2ストエンジンの「圧縮比」についての一考 補足編



さてさて。今回は2ストエンジンについての圧縮比について、追加と言いますかさらなる補足を重ねた

お話を行ってみたいと思います。

なお、このコンテンツは前回の圧縮比コンテンツと連続して書かれている物ではありませんので

続けて読まれる必要はありませんが、理解が進みづらいと思われますので必ず前回の圧縮比コンテンツを

熟読し理解されてからお読み下さい。

他のコンテンツ郡でも同じ事が言えますが、当サイト内コンテンツのシリーズ物の場合は「基礎となる1発目の

コンテンツ内容」をきちんと把握していないと全く意味不明になりますのでご注意をば。



ではまず、前回の圧縮比コンテンツにてご説明している「圧縮比」という物の計測、計算方法を改めて

記してみたいと思います。

すでに現時点で前回のコンテンツを書いてから5年近くが経過していますし、前回はあえて文章のみで

計測方法を紹介していましたがもう少し分かりやすく表記してみますね。


まずはおさらいですが、この圧縮比の求め方というものは下記の様な計算式となります。

前回の例であるAF28スーパーDio-ZXのノーマルエンジンの各部数値を拾った上での計算ですが

数値的な物は一例と言いますか私の経験上の「いくつかのパーツの平均値」であり、純正パーツの

寸法誤差によっては必ずしもサービスマニュアル記載値と完全一致しない場合もありますので

ご了承下さい。

このAF28ZX用シリンダーでも排気開口部のポートのシリンダー上からの距離ってのは、製造誤差で

0.5oとかズレてる物もザラにありますから、下記の代入値もひとつの平均値になっています。


でもって実際の計算式としては以下の様になります。


A:排気ポート開き始め=シリンダー上面から25.5oの体積=(3.9/2)2乗×π×2.55=30.44cc
B:ピストン上死点時のシリンダー上面からの下がり量=無しとして0cc
C:ヘッドガスケット0.5o×1枚の体積=0.65cc
D:シリンダーヘッド体積=5.7cc
E:ピストントップ部分体積=1.4cc

