BTDC点火時期について その4 実際の調整



さてさて。今回はやっとの事で点火時期関連のコンテンツ、一応の完結編としたいと思います。

やっとこさここまでご説明する事が出来ましたが、点火時期うんぬんって人様にお伝えするとなるとこんなに

説明がややこしいモノだったとは…これを書いている私も自分でびっくりしていますが(笑

…とはいえ、ここからがやっと応用というか実際の調整を見極める為の理論と実践になるのでもうちょっと

お付き合い下さいな。

こればかりは基本が分かっていないと結構リスキーなモノなので…


・いつもの目次


・パワーバンドのズレと点火時期設定のズレ


まず、市販スクーターの様な基本一律固定に近い点火時期、パワーの谷の補正部分等は考えていないと

いった、回転域や混合気充填効率に対応した進角も遅角も無い点火時期特性ではなく、ちょっと違ったというか

本当の意味での「一般的」な点火時期特性といった物の一例を出してみましょう。

と言いますかノーマルエンジン+マフラー仕様であれば谷の部分なんてほぼ使わないのでそんな調整は

要らないっちゃ要らないのですが、スクーターいじりだからといってそれが基本だと考えてしまうのでは

ハイチューン2stエンジンへの応用とは行かないのですよねこれが(汗


で、これは一般的、と言いますかレーサーとかのCDIであれば、明確にパワーバンド直前の谷の回転域が

ぱりっと「パワーバンド域に比べて相対的に」進角気味になっている、といった感じにはなっています。

一例として前回のコンテンツの最後に出した、縦型Dio系用キタコインナーローターのグラフを出しますね。


AF18系用キタコインナーローター2種類の点火時期



と、ちと見づらかったのでそれなりに異なる特性を持つ二種類のみのグラフとしました。

あ、前回のコンテンツのグラフで「ビート用」って書いてたのは表記間違いで「7E0」はDio用の初期型の

タイプでしたので脳内変換をお願いします(汗


さて、これはとりあえずのレーサー用、といっても良いCDI…というか点火時期設定なんですが。

実際はこのAF18系用のキタコインナーローターってCDIは使っていないので厳密にはCDI特性ではありません(汗

で、グラフを見ると、「低回転では点火時期が速く、回転が上がる程にどんどん遅くなってくる右肩下がり」

点火時期となっています。

これ、アイドリング周辺とかの低回転域だと実際の走行では使用しませんが、エンジンが2000rpmだとしても

実際には着火ミスとかが頻発していて、2000rpmだからといって1分間に2000回確実にピストンを叩けている訳では

無いので、その辺りはエンストさせないとかの関連性も含めて点火時期が低、中回転で絶対的に進角していると

いった仕様、ここは市販車と違っている面が大きいです。


仮に中、高回転での充填効率、爆発&燃焼圧力を重視し、高回転側にパワーバンドを発生させてなおかつ

ピーキーになるエンジンであれば余計に低、中回転のエンジン回転を安定させづらくなるので、これもある意味

進角、というか点火時期を速めにして混合気充填効率の悪さ、着火率の悪さをカバーしているんですね

なので基本は、レーサーだと右肩下がりのマップ…ではなくグラフになるモノが多いんですよ。


で、このグラフを見て、とりあえずポン付け状態の点火時期は把握できたとしまして、皆さんならこの2種類の

点火時期特性をどういった風に活用しますか?

あ、点火角度そのものが担当の各回転域においてが速いか遅いかはとりあえず置いておきましょう。

これは前述の通り、「パワーの谷がある部分をパワーバンド域よりは進角させておきたい」といった基本の

理念があるのであれば、おのずと決まってくるものなんですね。


あくまで一例ですが、私なら「パワーバンド直前にパワーの谷がある」部分は進角気味、それ以降はある程度

相対的に遅角している点火時期としたいですね。

グラフの通り、全回転域が一律点火時期では無いのでそれが可能である、とも言えます。

具体的にはこんな感じになる、と言いますかこういったエンジン特性の車両にしか使えない、とも言えますが…


点火時期が進角している部分を谷に合わせると…



ちょっと見づらいですが、ピンクの線と青の線、双方の点火時期に対してどんなパワー特性のエンジンが

合うのか、を記してみました。

文字通り山あり谷ありの実線がパワー特性で、「先に点火時期特性ありき」であればどういったエンジンの

特性に合致するか、を記しています。

勘違いしないで頂きたいのは、実線のパワーグラフはあくまで「そういった特性のエンジンがある」と

いった事が大前提なので、こういう点火時期特性を付与するとパワー特性がこうなる、といった意味では

ありませんのでご注意願います。


…これは本来は手順が逆なんですが、こうしないと「谷の部分に出来るだけ速い点火時期を合わせる」といった

考え方が出来なくなってしまいますんで。

(※ここから先は別ウインドウか別タブでグラフ図を開いておき、文章と見比べながら読み進めて下さい)


