2ストエンジンの「圧縮比」についての一考 総評編



さてさて、圧縮比関連のコンテンツ今回で3回目となりますが、今回は圧縮比といった物についての総評と

いった感じでお話を進めてみたいと思います。

前回までは2stエンジンの「各部を計測し、圧縮比を計算して数値化する」といった手法をご紹介して

きましたが、今回は「何故そうしなければならないのか」といった点もふまえてみますね。

ちなみに言うまでもありませんが今回はいつも以上に文章ばっかりです(笑


※注意

今回のコンテンツ内容は記述に多少辛辣とも取れる部分があります

これを最初に記しておきますので、「様々な考え方」といった点を

許容出来ない方はお引き取り頂いた方が無難です



※ページ内目次リンク (長いので少しずつ順番に読まれる事をお奨めします)



・圧縮比計算と圧縮圧力計測


さて、まずは1つ目のお話ですが…

今回のお話は圧縮比と圧縮圧力の有用性の差についてのお話がメインとなります。

あ、さすがにこの両者の違いは把握していないとお話にならないので、分からない方はちょっと戻って以前の

コンテンツ等でお勉強して下さいな。


なおこれは最初の圧縮比コンテンツにも記しましたが、私は圧縮比を計測して数値化し、それをもって

エンジン特性の分析の一環とし、エンジンチューンの指標ともする、といった事はご説明しました。

もっとはっきり言えば、私は圧縮圧力計測といった、コンプレッションゲージを使ってプラグホールに

かかる圧力数値を計測する手法は「性能指標としない」という事でもあるんですね。

(※もちろん圧縮比の計測&計算のみではエンジンの全てがどうこう、と分析出来る物でもありませんが)


私が一番最初の圧縮比コンテンツを記した時点ではすでに圧縮圧力計測を旨とする手法はそれなりに

浸透していましたが、圧縮比計算については否定的な意見も実はちらほらあった訳なんですよ。

元々私は圧縮圧力計測は微妙だと考えていたので異を唱える形に取れたかもしれませんが…

その後、さすがに直接目の前で言われる事はありませんでしたが問い合わせ等があったのも

事実ですし、某匿名掲示板なんかではいわれのない事をボロカスに言われてた、って事もあったりは

したんですよね。


考え方の違う人間が居るだけでそこまで気に入らないのか?と思ったのが正直な所なのですが、

私の方にも説明不足な点があるから曲解されたりするのでは、と考えてそれ以来ちくちくと「次」の

圧縮比コンテンツを書いていたワケでして(笑

それがやっと今回書き上がったので、言葉足らずにならない様にじっくりと私の考え方、といった物を

色々な例えや比較等を絡めてご説明していきますね。



・サービスマニュアル記載値のDioとJOGにおいての差異


さてさて早速本題ですが、まずは私の意見としては、


ノーマル新車基準となる「圧縮圧力計測値」は、車種によって差がある


という事を最初に出してみたいと思います。


これ、表題通りメーカーは違えど排気量は50ccのスポーツグレード車で、なおかつ最大出力値も同等、

ピークパワーが出るエンジン回転域も同等でなおかつ圧縮比も同等である、といった「かなり似ている」

二車種を例として出してみましょう。

ホンダのAF35型ライブDio-ZXと、ヤマハの3YK型のJOG-ZRとなりますが、まずはこの二車種の

サービスマニュアル記載の「圧縮圧力値」を記してみます。

写真なので見づらいかとは思いますが…


ライブDio圧縮圧力規定値 3YK-JOG圧縮圧力規定値


・ライブDio-ZX 圧縮比7.1:1 圧縮圧力10.5kgf-cu/600rpm


・JOG-ZR 圧縮比7.2:1 圧縮圧力8.0kgf-cu/1000rpm


と、こうなっていますね。

ちなみに、純正新品構成のエンジンにて各部を計測し、圧縮比を算出した値はどちらの車種においても

サービスマニュアル値と同等、もしくは近似値なのを私が確認している事は言うまでもありません。


で、単純に圧力計測の数値だけを見ると、ライブDioの方が高くJOGの方が低いといった基準になって

いますし、仮にこの数値をひとつの「性能指標」として見た場合、圧力値が高いのはJOGより

Dioの方である、といった解釈になりますが…これ、実際にフルノーマル車に乗った場合、走行性能的に

上だと体感出来るのはどちらの車種でしょうか?