A+C+D−E/B+C+D−E=

(30.44cc+0.65cc+5.7cc-1.4cc)=35.39cc÷(0cc+0.65cc+5.7cc-1.4cc)=4.95cc

=7.14


圧縮比は約「7.1:1」


と、前回書いた事を分かりやすくまとめるとこんな感じですね。

実はこの式ってソースに記載していたんですがそれは置いといて、と(笑

まずはこちらの計算式の把握と、エンジン自体のどこの寸法をどう拾うか、が一番のミソでして、

これはイメージではなく実物を見て把握していないと話が始まりませんのでご注意下さい。

非圧縮時と圧縮時には「どこがどう変化するのか」といった事もきちんと理解していないと駄目ですし

「どうしてパーツから拾う数値はそこなのか」といった事は前回の図解にてご説明していますので

きちんと理解される事をお奨めします。


ではでは。以下は実際の各部寸法の計測&算出を解説してみましょう。


リングを使ったポート開口部までの寸法計測 まずはシリンダーの排気ポートの「上面から開口部までの高さ」ですが、これはこの様に計測します。

ピストンリングをシリンダー内に入れ、リングの付いていないピストンを使って下から押し上げてやり…

開口部まで達した所でリングを止め、ピストンを抜いてノギスのお尻を使って計測を行います。

ちなみにリングを使った計測というのは各ポートの加工時に、上側下側の加工精度を確かめる為にも使ったりしますね。



少し前に、Youtube動画にてピストンリングの排気ポートへの引っかかり具合といった事を解説して

いますが、ああいった場合でも出来れば要らないピストンを使い、リングをシリンダー内に挿入してやり

「真っ直ぐリングを入れてやる」のがこの手の作業の一番のコツになります。

手でリングを押し込んだだけではシリンダーに真っ直ぐは入りませんし、「上面からの高さ」を計測して

いく場合では余計にリングの傾きはあってはいけませんから、面倒でもきちんとこの手順を踏んでの

計測を行う事を強く推奨しますよ。


あ、圧縮比計算の場合の「排気ポートの開口部」までの寸法に関しては、当然ですが排気ポートの

中央部の一番高くなっている所を基準として計測します。

…あまりに中央の頂点部がセンターからズレてるとかってのは無加工品でも無い限り問題外ですが、

加工したポートだとある程度はきちんとしているべきなのは言うまでもありませんね。


なお、「面取り部分」は勘定に入れるのか、という点もあったりするのですが…私は基本的に面取りの

部分は計測の勘定に入れていません。

面取り部分のわずかな「隙間」の場合、圧縮時にそこから圧縮混合気が抜ける事は間違いありませんが

それを勘定に入れると加工寸法を決めるのにもややこしくなりすぎますし、面取り自体の具合にて

結構計測寸法が左右されてしまいますので…

混乱を防ぐ為にも度外視している、とお考え下さい。


なので、純正品や社外品そのままの状態で、排気ポートに面取り部分が一切無い物であれば正確に

圧縮比計算の為の寸法が取れますが、面取りを大きく行われているシリンダーの場合は正確性に

欠ける面も出てきたりしますね。

自分で一から排気ポートを加工する場合には寸法はきちんと決定して加工しますが、その後に面取りを

付けるので実際の寸法に設計との誤差は出ませんが、面取り部分を計測してしまうとちょっとだけ誤差が