まずは「7E0」の青線点火時期、こちらは9500rpmまで16°で、10000rpmからはがくっと遅角していく特性に

なっていますよね。なのでこの遅角が始まった以後の領域をメインパワーバンド領域に入れるしかなく、

点火時期を相対的に速めておきたい「パワーの谷」の回転域は16°領域に放り込んでいる、という事になります。


これはこの点火時期が「10000rpm程度で極端に遅角している」のでそうするしか無いんですが、これだと

自動的に、「9500rpm位が谷、10000rpm以上がパワーバンド」のエンジンにしか上手く合わない、

とも言えます(汗

これがまず一つ目の難しい点でして、点火時期特性を上手く利用し、パワー谷の回転域に相対的に進角して

いる領域を持って来ようとすれば、エンジン自体の仕様が決められてしまうという事にもなるんですね。


で、谷の部分の点火時期を無視するならば、極端に遅角が起こってしまう10000rpm以上の回転域はすぱっと

切り捨ててしまい、それ以下にピークパワー&パワーバンドが来る特性のエンジンなら無難ではありますが

6000〜9500rpm程度までほぼ一律点火時期なので、この辺のどこかにエンジンのピークが出る仕様に

くっつけてもOKでしょう。


が、ここで実際の点火時期と言うか、単体での「点火角度」を見てみましょう。

青線の点火時期だと、表記の様に9500rpm程度に谷があり、11000rpm程度でピークが出ているエンジンで

この点火時期を運用したとすれば…正直、11000rpm位のピーク時に点火時期がBTDC10°、という事になりますが

これ、こんなに点火時期が遅くてパワー出ると思えますかね?