もちろん圧縮圧力のみで絶対性能を判断する事は出来ませんが、「チューニングの性能指標」の一つと

するならばこの圧縮圧力値をアテにし、厳密に言えばJOGの方が圧縮比も高いのに何故に圧力が低く、

なおかつ性能も良いのか、といった理由をまず突き止めないと、安心して「基準値」にする事は出来ないでしょう。

が、そこまで言わずとも、コンプレッションゲージを使って圧縮圧力を計測してみて、せめてサービス

マニュアルと同等値になっている事を「確認してから」チューニングを始めるのであればまたマシかなとも

思いますけれどね。


だからこそ、これはすごく単純な話でして


DioでもJOGでも、


一概に○kgf/cu位の圧縮圧力があれば良い


という事は安易には言えない


んですよ。


これはイコールで、「チューニングの指標」にはなりえないどころか、ノーマル車を比較分析するとしても

車種が異なれば比較になる物では無いとも言えますね。


そして、上記の二車種の比較だと、1次圧縮が違うから2次圧縮圧力も異なるのでは?といった意見もあるかも

しれませんが、実は私、1次圧縮「比」ってのを計測&計算した事があるんですよ。

これはさすがに2次圧縮比程には正確性はありませんが、一応の把握はしているといった事でよろしくです。

なお1次圧縮については後の項目でも出てきますので詳細はまたそちらにて。


で、私個人の計測では1次圧縮はDioの方が低い位である上、実際の「比」としては大差は無いという

分析がありまして、Dioの方が1次圧縮が低そうなのに何故に「サービスマニュアル表記値」での2次の圧力が

高まるんだ?といった疑問になりますが、私は結局は未だにこれを解明出来ていません。

それならばなおの事、JOGの方が2次圧縮圧力が低いという時点で私は納得が出来ませんし、そもそも

メーカーによって計測基準回転数も違う上、指定工具も異なるので

これを一律化でもしない限り、○kgf/cuがベターである、なんて言える物では無い

と分析していますよ。


もっとぶっちゃければ、そんな素人計測ではアテにすらならず、実際の圧縮比やら性能特性やら何やらを

含めた走行性能に関してまで相違が起こってくる「数値」を、「基準」として扱う事なんて出来ない、と私は

結論付けていますね。

いつものクチならば、


ノーマルエンジン同士の比較ですら怪しい物を、

チューニングエンジンの性能指標になんて出来るワケが無い


といった感じですし。

少なくとも、私の目にとってはそんな曖昧な計測値は基準とはなりえず、性能指標にするなんて問題外だと

考えているという事は言うまでも無いかとも。



なので、圧縮圧力値の計測による数値比較の場合だと…


・完全同一構成のエンジン同士で、単一のゲージを使わないと数値での比較が出来ない


・その上、劣化等でも計測数値が異なってくる面があり、「設計寸法」の勘定に入れられない