発生する、とも言えます。


ちなみに、面取り部分の頂点がシリンダー上から24.5oであったとし、面取りを加味しない排気ポートの

実質の通路加工部分の「頂点部」が25oであったとすれば、私は後者を計測数値として用いると

いった事なのですが…この方向性だと「詰めていく」時には圧縮比がオーバーになる事は無く、万が一の

場合のリスク低減にも繋がりますしね。


寸法的に、24.5oの勘定であれば圧縮比的には低くなりますが、25oで勘定していた方が計算上の

圧縮比は高くなりますから8.0:1を8.5:1まで詰めたい、といったシビアな時にはそういった意味でも

余裕を持って安全性の為の「マイナス補正」に向く様な方向性の方が無難である、というのが私の

スタンスにもなっていたりしますよ。

…簡単に言うと何かを間違えていた時、「危険な方向性に向く様なミス」をしない方向性にする、という事で。

面取りを加味しても8.5:1程度になる位を狙っておく、といった感じですね。


そしてもう一つ、排気ポート上側の形状が一直線に近いかRが付いているのかによっても実際の

圧縮具合とも言うべき物は変化してくるはずです。

が、その場合はRを付けた上側形状ならば一直線仕様よりは圧縮比の設定値を下げておく、と

いった融通を利かせたりもしますね。

こういった点は計測、計算のみではなく経験も必要なので、数値だけに囚われるのも良くない、と

いった点も付け加えさせて頂きます。



で、排気ポート開口部までの寸法を取ったら次はヘッド側の容積を計測します。


ヘッド容積の計測 こちらも前回コンテンツに記した通りですね。

ヘッドにプラグを付けて透明な板を用い、グリスで測定液の漏れが無い様にしてヘッド容積を「注入量」で計測します。

ちなみに計測に用いる液体は私はブレーキフルードを愛用していますよ。

気泡が出づらく多少の粘度もあり、偏りも少ないので今のところはこれが最良の液体だと分析してます。



あ、出来れば結構使った劣化品で、茶色っぽくなってる物の方が気泡や漏れ等が目視でも分かりやすくて

お奨めです(笑

私はこれの為だけにエア抜き等で出てきた古いブレーキフルードを捨てずに溜め込んでたりしますが、

絵の具とかを混ぜて着色しても良いでしょうね。

…いちいち捨ててると新品使うともったいない、というのはスルーの方向性でひとつ(汗


で、この計測板の注入穴は大きめですが、出来ればピンホールの様な穴を開けて注射針を使って

測定液を注入するのがベターですけれども、この位でも穴下部分の容積誤差は0.1ccも無いので実際の

計測精度においては全く問題はありませんね。


なお、コツとしてはプラグはこれだ、と決めた銘柄と番手を用意し、自分用の自己基準としておくのが

良いでしょう。容積対比が小さめの小排気量エンジン+ハイポートとかだと、容積で0.2ccとかの違いがあると

意外と圧縮比には変動があるので、これも前述の排気ポート面取り部の勘定と同じで、電極先端が大きめで

ヘッドの容積が「小さくなる」物を基準としておけば安心出来る方向性に向きますよ。



次にちょっと難しいピストントップ部分の容積計測ですが…


ピストントップ容積の計測 これもシリンダー上面に透明板をくっつけていますが、ピストン中央部をその透明板に当てる位置までストロークさせておいた方が計算としては簡単ですね(笑