実際は40〜50φ程度のボア径のハイチューンエンジンで11000rpmピークだとしても、いくらなんでもBTDC10°は

遅すぎます。これが仮にAF18系でリミッターの無いノーマルCDIでも11000rpm時には16°程度なのですから、

一般的なノーマル車に比べても話にならない程に点火時期が遅い、という事はお分かりかと思います。


ここで大切なのは、


CDIの点火時期特性、すなわち「各回転域における点火時期の変動」を把握し


それに伴った特性のエンジンに使ったとしても、「点火角度そのもの」が合っていないと


まるでパワーは出せない


という事になりますね。


…何を言っているのか分からない、という方もおられるかと思いますが、上記青線の点火時期特性を

ピークパワーが11000rpm程度で出るチューニングエンジンに使ったとしても、肝心の点火時期そのものが

BTDC10°じゃあパワー出そうな気がしないでしょ、と…


これを解決するには、仮に11000rpmならBTDC19〜20°位では点火させたいと私は思うのですが、

例題はDio系用のインナーローターなのでヤマハみたくベース移動での全域進角が出来ません。

となればこのブツは全域進角の手法は一つしか無いのですが…「それ」を行って、11000rpmにて

BTDC20°で点火する様に、ローター本体を10°進角させてやればOKなんですよ。


が、その反面、谷のある回転域での点火時期も同じく10°は進角するので、9500rpm辺りの点火時期は

BTDC26°まで進角してしまいます。

パワーの谷の部分「だけ」がこの位進角しているならばそれでも良いのですが、実際には6500rpmから

後は10000rpm程度までずーっとBTDC26°になるので、これはちょっと進角しすぎかもしれません、と

いう傾向が分析出来ますね。

が、ピークが11000rpmなのであれば6500rpm以降なんて回転域はすかすか、とは言いませんがかなり

混合気の充填効率は悪いので、BTDC26°程度でも行けない事は無い、と私は分析しますが。

あくまでケースバイケースですが、混合気の充填効率の悪い回転域だとその位でもOKだったりしますよ。


と、ここで上記の青線点火時期を、ウッドラフキーを抜きローター本体を10°進角させた状態の表を

記してみましょう。

…これ、正確に行うのはかなり難しい手法なんですが、Dio系用キタコインナーの場合、ベース進角に該当する

セッティングを行うには、ベースプレートを作り直す以外はこれしか手がありません(汗

あ、間違ってもノーマルフライホイールでそんな事やっちゃ駄目ですよ?ウッドラフキーが無いと確実に

走行中にフライホイールがズレますんで。


AF18系用キタコインナーローター10°進角時



前述の説明の通り、点火時期グラフ的にはy軸を「全体的に」底上げした状態になりますが、ベースもしくは

ローター本体進角の場合、


各回転域の個別の点火時期ではなく、「全体」を同じ角度だけ進角、遅角させる


といった状態になります。

点火時期切り替え式CDIの様に、個々の回転数に対応した点火時期が変化するのでは無い、と

いった場合の違いを絶対にお忘れなき様にお願い致しますね。


で、こういった変更だと、「谷」のある9500rpm辺りはBTDC26°ですが、パワーバンドであるそれ以降の

10000rpm〜は目標であるBTDC20°程度に合わせられていますよね。

スクーターの場合だと、全開加速時には変速回転数が一定なのが基本なので、わざとアクセルを小さく

開けてやったりしないと、9500rpm/26°近辺を使った「加速」はしていかないのでそこまでデンジャラスには

ならなかったりしますよ。


で、仮にアクセル小開度で9500rpmの巡航を行ったとしても、混合気充填効率が元々かなり悪い谷の

部分であれば、いきなりトラブってボン!とかにはまずなりえないので。

そもそも、上手い事そこの回転域で巡航出来る様にアクセルを開けたとしても、なんとなくパワー感が

もっさりするので人間の方で無意識にそこを使う事を避ける様になるんですけれどね。

意識していなくてもそうなる事は多く、人間って不思議なものです(笑


が、こういった点火時期特性のCDIを使った上でベースを進角させた場合、「エンジン特性そのもの」

6500〜9000rpm程度にパワーバンド領域を発生している、例えるならばノーマルマフラー仕様でそこそこの