・同じシリンダーやリング、ヘッド等を使っていても、劣化具合が異なる物では比較にならない


という事に他なりませんね。


仮に、自分が1種類のエンジン構成、1社のボアアップキット等をチューニングベースとし、全く同一の

コンプレッションゲージを使い、加工寸法やポートタイミング等も全く同一の仕様としてこしらえるのであれば

自分の基準を基にして圧力計測で性能指標を作っても「その構成のみ」には融通を利かせる事も不可能では

無いとは思えますが…


排気タイミングを大きく変更したり、他の部分の仕様、寸法が変わってしまった場合にはまた1から基準となる

圧縮圧力計測値の取り直しをするしかありませんから、これはあまり良い手法とは思えません。

まさか、排気タイミングのみが早くなり、他は無加工の仕様だとしてもコンプレッションゲージでの圧縮圧力値の

計測を行い計測数値が変わらなければOK、という物でもないでしょうし、それはさすがに適当すぎます。

そういった仕様変更だと、どうあっても実際の圧縮比は変動しているのですからその点まで無視してしまうと

いうのはいささか乱暴だと思われますが…さすがにこれは深読みしすぎかなとも思ったり。


ちなみに、圧縮圧力値をチューニング指標とする場合だと、「おおむね10kgf/cu程度が街乗りではベター」と

いった表記も目にしたりしますが、それってその数値の額面だけを受け取るならば、


Dio系と言うかホンダ2st系の原付クラススクーターの場合


適度な圧縮圧力値を求める場合は


ノーマル基準値(10.5kgf/cu)より低い数値なのがベターなのか??


という話になってしまいますよ。


この点にしても、これは一体何を基準としているのかをはっきり示さないと、「勝手な計測数値」だけで

物を言っていると他人様とは話にならないどころか、大きな齟齬が出てもおかしくありません。

自分一人の中のみで考えているのならともかく、私としては圧力計測値というものをぽんぽん出すのは

あまり好ましくない、と考えていたりするのは言うまでも無いかとも。


はっきり言いますが、こういう矛盾があるのにも関わらず、自分基準ではなく人様との計測数値の比較や

アドバイスを行っているという事例があるという事は、正直私には全く理解が出来ません。

圧縮圧力の素人的な考えであれば、仮にDioだと元が10.5kgf/cuなのであれば12kgf/cuとかにまで

圧縮圧力値を上げないとパワーUP具合は小さいのではないのか、と考えてもおかしくはありませんし。

「何を基準にしているかすら分からない数値」を示されても無意味どころか混乱を招くだけです。


で、それも数値だけを鵜呑みにするなら、JOGの数値で見てみればノーマルが8kgf/cuであるべき物を

仮に12kgf/cu程度にまで上げたとすればノーマルの1.5倍の値ですよ?