その場合、ピストントップ部分の「高さ」は正確に計測しないといけませんが、これはピン上ピン下を計測した上でピストンの全長を計測すればおのずと答えが出てきますよ。

…なので解説ははしょります。言葉がきついのを承知で物を言いますが、これが分からない、計測する為の手法を考え出せない、となれば残念ながら圧縮比計算以前の問題なので。


後、ピストンリング溝にはリングを入れる前にたっぷりグリスを塗りこんでやります。合口にも塗ります。

この部分の計測に関しては、リング合口やリング隙間からの計測液の漏れが一番の問題でして、

上手く計測液を漏らさずに計測する事には慣れも必要ですが、ピストントップ部分の容積は圧縮比の

計算において絶対に必須な物なので、これをサボるときちんとした圧縮比計算というモノは出来ません。


言葉を返せば、ここの部分の容積が分からないのにヘッド容積がどうこう言っても始まる物ではなく、

ピストンも見ないでヘッドだけ作るなんてのは本来あまり良い事ではありません。

(※良くない理由はピストントップ容積だけではありませんが…)

一般的に使用頻度の高い純正ピストン等で多数回の計測データがあり、確実なトップ部分の高さや容積が

安定して判明しているのであれば話は別ですが、私も初見のピストンやデータの無いピストンであれば

必ずこの作業を行って、実際の「ピストントップ容積」を例外なく把握していきますしね。



そして、何でもそうですが特にこういう容積計測においては、最低でも2回は計測して平均値を取るのが

鉄則でして、計測自体に慣れてきても一度の計測のみで済ませるというのはよろしくありません。

ピストントップ容積なんかは漏れが出ているとかなりの計測誤差が生まれますし、ヘッド容積の計測は

そうそう間違う物ではありませんがコチラは油断ならない部分である、といった点もご留意下さい。


なお、ピストントップ容積に関してはですね、自分自身で色々な寸法の物を測り、容積データが揃って

くれば「自分の測った容積に正確性があるのかどうか」といった点まで見えてくるんですよ。

ちょっとだけ解説しますが、仮に下記の様なピストントップ寸法の物があったとし、計測データを取ったと

仮定してみましょう。


・ピストン径40φ トップ高さ2.5o 肩角度12°

・ピストン径40φ トップ高さ2.0o 肩角度10°


こういった2種類のピストンがあったとした場合、この2種類のピストンのトップ容積を比較した場合には

すでに寸法から見ても前者の方がトップ部分容積は大きいはず、といった事が読み取れます。

ピストン径は同じで、「肩」の角度が大きく、頂点部分までの高さも高ければ容積も大きくないと絶対に

おかしいんですよね。

実際には前者は1.5ccで後者は1.2ccとか、そういった差になってきます。

実計測で計測結果が逆になったりしたらどちらかもしくは両方の計測が間違っている、とも取れますね。


で、これをふまえてちょっと違ったピストンを計測してみたとしましょう。


・ピストン径45φ トップ高さ2.5o 肩角度12°容積2.5cc

・ピストン径50φ トップ高さ2.5o 肩角度10°容積3.0cc


こういったピストン径が異なる場合でも理屈は同じで、前者の様にボア径が大きければ肩角度が

同一でも、トップ容積そのものは小径ボアのピストンよりは大きくなるのが当然です。

そして後者は逆に、ピストン径が大きくても肩角度が小さい物とかですが、これでもトップ容積自体は

前者の45φと比べても結構大きかったりしますね。


そしてもう一つ、前述した「正確性」ですが…

・ピストン径40φ トップ高さ2.5o 肩角度12°のピストンと

・ピストン径45φ トップ高さ2.5o 肩角度12°を計測比較した場合だと


ピストントップ容積は同程度になる事はありえない


んですね。

仮に、40φの方を測って1.3ccだったとし、45φの方を測って1.4ccとかだとしたら、これは明らかに

どちらかの計測に齟齬がある、と判断しても良いでしょう。


数をこなしていけば、ピストン径がこれ位で肩角度が何度でトップ高さがいくつくらいだったらおおむね

ピストントップ容積は○cc前後になる、といった予想も付けられる様になってくるんですね。

実際には後者の45φだと2ccは超えていないとおかしいかも、といったLVなので、計測数値が1.4cc

とかであれば明らかに何かミスをしている、と考える事も出来たりしますが…さすがにここまで来ると

ノウハウが必要なLVなので、慣れてくれば計測数値のアタリをとる、といった事も可能になるという事で。


これもいつものクチですが、一つの物しか分析しないのでは見落としたり正確性に欠ける部分も

出てくる、というのはこういった所でも致命的な点となって現れたりするんですよ。

このピストントップ容積というモノは、実際に使用しなくともシリンダーとピストンを用意して計測実験を

行ってみても決して損にはならない物だ、と私は考えていますね。



とまあ、おさらい+補足となりましたが、計算の前には実際に出来るだけ正確な各部の計測が

「必須」になるので、手間は掛かりますが圧縮比の算出とはこういった物である、とお考え下さい。

なお他のツボとしては前述の各部容積以外でも、


・「ヘッド内径」は通常はボア径とイコールではない場合も多い

・同じくヘッドガスケットの内径もボア径とイコールではない場合も多い

・ピストンTDC時の「肩落ち」値は車種、構成によってさまざまである