ハイポート加工を行ったといった仕様の場合だとさすがに危ないですね。

混合気充填効率が良く、なおかつ燃焼速度も速いピークパワー&パワーバンド周辺の回転域での

絶対的な点火時期がBTDC26°ではさすがにやばそう、というのはお分かりかと思いますが、この辺を

勘違いしては絶対に駄目なんですね…


仮に、7E0のキタコインナーにて「パワーピークが7000rpm」程度に来るエンジン…ノーマルみたいな

特性のエンジンを回した場合、ポン付けならBTDC16°程度、ノーマル点火時期の17°より遅い位で

全く普通のLVなのですが、全体進角を考えるなら4°程度行えばそれで「7000rpm/BTDC20°」なので、

この程度で我慢しておこう、となる訳です(笑


…その上で都合良く「パワーバンド手前が」進角していれば良いのですが、これは前回書いた通りで

そんな事は一から点火時期をプログラムでもしない限りは不可能なので、ピーク領域に対しベターな

点火時期を合わせれば他はどうしても妥協が必要な面もある、というのが現実なんですね。


なので、この辺を見極められるのは実際の経験値も必要になって来るのですが、こういった点火時期が

エンジンの回転域ごとにそこそこ変化していっているCDIだと、いかにピンポイントで仕様用途、エンジン特性を

決めなければならないか、もしくは点火時期を見極めてセットしなければいけないか、といった事をお伝えしたい

訳なんですよ。



そして、もう一例のピンク線の点火時期の場合、こちらは「6500rpmが谷、9000rpm以上がパワーバンド」

といったエンジンパワー特性を一例として表記しています。

とはいえ、こちらだと点火時期そのものはともかく、点火時期の変移としては大して大きな変化は無いので

一例では谷が6500rpmにあってピークが9000rpm、といったあまりありえない位の変な特性を当てはめて

いますが、どんな回転域にピークパワーが出る特性のエンジンに使ったとしても、危険な方向性でのデメリットは

出づらいでしょう。

その反面、「谷」の部分のみを大きく進角させる事も出来ないので、その辺りのメリットもありません。

良く言えば無難、悪く言えば役に立たない点火時期特性、とも言えてしまいますけれどね。


このピンク線の特性のCDIを、青線のエンジンパワー特性と同じエンジンにくっつけた場合でも、谷のある

9500rpmで13°、ピークの11000rpmでも12°なので、どちらも全域進角にて8°程度進角させたとしても

極端には危なくなったりはしそうにありませんよね?なので「無難」なんですよ。


…こちらの例はグラフには示しませんが、青線の理解と理屈は同じなので、こういった線グラフを書いて

考えてみるのも理解への近道になりますね。


あ、それと補足ですが、このキタコインナーローターってのは点火力ってあまり強い方では無いので、

進角しすぎなセットでも火が弱いままだと結構持ったりもしますが…

実際の運用ではRS用のIGコイルとか高級レーシングプラグとかの併用は必須だと言っても良いでしょうね。


・市販CDIでの分析の一例


次に、ここでもうちょっと極端な例をひとつふたつ挙げてみましょう。

基本、ノーマルフライホイールにて市販のCDIをくっつけたといった場合のグラフになります。

モデルは以前にもデータを公開してあるZEROのAF35用DC-デジタルCDIで、これをAF18系のエンジンに

くっつけて点火時期を計測したデータですね。

もちろん、これは適合通りAF35系のライブDio系にくっつけた場合は全体的に「3°遅角」した値になるので

それをふまえてご覧下さい。

…以前のデータなので画像が無駄にでっかいですがご容赦をば(汗


AF35系用ZERO製DC-CDIをAF18系に搭載時マップ3と4



と、実際に計測した場合はこんな点火時期の変動が起こっているのがこのCDIなのですが…

これ、基本的にMAP3でも4でも、7000rpm程度まではなんとBTDC30°、ライブ系にくっつけてもBTDC27°と

いった、超進角特性になっているんですよ。


ここまで読まれた方ならもうお気づきかと思いますが、前述の7E0のキタコインナーローターと理屈は同じで、

仮にその7000rpm程度にピークパワーを発生しているノーマル風エンジンとかでも、このMAPを使うとその

ピークの出ている回転域ではBTDC30°近辺といった点火時期になってしまいますので、正直かなりやばいと

