
とまあ、ボア径39〜40φにて混合気充填効率はノーマル、ピストンスピードは7000rpm程度にて
ピークパワーの出ている3車種を例に出してみました。
DioとJOGでは違うんじゃ?と思われるかもしれませんが、実際には点火時期を色々と変更して行った場合、
ノーマル風味でもそこそこのチューニングエンジンでも、
「過剰進角させておかしくなってくる」点火時期というものはさほど大差ない
んですよ。
実際には7000rpm時にBTDC25°オーバーまでも進角させてしまうと、ノーマルエンジンであれば一発でボン、と
いう事にはまずなりませんが、明らかにエンジン音が悪くなってきてパワーの出方自体も低下してきます。
プラグも焼け気味になり、いかにも危なげな雰囲気がひしひしと伝わってきますね。
そこまで行くといくらなんでもやりすぎだ、といった事は実際に体感もしないと分かりづらいのですが、これは
さすがにエンジンを壊す覚悟での経験も必要である、といった部分になります。
…この辺は文章のみでは分かりづらいと思いますので、是非ご自身にて紙に円を書いたり紙で扇形を
作ったりして、クランク角度や点火時期の「角度」のイメージをこしらえられると宜しいかと思いますよ。
で、上記の点火時期変更の場合だと、どのエンジンも7000rpm/BTDC20°程度で点火させていますが、
何度も言いますがこれはあくまで「ノーマルエンジン+7000rpmがピークパワー」であるといった限定条件で
あり、仮に圧縮比をUPさせるとかビッグキャブを付けるとかして、混合気の充填効率を高めてやった場合だと
当然のごとく燃焼圧力波の速度は速くなります。
そういった場合だと、理論上は点火時期は当然遅らせてやった方が良いのですが…実際はですね、よっぽど
高効率な混合気充填効率を与えない限り、そこまで点火時期という物は激変させなくても良いんですよ。
多少速くなった燃焼圧力波の速度でも、ピストントップを叩くまでの速度、いや時間というものを稼げますので。
なので、前コンテンツでも書いた様に、エンジン仕様やピーク回転域の違いによって、ある程度ベターな
点火時期より「点火時期セットが10°も20°も異なる」という事はまずありえないんです。
そんな事が起こりえるのであれば根本的にエンジンの作り方がおかしい証拠にしかなりませんので…
大昔のレーサーエンジンでは点火時期は上記のDioやJOGの例の様に、「ピークパワーの出る回転域に
対して決め打ちし、他の回転域も同一点火時期」という事が基準だった様ですが、今日でもそれなりの
エンジンチューンでの実際の運用に対してはそれでもさほど困らないのですよね(笑
これ、ちょっと難しい話になるので詳細は割愛しますが、エンジンの基本として
ピストンスピードそのものが上がってきても
混合気の燃焼圧力波の速度は速くなっていく
混合気の充填効率の大小とは別の話で
混合気の燃え広がる速さ、というものは正確には「火炎伝播速度」といって、これは混合気がシリンダー内に
吸入される速度と、混合気が燃焼して発生する圧力波の速度の、「双方を足したスピード」になるんですよ。
ややこしいのでコンテンツ内では「燃焼速度」で通していますが、実際にはそういった定義になっています。
すなわち、点火時期を進角させなくとも、高回転域では燃焼圧力波の速度が極端に足らない訳では無いとも
言えるでしょう。
が、重ねて言いますがこれはあくまで
そのエンジンの「ピークパワーの出る回転域」に対し
ある程度適正な点火時期が設定されている場合に限る
上記の混合気充填効率UPによる燃焼圧力波の速度UPも含め、ノーマルエンジンのノーマル点火時期に
おいて、「エンジン回転数が高くなれば燃焼圧力波の速度が上がり、ピストントップへの到達が間に合うので
点火時期をいじくらなくても良い」という訳ではありませんし、「多少チューンして同一回転域での混合気の
充填効率を上げたから燃焼圧力波の速度も上がるのでOK」という訳でも無いのでよろしくです。
…その位、「ノーマル点火時期」という物はエンジン効率に対して遅すぎる場合も多い、という事ですね。
ぶっちゃけるとノーマルエンジン+ノーマルセットに対しても全然足りてないし間に合って無いんですよ(笑
(※もちろん車種にもよりますが、そんな適正値に近い位まで効率良くしている車両ってあまり無いです)
ノーマルエンジンからでは多少圧縮比を上げようが、排気ポートタイミングを変更せず横に拡大しようが、
その程度の事では燃焼圧力波の速度を「大きく」変化させる事は難しいので。
実際に、Dioのノーマルエンジンを圧縮比を8:1程度にして排気ポート弦長のみをボア径の70%にした所で
点火時期がノーマルのBTDC17°でバッチリか、といえばそうでは無いと思えますし、BTDC20°程度まで
進角させてやってもそれがいきなりぶっ壊れる、なんて事はまずありませんしね。
…ただし、いくらノーマルセットというものに「余裕」があるとはいえ、これは長年メンテせずに乗り続けて
ピストントップにカーボンが溜まりプレイグニッションを誘発したり、排気ポート通路上部にカーボンが堆積して
しまい、圧縮比が上がってしまったりする事を「加味した上での余裕」である、と言う事も忘れてはいけません。
ノーマル設定の点火時期はパワー効率に対しては100点満点ではありませんが、「何の為の余裕」が
存在しているのかという事です。
という訳で、点火時期セッティングにおいて一番大切なのは
一律固定点火時期のCDIでも、各回転域に対して点火時期変化のあるCDIでも
まずはピークパワーの出ている回転域に対して良好な点火時期をセットする
…全回転域に対して一律点火時期ではないCDIの場合は、当然のごとく点火時期が「何回転で何度」に
なっているのかを最初にきちんと計測、把握していないと駄目な理由もここにありますよ。
その上、点火時期が大きく動いているのかほぼ固定なのかも実際に測ってみないと分からないですしね。
とまあ、ノーマル車においてのピークパワー発生回転数とノーマルCDIての固定点火時期を一例として
出しましたが、実際には7000rpmピークでも10000rpmピークでも、それなりの混合気充填効率を持ち
一般的な40〜50φ程度のボア径のエンジンであるならば、無難な所で「BTDC20°前後」の点火時期で
ベターな所かな、と私は分析していますよ。
当然、これはボア径が大きくなったりすれば多少は変化すべきものですし、絶対的な数値ではなく
一つの目安、として捉えて頂けると幸いです。
あと一つ、これは仮にライブDio+ノーマル点火時期のCDIがベースだとする場合、実際にはBTDC14°程度の
一律固定点火時期ですから、「実際に進角させる角度」となれば、ノーマルとの相対的な比較であれば
BTDC20°に合わせたいなら「6°の全域進角」になる、と言う事もお忘れなき様にお願いしますね。
AF18系エンジンなら「3°進角」でBTDC20°ですが、元々の点火時期自体が異なれば当然の事です。
これも車種や元の点火時期により、BTDC20°を目指す場合でも「ノーマルから○°の進角になる」という物は
異なりますから、圧縮圧力表記ではありませんが「俺の車両ではノーマルから5°進角でぴったりだぜ」というのも
人に聞いてアテになるものではありません。
全く同一構成のエンジンで同一のCDIであれば目安にはなりますが、きちんと点火時期を管理する場合には
前コンテンツの様に、自身のCDIの点火時期を「広い回転域で」測って把握しないと何も始まらない、という事は
ご留意下さい。