・同一のガスケット、ピストンを使用していてもシリンダー全長が異なる場合も多い


といった様な色々なツボがあったりしますよ。


あ、ピストンTDC時の「肩落ち」ですが、これは物によっては実際に仮組みしてシクネスゲージ等を

使って計測しても良いですし、中古品ならばシリンダー内壁って上の方にリングがどこまで来てるかの

跡が付いている事が多いですよね?それをアテにして逆算すればすぐ分かったりもします(笑

もちろん、リングがどこまで来ているのかを測っておけば他の箇所の計測も含めて整合性を取る事が

可能になってきますしね。


なおもういっちょ余談なのですが…

ピストンの肩落ち値、という物は仮に仮組みデータの無い社外品を使うとしても、


ノーマルピストンやシリンダー等の寸法と肩落ち値を計測しておけば

それを基準として算出する事が出来る


というメリットもあったりします。これはポートタイミングとかでも方向性は同じですが…


これは絵を描くまでも無いのでざっとだけご説明しますが、仮に純正ノーマル状態にて

下記の様な寸法の腰上があったとします。


・ベースガスケット0.6o

・シリンダー全長64.2oでピストンの肩落ち値は「1.0o」

・ピストンのピン上寸法は25.4o


こういった構成の「ノーマル」に対し、下記の様な構成の腰上を組み付けるとします。


・ベースガスケット0.6o

・シリンダー全長63.3oでピストンの肩落ち値は「不明」

・ピストンのピン上寸法は24.8o


さて、この場合には「ピストン上死点での肩落ち値はいくつになるでしょうか?」といった

問題なのですが、これは新たなパーツを計測して各部寸法が分かっていれば計算出来ます。


・ベースガスケットの厚みは同じ=肩落ち値は変わらず「1.0o」

・シリンダー全長が0.9o短い=-0.9o=肩落ち値「0.1o」

・ピストンのピン上が0.6o短い=+0.6o=肩落ち値「0.7o」


と、コンロッド長とかの変更が無い場合、単純に腰上の寸法が変わるだけならば実に簡単に計算が

出来てしまいますね。

結論としてはこの腰上構成であればピストンTDC時の肩落ち寸法は「0.7o」ある、といった事が

実際に腰下に組み付けて計測しなくとも把握出来ました。


各パーツの寸法を、ノーマルの基準値に一つ一つ当てはめて増減していけば良いだけの話ですし、

これも別に圧縮比計算のみならず、スキッシュクリアランスの決定とかにも必要な数値なので、

エンジン構成を形作るにはこれもまた必須な点だったりしますよ。


もちろん、「ピストンTDC時の肩落ち値」は車種によってノーマルでもさまざまな数値があり、最低でも

自分の車両の基準値といった物は把握していないといけない、といった事にも繋がります。

逆に、こういうのを把握していない場合はボアアップやらはてはストロークアップ時の各部の

辻褄も合わせられなくなり適当作業ぶっこいておしまい、となりがちなのでご注意下さい。

少なくとも、こういう所を読まれる方ならば動けばOK、といったスタンスでは無いでしょうし、ね。


で、言うまでもありませんがこれは新たな腰上構成におけるピストン「肩落ち値」の算出を目的と

しているのであり、ポートタイミングがいくつだ、とか圧縮比はどうなる、といった事も当然考えないと

いけませんね。

これもまた、私のスタンスである「基準は純正ノーマル車」であり、ノーマルが分析出来ないのに社外品の

パーツなんて分析、運用出来る訳が無い、という事に他ならなかったりします。



そして次に、各部寸法、容積を計測した後の実際の圧縮比計算において注意すべき点を挙げてみます。

代入する数値を間違わなければ計算結果が間違う事は無いのが算数なんですが…それはとはまた別の

話としまして、仮にノーマル腰上の圧縮比を算出したとし、それを基準としてチューンをしたりしていくと

してみましょう。


通常、排気ポートを上に向かって削った場合の圧縮比の補填や、圧縮比自体をノーマル値よりもさらに

向上させる場合が主となりますが…

ここで、無加工のノーマル状態と、排気ポートを上に向かって5o程度削り込んだ状態で、なおかつ圧縮比を

ノーマル値と同等に調整している物との比較を挙げてみます。


・仕様その1:排気ポート開口部=シリンダー上面から25.5o ヘッド容積「ノーマル」で圧縮比約「7.1:1」

A:排気ポート開き始め=シリンダー上面から25.5oの体積=(3.9/2)2乗×π×2.55=30.44cc
B:ピストン上死点時のシリンダー上面からの下がり量=無しとして0cc
C:ヘッドガスケット0.5o×1枚の体積=0.65cc
D:シリンダーヘッド体積=5.7cc
E:ピストントップ部分体積=1.4cc

A+C+D−E/B+C+D−E=

(30.44cc+0.65cc+5.7cc-1.4cc)=35.39cc÷(0cc+0.65cc+5.7cc-1.4cc)=4.95cc

=7.14


・仕様その2:排気ポート開口部=シリンダー上面から20.5o ヘッド容積「4.8cc」で圧縮比約「7.1:1」

A:排気ポート開き始め=シリンダー上面から20.5oの体積=(3.9/2)2乗×π×2.05=24.47cc
B:ピストン上死点時のシリンダー上面からの下がり量=無しとして0cc
C:ヘッドガスケット0.5o×1枚の体積=0.65cc
D:シリンダーヘッド体積=4.8cc
E:ピストントップ部分体積=1.4cc