言いますかテスト走行でもまずやめておいた方が良いと言えるLVになっていますね。


で、これなら7000rpm程度がピークのエンジンにくっつける場合だと、ローターずらしで遅角させてやれば

良いのでは、と思われるかもしれませんがそれはノーマルフライホイールではあまりに危険です。

前述の様に、重量のあるノーマルフライホイールだとウッドラフキーを抜いて正確に数度ずらしてナットを

締めたとしてもほぼ確実にいずれ緩んでくるのでこの手法は使えません。

これはホンダ用のキタコインナーローター限定とも言える手法なので…


ヤマハ系だとすればベース回転でちょっとは可能ですが…これが適合通りAF35ライブDio系にそのまんま

社外CDIをくっつけた場合、上記のMAP3や4を使うのであれば遅角させたいですが、ピックアップマグネットの

加工では遅角側への調整はどうにも出来ないんですよね。

あれは進角方向にしか改良は出来ず、中身が空洞になっているピックアップマグネットを一度取っ払って

正確に数度ずらしてくっつけ直す、といった手法でも行わない限りは遅角への加工は出来ませんので…


とはいえ、ZEROのCDIならMAP1や2もあるので別にそっちで上手い事自分のエンジン特性と合致すれば、

わざわざMAP3や4を使う必要は無いのですが(笑

こういった様に、明らかにノーマルエンジン風の特性、パワーバンド領域が似た特性のエンジンにそのまんま

くっつけると不味い特性のCDI、点火時期MAPという物は現実に存在しているんだ、という事をご留意頂ければ

幸いですよ。


で、このMAP3と4であれば、どちらも10000rpm程度まで来れば遅角も落ち着くのですが、それでもライブDio系に

くっつけたとすればMAP3は8〜9000rpmまで到達してやっとBTDC20°、MAP4なら9000rpmでやっとBTDC18°に

なる訳ですから、ベース進角はともかく遅角側への調整が出来ないノーマルフライホイール仕様の場合は

最低でもその位の回転域から上がエンジンのピークパワー領域になっているエンジン仕様で無いと特性が

合わない、いや安全に使える範囲ですらない、と言えるでしょう。


そして、このZEROのCDIというのはMAP3と4の設定は基本的に「FP仕様」の車両に対しての点火時期だと

いった説明があるのですが、ライブDio-ZXをFP仕様にこしらえるとすればチャンバー的にはおおむね

9000〜10000rpm弱、といった所にピークパワーを発生する物がチョイスされる事が多いんですね。


となれば、このMAP3と4の点火時期の場合、上手い具合にその辺の回転域の点火時期が20°とか18°まで

遅角してきている訳ですから、ぴったりとは言えませんがかなり無難で有用な点火時期になっていると言っても

良いんですよ。(「点火力の強さ」はまた別問題ですが…)

いくらそこまでの回転域がBTDC27°という結構な進角状態でも、ピンポイントで狙った回転域で遅角し、

なおかつ点火時期そのものもそこまで遅くも速くもない状態になっている、と言えます。


そもそも、ライブDio-ZXって基本的にノーマルやキャビーナCDI、アナログ系CDIだと点火時期は一律の

BTDC14°固定なので、これじゃあエンジンをいくら高効率に仕上げても点火時期としては遅すぎて旨味が

出せませんからねえ…


とんでもない高効率のチャンバーをくっつけて巨大なキャブをぶちこみ、シリンダーもきちんと加工したと

しても、点火時期が合っていないのではさしてパワーなんて出ないのはもはや言うまでもありません。

ちなみに、仮に13000rpmにピークが出る様にエンジンやチャンバーを設計したとしても、点火時期が

あまりに遅いとかだとそこの狙った回転域でパワーが出ないどころか、回転がぐずついて到達する事すら

不可能だったりする事もありますんで、ね…



さて、もののついでにここで一つ、以前のコンテンツでは出していなかったライブDio系のDC-CDIの残りの

一つであるPOSH製のデジタルCDIの点火時期グラフをご紹介しておきますね。

これでデイトナパワーアドバンス、ZEROデジタル、POSHデジタルの市販品で入手可能な3種類のデジタルと

謳っている「点火時期が大きく変化している」CDIの点火マップを網羅した事になりますんで、以前のグラフも

合わせてご活用下さいな。

(…申し訳ありませんがMSR-mini用のDC-CDIの点火時期の公開は控えさせて頂きますね)