…何を基準しているかによって大きな矛盾が出てくるという点、これをきちんと分析した上で人様への

アドバイス等を行ったり、エンジン作りを行うのであれば問題は無いのでしょうが、そんな事はそう簡単に

出来る物では無い、という事は明白だと私は感じています。



・圧力計測ゲージと計測方法について


では次に、圧縮圧力を計測する為の「コンプレッションゲージ」について少々述べたいと思います。

まず、この器具はプラグホールに挿入し、キックなりセルなりでサービスマニュアル規定値の

回転数でクランクシャフトを回し、アクセル全開固定にて使用する物ですが…

これ、本来の使い方としてはエンジンがきちんと温まっている状態で計測する物であり、間違っても

冷間時に計測する物では無いんですよ。


何故かと言いますと、エンジンというモノはきちんと各部が動作する為にはある程度の温度が必須で

あり、圧縮圧力計測をされる方だと名目上では「実働時により近い圧縮の把握になる」といった事も

鑑みれば、冷間時に計測するというのは何の役にも立たないどころか問題外である、と断言しても

良いでしょう。

…タイヤの空気圧と違い、冷間時と温間時では計測圧力に加味される事柄が違いすぎるので。


さて、ついでなのでここでタイヤ空気圧の計測、といった物も取り上げてみましょう。

エアゲージでの空気圧計測という物は、スポーツ走行では絶対に必須な器具の一つになりますが

これは基本的に「人に借りて測ったりするものではない」んですよ。

自分のゲージにて自分の測り方でエア圧を決めていく物でして、一応はだいたいは○kgf-cu、といった

数値の情報交換は行いますが、自分が走る場合の絶対基準となるのは「自分のエアゲージ数値」でしか

無いんですね。


とはいえ、これはガソリンスタンドで空気入れを借りるのとは訳が違いますし、コンマ1単位での管理が

必要になってくるものなのでシビアになるのは当然ですが、だからこそ温間時の計測や調整を基準値や

指標にはしない、といった事に繋がってきます。

これはタイヤを暖めてしまうと結構な圧力変化が出るのであてにしづらい、といった事がありますが、

実際には温間時の空気圧は状況によって異なる、すなわちライダーの乗り方、季節や路面温度でも

変動するからこそ、冷間時の計測圧を「自分基準」とする物なんですよ。

なのでエアゲージでの計測の場合は、


仕様が異ならない、もしくは劣化が進まない限りは圧縮圧力値を


安定させられている、「温間時の安定したエンジン」の扱いとは


全く話が違います


が、だからといって「温間時」のエア圧計測を一切行わない訳ではありませんし、これは「両方」を知って

いてこそ調整幅という物が出来てくる物である事は言うまでもありません。

…そもそも、「ある程度走らないと分からない」数値をアテにするとすれば、レースならばスタートした後で

空気圧を調整し直さなければならない羽目になりますし。


対してエンジン圧縮圧力計測の場合、本来ならばエンジンの各部密封性等が「実働時」に近くなる温間時に

計測するのが基本であり、冷間時に計測するのは本来の使い方ではありませんしね。

実際にはそんな方はあまりいないと思うのですが、たまにそういった話も耳にしたりするので。

それこそ、前述の様に様々な要素を内包した「実働時に近いデータ」といった意味合いの計測としては

オイルによる密封性やら各部の熱膨張やらこそ「実働時」に近くなる状態において計測すべきですね。


…と言いますか、冷間時の圧縮圧力を何かのアテにする、というのは暖気もしていないエンジンで

全開走行を行って性能や特性を判断する、といった事とほぼ同義となります。

また、駆動系に例えるとベルト等の各パーツが常温のまま走ってみて特性や性能がどうだこうだ、と

判断しているのと変わりませんからね。

それは実働に近い状態、なんて言葉からは正反対のところまでかけ離れていると言っても良いでしょう。



・チャンバーのカデナシー効果の問題


と、話が少し飛びましたが…

圧縮圧力計測に関しては、圧縮比計算法と比較した場合、「実働時の状態に近い混合気圧縮効率を

読み取りたい」といった理由を有用性のある点としている事を目にしますが、それならば余計に冷間時の

圧縮圧力計測なんて行うべきではありません。

こういった点もふまえ、冷間での判断が良い、というのはいささか無理があるのではと私は分析しています。


が、圧縮比計算法の場合だと、実際の圧縮比の数値は実働時でも冷間時でも変化はありませんし、エンジンの

実働時における憶測値の「加味」はしなければならないのは事実なのですが、これは計測数値ではなく

「数字」を加味すれば良い、といった点が大きなメリットになっています。(後述します)