A+C+D−E/B+C+D−E=

(24.47cc+0.65cc+4.8cc-1.4cc)=28.52cc÷(0cc+0.65cc+4.8cc-1.4cc)=4.05cc

=7.04


と、後者の構成の場合、シリンダー排気ポートの上側から上方向への容積が小さくなる為、ヘッド周りが

ノーマル状態だと圧縮比は6:1を切る位にまで落ち込んでしまいますが、ヘッド容積のみを4.8ccに

調整すれば、そこでやっとノーマルの圧縮比位にまで戻す事が出来ます


これは圧縮比を計算し、なおかつ応用する点で一番大切な事なのですが、シリンダー上面から排気ポート

開口部までの寸法が異なっていると圧縮比も違ってくるのは当然ですから、どの位の容積のヘッドが

あれば圧縮比はいくつ位になる、といった考え方はまず役に立たない、と断言しても良いですね。


仮にノーマルに対し小さめの容積のヘッドがあったとし、それをノーマルシリンダーではなく排気ポートの

開口部位置が異なるシリンダーに組み合わせたとしても、ノーマルシリンダーにくっつけるのとは圧縮比の

変化具合は全く異なってくる、という事です。

ヘッドガスケットの厚みやシリンダー全長が異なっていても同一ヘッドでは同等の圧縮比にはなりませんし

この位でOK、といった適当は一切通用しない、いや本来やってはいけない事だ、という認識が大切です。


フルノーマル車でも厳密に排気ポート開口部までの寸法を計測して圧縮比を算出すると結構なばらつきも

ありますし、それこそ排気ポート開口部位置やらシリンダー全長が全く同一でも無い限りはヘッドが何ccと

いった表現は役に立たないんですよ…

実際には純正の同一品番品でもそんな各部が全て同一寸法なんて事はまずありませんし、私がパーツの

一つ一つに対して各部の寸法を取っていくというチューニングスタンスはこの辺りに最大の理由があったり

しますしね。



とまあ、あんまり目新しい事はありませんが、圧縮比の算出というモノは実際のパーツ計測から始まり、

計測値は結構間違いやすいですがそれでも出来る限り間違えてはいけない上、はっきり言いますと

かなり面倒くさい作業である、といった事はお分かりかと思います。


しかしながら、ノーマルエンジンでも排気ポート高さの製造誤差等が存在し、きっちりとサービス

マニュアルの値と同等にはならず近似値にしかなりえない事も多いのですが、この辺りはもはや

自分の計測テクニックを信じるしかない面も大いにあったりしますしね。


私自身、上記のピストントップ容積の比較例の様に、肩角度が大きくてトップ高さも高めのはずの

ピストンの容積が思ったより小さく計測されてしまっていた事もありまして…

その腰上構成のノーマル状態の圧縮比を計算した上、改良する為の加工寸法まで決定した後で

ピストントップ容積の齟齬に気付いてしまった、という事もあったりするんですよ(笑

こうなるとそれまでの手間は台無しになってしまいますからねえ。

まだ実際の加工に入っていなかっただけマシではありましたが_| ̄|○


が、そういった失敗も繰り返してきてこそこういう技術はモノに出来る物でして、実際の計測に加え

計算も必要ですし、各部の誤差等をどう加味するか、といった点も決しておろそかにしてはいけないと

いった面は大きいですね。


そして…エンジンのパワー特性を決定付ける物として、圧縮比計算というモノはチャンバーの特性把握や

各ポートタイミングと同じ位大切な物である、と私は認識しています。


…一つの例えで、排気掃気ポートタイミングがそれなりに無難なところに収まり、なおかつチャンバーも

目的の回転数でピークパワーを出しており、その回転域にて明確に最大トルクも発揮するといった

車両があったとしても、圧縮比がノーマル以下の設定であれば当然のごとくパワーは出づらいです。


大切なのは、ノーマルならともかくとして、社外品のシリンダーやボアアップキット等を使った場合には

圧縮比がノーマル値よりはるかに低いなんてザラにあるんですよ。

いつものクチで…もう今の時代ならばはっきり言わせて頂きますが、そこまで圧縮比を厳密に設定して

構成されている「キット物」なんて皆無に等しく、市販品はそういった面では設計の手抜きだらけである、と

いう事を断言しても良いでしょう。


だからこそ、まずは社外品にしてもポン付け状態での圧縮比を算出しておくのは基本になりますし、これも

ポートタイミング等と同じく、最低限度「現状把握」を行っておくべき点になります。

社外品の「現状」すら分からないと、それをノーマルに対してどうパワーUPさせていくのか、の把握も

出来ませんし傾向も判断出来ませんから…何の為の「チューン」なのか分からないと思いますしね。

「社外品無加工状態のポン付け時」の圧縮比がいくつかという物を把握もせず、よくある「ガスケットを

増やして圧縮比ダウンだ」ってやっても基準が無いのなら全く無意味ですね。

そんな事をしても何に対して圧縮比が低くなったのか、を分析していないと…ヘッドガスケットを増やしても

純正ノーマル値より圧縮比が馬鹿高くて意味が無い、となれば何の役にも立ちません。


ノーマルのシリンダーの排気ポートを「上」に削っただけでも圧縮比ってのはノーマル以下になる事は

皆さんもご存知かと思いますが、これが仮にノーマルで7.0:1を超えている様な原付一種クラスであれば

意外とそこまで圧縮比ダウンによるパワーダウンというモノは大きく出ない場合もあるのですが、これが