AF35系用POSHデジタルCDI点火時期マップ



で、このCDIの特徴としては、グラフの通りに10000rpm程度まではほぼ一律の固定点火時期である、といった

点が挙げられます。

もちろん、各マップではその一律点火時期の角度そのものは異なりますが、面白い事に10000rpm程度を境に

いきなりノーマル点火時期にまで一気に遅角している点ですね。


説明書によるとまずMAP1は「FPマシン推奨」とあり、ライブDio-ZXにくっつけると9000rpm程度まではBTDC22°、

10000rpmを境にノーマルの14°まで一気に遅角、そこからはさらに1°遅角の13°になります。

これも、ライブDio-ZXのFP仕様というものを鑑みた場合、丁度ピークパワーが来る回転域ではそこまで

速すぎるデンジャラス特性にはなっていませんが…9000rpm前からすでに遅角させていっても良いのではと

私は感じますね。

これ、FP仕様に限らずチャンバー併用で9000rpm程度にピークが来る仕様だと22°の点火時期はちょっと

進角気味かな、というフシもありますんで。セッティング的にギリギリに薄いとかであればすぐ異常燃焼を

引き起こしてしまうといったパターンになる可能性も0では無いかとも。


次にMAP2は「FNマシン推奨」とありますが、これまたライブDio-ZXだと一般的なFNマシンのピークである

7000rpm辺りはBTDC20°と、ノーマルに対しても6°進角していますがかなり良い点火時期かなと思ったり。

とはいえ、FNエンジンが前提だと別にMAP1の22°とかでもまずトラブったりはしませんが…と言いますか

私の運用では何も起こらなかったですしエンジン内部が焼け気味とかになるといった事もありませんでしたよ。


で、次にMAP3と4なのですが。

これ、MAP3は「当社スーパーバトルCDIベース」で、MAP4は「当社スーパーバトルより遅角」と記されています。

えーっと、これだけはさすがに突っ込みたいのですが、アナログのスーパーバトルはノーマルCDIと同じと

言っても良い特性で、ほぼBTDC14°一律固定なんですけれど(笑


…MAP3だと10000rpmまでは4°進角の18°固定ですし、これでアナログのスーパーバトルと同じっぽい表記と

いうのはちと無理がありますね。


そしてMAP4はアナログのスーパーバトルより遅角とありますがどこがじゃ、と言いたくなりますというか言います。

下から上まで一律点火時期な上、点火時期そのものもアナログスーパーバトルと全く同じなんですが。

こっちの方がアナログスーパーバトルのコピー点火時期と言うのなら分かりますが、MAP1と2はともかく、

3と4はなんともおかしな説明書の解説だな、といった認識しかありませんねえ…


これ、誤表記ではなく真面目に説明書にそう解説を書いているのであれば大間違いどころでは無いです。

ユーザー側だとMAP3をアナログスーパーバトルより遅角している、と思い込んで使う方がおられるのが

当たり前という事に他なりませんからね。

説明書の記載文はどんな車種でも一緒だ、なんてのは言い訳にはなりませんし、そもそも点火時期の

パターン選択を売りにしているCDIなのにその解説がおかしいなんてのはかなりどうかと思いますが。


…っとまあ、何となく例のパターンに陥りそうなのでこれで止めときますが、とりあえず点火時期そのものの

個人的計測グラフは記しておきますので、前述の調整方法をふまえた上で有効活用して頂ければ、と思います。


さて、一応ですが市販CDIを使った解説もここで一区切りとしたく思います。

これは別に、CDIそのものの点火時期特性、点火角度を計測しておけばなんら難しい事ではなく、計測した上で

進角しすぎとか遅角が大きすぎるとかの判断を行ってしまえば良いんですね。


が、それをふまえた上でも、この点火時期セッティングにて一番大切な点は



自身のエンジンの「パワーバンド回転域」が


どこからどこ位までなのか



そしてピークパワーが出ている


「一番出力の高い回転数」はどの位なのか