デチューン具合の大きな原付二種クラスだと、元から6.0:1とかで圧縮比が低い物が5台になってくると

無視出来る不具合では無かったりもします。


逆に、元が6.0:1の物を7.0:1程度まで高めた所で、いきなりピストンブチ抜いたりはしないんですよ(笑

「元が低い」のであればある程度常識的な所まで補正してやっとそこが「スタート地点」になる事も

多いんですよね。

実際の圧縮比のベターな数値に関しては前回の圧縮比コンテンツに記した通りですが…圧縮比にしても

ノーマルより高めたら即座にポンピングロスが出るという物でもない、といった点も、パワーとトルクの

コンテンツに記した通りだったりしまして…何か今回あんまし言う事無いです(笑



そして最後になりますが…

私自身、これだけ圧縮比についてどうこうと言っているのであれば云々、といった自覚はありますので

一部ではありますがお役立ちデータをご紹介して締めたいと思います。

…圧縮比関連に関しては何故か妙な揚げ足取りが多いのが前回コンテンツを書いた後に気になってたので、

ここまで読んだ方でも一応は時間の無駄ではないでしょ、という事も付け加えておきますね(笑


とはいっても大した事では無いのですが…前述の「ピストントップ容積」に関してのデータです。

計測が難しく、比較対象を得るにも数をこなさないと難しい、といった点は大いにあるのですが、最低限の

データはあっても困らないかな、と考えましたので今回はサービスで出しておきます。

あ、これは純正のノーマルピストンでの計測値なので、怪しいノーマル互換品やコピー品とかではトップの

容積は「測りもせずに同じ数値だと思い込んだりはしない」といった事もご留意下さい。


純正ピストントップ容積



と、手持ちにデータのある純正ピストンのみなので数は少ないですが、参考までにどうぞ。

これだけあれば当サイトを見てる方はまず困らないラインナップかと思いますよ。

これ、T.K.R.Jのサイトとかでは互換品の寸法もある程度紹介されていたりしますが、トップ部分の容積は

当然記されていませんので…

ちなみに私の計測数値は「純正品」の「実測」なので、トップ分高さ等はT.K.R.J表記とは差異がある点も

ありますし、中には何個も数を測っていない物もあるのでその点はご注意下さい。

純正品と純正コピー品が全く同一であるか、といえばそれは違うと考えるのが安易なチューンを

防止する最良の方向性なので、「実測を信じる」といった部分もこういう所にジレンマが出てくる場合が

あったりします(笑


で、本来は社外品のピストンのトップ容積の方を知りたい方もおられるかと思いますが…

残念ながら私はそこまでお人良しではないのでご容赦下さい。

社外品の方が純正各車種用よりもはるかに数が多いですが、表記しても社外品自体の

生産の方向性が変わってくればピストンが変更される、という事もあるのであまり意味も無いかとも。


言葉を返せば、仮にA社の47φボアアップピストンはトップ容積がいくつだ、と計測したとしても

「次」に同じ物を買ってもそれと同じ容積になっているのか、すら私は疑いますので。

大手で1ロットの数を多数作っていて、そういった点の仕様変更を勝手に行わない所、というのも

あるにはありますが、やはりこればかりは実測に勝る物は無いでしょうね。

…最悪のパターンだと、ボアアップキットの補修ピストンを同一メーカーから入手したとしても、

ピン上寸法やトップ容積が微妙に変更されていると不味い場合もある、とも言えるんですよ。


ちなみにホントこれは言うまでもありませんし特に言う必要も無いのですが…私個人としては

自分の物や人様からの依頼品も全て含め、


純正品以外のピストンだと一つの例外も無く


現物のピストントップ容積をいちいち計測している


といった事を付け加えさせて頂きますね。

それが私としての、たかだか圧縮比計算に必要である一つの要素である、ピストントップ容積と

いった物に対するスタンス、という事で。

(あまりに数をこなした物なら刻印が同一であればさすがに簡易で済ませますが)


…手前味噌ですが、ピストントップ容積以外の「他の部分」ってのも私は基本的にこんなスタンスですよ。

ポートタイミングの誤差なんてその最たる物ですし、シビアになるべき所はなる、という(笑

ピストンクリアランスなんかでも、同一メーカーの同一品番の品物のクセに2個比べると全然

数値が違っていて、片方は4/100でもう片方は8/100だった、とか当たり前にあるのは皆さんも

ご存知かと思いますしね。



さてさて。今回は内容がぺらぺらなのであまり長くなりませんでしたが(汗

圧縮比計算における各部計測の注意点を列記しましたので、計算&実測に役立てて頂けると嬉しいですよ。


もしこれからご自身にて各部計測&計算にチャレンジされる方は、ピストントップ容積に関しては

ある程度の平均値、近似値である私の値と比較していけば、計測方法に齟齬がありそうなのか

無さそうなのか、の判断基準にもなるかと思います。

なお当然ですがデータ数値を「鵜呑み」にするのもいけませんし、TDC時のピストンの肩落ち値とかも

実測していかなければなりませんからとにかく経験というか手数が必要ですね。


ではでは。次回も圧縮比のコンテンツを記そうと思いますが、圧力計測うんぬんについてをもうちょっと

「攻めて」みたいと思いますのでよろしくです。



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