この2点をセッティング前にきっちり把握しておく事、これが一番大切な事柄になりますね。

これを見極めていないと、仮にCDIの点火時期を測ったとしても、自分のエンジンのパワーバンド内では

点火時期として速いのか遅いのかが判断出来ない、という事と同義です。


2stエンジンというものは最高速時にいくら回ったか、とかではなく、明確にパワーの大きな「回転域」が

ある程度はっきりしており、それを自分で把握しないと絶対に駄目である、という事は断言しても良いでしょう。


これは点火時期のみならず、当然のごとく変速回転数を決定するためにも重要で、どの位の回転域が

一番パワーがあるのかを把握していないとWRのセッティングすら出来ませんからね。

WRにしても、色々と重さを変更していけば、6000rpm変速ではなんかパワー感がない、7000rpm変速ならば

かなりもりもりと来る、8000rpm変速ならちょっと加速感が落ちる、9000rpm変速なら唸って走ってない、と

いった様に、変速回転数の調整段階を踏むだけでもエンジン自体の特性、パワーバンドがどの辺にあるのかと

いう事は簡単に把握出来る事なので…というかこれは基本中の基本ですが(笑


点火時期もそれと同じで、まずはエンジン自体の特性を把握していないと、何回転にて何度になっている、と

いう以前の問題である、という事をご留意願いますね。


・ベターな点火時期、その根拠と理論


そしてやっとこさ点火時期一連コンテンツの最後の項目、まとめといっても良い所まで来ました。

ここまで読まれて理解を深められた方であればもはやあまり補足や強調しておく事も無いのですが、

ここで一つ、点火時期といった物の私のベターな基準、それを自分の理論と経験以外では一体何を参考に

しているのか、といった点についてお話しておきますね。


…本当はこんなモン書かない方が良いんですが、この件に関しても私の理論の基本スタンスの一つである、

「他方向から見た場合でも矛盾の無い根拠」の一つとしているので一応の表記をさせて頂きます。


とは言いましても、これはたまに話に出す「NSR500・ハイパー2ストエンジンの探求」といった本の中に

記されている事を一応の判断基準の基としており、それを参考に色々考えてやってみたら特におかしいと

思える点が無かった、といった事が私には起こりえたので。


基本的に私は、10000rpm程度にピークが出るエンジンであれば、その時の点火時期はBTDC20°近辺が

ベターだと考えており、そこから圧縮比を上げたいならちょっと遅角させようかと思いますし、ピークがもっと

高回転側に出るエンジンならばそれもちょっとは遅角させておこうか、といった感じです。


あまりにエンジンフィーリングがすっかすかなら多少の進角も行ってみたりはしますが、だからといって

10000rpm/BTDC30°とかで上手くパワーが出た、とならばエンジン構成がちとおかしいのでは?と分析して

行く方向性になっています。


が、この一例は最初に記した様に、ボア径が40〜50φ程度の一般的なボア径での話でして、それを超えていく

大径ボアなのであれば多少の補正は入れたりします。


私は基本的に、仮にボア径が50φオーバーになって来る様なでかいピストンであれば、今までの一例等より

+2°程度は基準の許容範囲かな、と考えてたりしますよ。

これは例のNSR500の本にあった数値を限界の参考値としている、といった点が大きいのですが…HRCワークスの

NSR500だとボア径54φで、「BTDC20°で点火させた場合、燃焼圧力がピストントップを叩くのはATDC12°程度」

といった記述があります。


もちろん、これは正確には「角度」ではなくその角度分クランクが回転する「時間」なので、角度だけでは完璧に

比較する事は出来ませんが、NSR500だとピークが13500rpm程度っぽいですが、それだけピストンスピードと

燃焼圧力波が速い状態でも、ATDCにて燃焼圧力がピストンを叩くタイミングはその位である、と考えてみれば

どう考えても市販車ベースのチューニングだとそれ以上に燃焼圧力波の速度を上げる事なんて出来るワケが

ありませんよね?

仮にそれが出来る、と言うなれば巨額の投資を行って開発されていたHRCワークスのエンジンより燃焼圧力波の

速度が高く優れた燃焼効率の物を自分で作れる、と言っているのと同義なんですが(笑


…こんな事言ってるとNSR500の本を鵜呑みにするな、と言われそうですが、NSR500現物のエンジンなんて

見られる訳がありませんし色々測るなんて絶対無理ですんで、一応の指標としては信じるしかありませんからね。

一般整備におけるサービスマニュアルみたいなもんです。

が、それ以上に「チューニングのアテ」に出来そうな物があるのならば是非お教え頂きたい所だったり。



なので、そこそこの高回転型エンジンでピークが10000rpm以上に存在する場合でも、そこの回転域での

ベターな点火時期自体はBTDC20°近辺から大きく外れる事は事実上ありえない、と私は考えています。

これは前コンテンツでも記しましたが、私は真っ当にエンジンをこしらえた場合はそこまで点火時期が阿呆の

様に速くないとダメであった、という経験がただの一度もありませんので、これも理由の一つです。

逆に言えば、前述の通りピークパワー発生時の点火時期をBTDC30°とかまで速めても完全に無事な

エンジンだと、他で何かを損している部分がある、おかしな構成があるはずだ、と見ても良いでしょう。

と言いますかそう見ないと各部のバランスが崩れやすくなる構成である、と私は分析していますよ。


で、この辺りの理論と経験も含め、私の2stエンジンでの点火時期基準は、基本的に


「10000rpmにてBTDC20°近辺」


になっています。

もちろん場合によってはちょっとは変えますし、ベターではなくベストを求める為には多少の範囲でも変更し

セッティングしたりもしますが、そういった場合でもよほどの冒険を行わない限りはその基準値から進角、

遅角共に5°も変更して安定運用する事は無い、というか出来る事が無い、という事で。


…仮に8000、10000、12000rpm程度でピークパワーの出る特性のエンジンにて、その回転域での点火時期が

BTDC30°とかに設定しないと全く走らない、パワーが出ないという事であればそれは間違いなく





掃気ポートからシリンダー内への混合気充填効率や


排気ポートから戻ってくる未燃焼混合気の「戻り具合」


そしてヘッド周りでの混合気集中効率等が


異常なまでに悪い「エンジン構成」である事の証明にもなる





と、こうなるのですよね。

簡単に言うと点火時期をアホみたく速めないと走らない、というエンジンって不整合のカタマリなんです(笑

そして逆にノーマル風味まで遅くしないとトラブるというのは間違い無く圧縮比高すぎとかですしね。


ハイチューンになってくると、シリンダー内の混合気というか気体そのものも、いくら「絶対量」が多くとも

排気ガスの占める割合が多くては意味がありませんし、圧縮比にしても高ければ良いという物ではなく、

圧縮中のヘッド内の混合気にしてもヘッド&ピストン中央部に効率良く混合気を収束させてやらないと

パワーは出ませんから、結局は点火時期も含め、「雑」なエンジンだとハイパワーと安定性の両立は

望むべくも無い、という事がお分かりかと思います。


いくら混合気の量が多くてぎちぎちに圧縮していて効率良く爆発し強烈な燃焼圧力波を生み出せたとしても、


その燃焼圧力波は、ロスの無いタイミングで上手くピストントップに到達して叩けないと


絶対に効率の良いパワーUPには繋がらない


と。こう断言しても良いでしょう。

これこそが点火時期セッティングにて求める最大の目的であり、エンジンの三大要素である

「点火・圧縮・混合気」の内の多数の不可欠要素の一環なのである、という事で…


さてさて。4回にも分けてシリーズ化した…いや、してしまった点火時期関連コンテンツですが(汗

私自身、目に見えない現象を文と絵でご説明するのはやはり難しいと改めて痛感した次第ですよ。

とはいえ、視覚的に見えない物なら可能な限り見える様にしてやり、見えただけでは不十分なので

出来る限り数値化してやっていますから、皆さんの理解の為のお役にも立てるかと思いますです。


私自身、以前公開したAF35系用のデイトナパワーアドバンスとZEROのデジタルCDI、そして今回に

追記したPOSH、公開はしていませんがNSR-miniのCDIも含めれば、デジタルと名の付くCDIだけで

4種類を計測していますし、大抵はMAP1つごとに1000rpm程度刻みで2000〜13000rpm程度までは

分けて計測しているので、ざっと計算しても


(デイトナ1MAP+ZERO4MAP+POSH4MAP+NSR-mini8MAP)×12段階の回転域を計測=204回


…200回以上の計測というか「タイミングライト読み」を行っている事になりますんで(笑

しかも10000rpm以上があまりアテにならないデイトナパワーアドバンスだと平均取る為に3個も計測してますし。

アナログ等は変化が小さいのでそこまで細かく計測しなくて良い場合もあるんですが、それでも一応は

1000rpm程度では見てみるのが定番になっていますしね。


さすがにここまでやりましょう、とは強制出来ませんが、せめていくつかのCDIを計測してみた上で

何がどう違っているのか、を把握出来れば、インナーローター仕様とか他車流用とかの場合でも

きちんとした点火時期を把握するスキルが身に付いていくと思いますよ。

これはコンテンツの最初の方に書いた通り、「何かしらの計測データ」が無いとココ読んでもあまり意味が

無いという事と同義だったり。



コンテンツの最初の方にも記しましたが、この「点火時期」ってヤツはこうでもしないと把握しづらい面があり、

元々言葉のみのおかしなイメージが先行しているといった事柄なので、エンジンにとっては文字通り致命的な

までに大切な事なのに、あまり具体的な解説やら何やらが世の中に少ないという事は大いにあるかと私は

考えまして、その結果がごらんの有様…ではなくてこんな長い解説になってしまったといったオチになって

しまいましたが(笑


とはいえ、単純な進角やら遅角やらを行うとしても、それはエンジン回転の全域で行うべきなのか、

はたまたピンポイントで変更したいのか、そしてそれを行うにはCDI自体の点火時期特性の計測が

必要だったり、フライホイールやインナローターの磁石やピックアップのパルス発生の回転角度まで

気にしなければならない場合もありますが、ある程度以上に突き詰めるならばやっておいて損は無い、と

言いますか、本来はやっておかなければならないモノである、といった事がお伝え出来ればと思いますよ。


…はっきり言ってある程度の理解までは結構ややこしいですし難しい面もありますが、物事を突き詰めるに

あたって難しくない事なんてほとんど存在しない、というのが世の中なので、一連の点火時期把握の為の

コンテンツ内容も参考にし、ご自身にて色々と考える材料にして頂けると嬉しいです。



「スクーター改造」に戻る