「ならば圧縮比計算法では実働時にどれ位の混合気が圧縮されているのかが測定出来ないではないか」と

考えられる方もおられるかと思いますが、これは実は圧縮圧力を計測しても同じ事なんですよ。

エンジンが燃焼&回転している実働時の圧縮圧力なんて、どうあっても素人計測なんて不可能ですから。


そもそも、こういった「圧縮」といった物を求めている上で本当に知りたいのは「燃焼圧力」であり、

火が入っていないエンジンだと「圧縮」圧力をいくら測っても性能指標に出来る訳がありません。

これはですね、

圧縮圧力が高ければ、混合気に火がついて燃えた時の燃焼圧力がイコールでそのまま

強大になるという訳では無い

んですよ。


…圧縮される混合気というモノは量を詰め込めば良いと言う訳ではなくて、仮に圧縮時に存在する

「気体」の総量が「100」あったとしても、その100が全て新気(未燃焼混合気)であるとは限りません。

「気体」の総量の内の「30」位は燃焼済み排気ガスで占められている事もあるのが2stエンジンなんです。

これはチャンバーの効果が低いと余計に「新気100%」には近づかない訳でして、その効率を極限まで

高めてやるのが2stエンジンチューンの真髄とも言えるでしょう。

「量を突っ込み、無理に圧縮させる」だけが2stエンジンチューンではない、と私は断言しますね。


混合気の総量に占める新気の割合のイメージ



簡単にいつもの下手絵を書きましたが、イメージ的にはこんな感じになります。

シリンダー内に充填されている混合気の総量が同じでも、新気の占める割合が多ければ多い程に、圧縮時の

燃焼効率は向上するんですよ。

排気量や圧縮比等が全く同一の、同じエンジンである事が前提であるならばまずは第一に


掃気効率、新気充填効率を上げてやり、燃焼済み混合気の割合を


減らす事こそが2stエンジンチューンの第一の命題であり、


常に考えておかなければならない点である


と言っても良いでしょう。

言葉を返せば、吸気的に言えば4stのターボチャージャー的なイメージでは無い、とも表現出来るかとも

思います。


なお、上の絵の左側の様に、排気ガスが多量にシリンダー内に残っている、または再充填されている

エンジンの場合、「圧縮比を高く取らねば」右側のエンジンと同等の燃焼圧力を発生させる事は難しい、と

いうのはご説明するまでもありませんね。


…これをふまえれば、火の入っていないエンジンではチャンバーでのカデナシー効果は一切作用せず、

「シリンダー内部への混合気再充填効率」が0なので、「圧縮している具合」をいくらコンプレッションゲージで

計測してもそれは実働時の状態に近いどころか、何の加味にもならないという点はお分かりかとも。


そして前述の様に、「ならば圧縮比を計算したってチャンバーの効果までは勘定に入れられないだろう」と

お考えの方もおられるかと思いますが、これは実際にはそんな事は無いんですよ。

むしろ、静時でも実働時でも「圧縮」に関する数値が変動しないからこそ「指標、基準」となりえる上に、

色々なエンジンの「圧縮比」を鑑みればある程度ではありますがチャンバーの効果分を「加味」していく事も

事実上可能になっています。

これが私が圧縮圧力計測を旨とせず、圧縮比計算法を採用する最大の理由であり利点になりますね。

分かりやすく言えば、実働時に起こるであろう現象を推測&加味しやすいという事です。


私は圧縮比計算を行い、圧縮比をこれ位にすれば低いかな、高いかな、もしくは丁度良いかな、といった事を

吟味しつつ指標としてエンジンをチューンするのですが、この場合においても


といった様に、圧縮比という物の設定でも、どういった仕様だとエンジン内部へ混合気の充填効率が

どの位になるのか、を考えた上で決定している物なんですよね。

当然、これは一概にどんな仕様やどんなエンジンでも「○:1位ならOK」といった保障ではありませんし

上記の圧縮比の値も全てにおいて当てはまる訳ではありませんが幅広い車種や仕様に対して

対応させる事の出来る「基準値」になりえる事は大きなメリットとなります。


この辺りの数値こそがノウハウや経験によっても導き出される物ですが…

いつぞやのクチではありませんが、「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」という言葉の通り、市販の

2stレーサーでも純正で圧縮比が「9.0:1」程度を超えている物はまず存在しない、といった事も鑑みれば、

とんでもなく超高効率のチャンバーを持ち、かなり高効率な掃気効率のレーサーエンジン構成であっても、

2次圧縮比としてはおおむねそれ以下が個人LVのチューニングでの事実上の上限値である、と考えても

決しておかしくはありません。


…それ以上上げても全く問題ない、となれば点火時期が遅すぎるとか、他に致命的な不具合がある場合が多く、

メーカー純正2stレーサーの「効率」をそんな簡単に個人チューンが上回る事は不可能である、と言い換えても

良いでしょう。

いつものクチですが、そんな事が個人で出来るのであればメーカーのワークスよりも技量が上だ、という事と

同義ですからね。



そして次に、チャンバーの働きで「エキパイ側に抜けてしまった未燃焼混合気をシリンダー内に押し戻す」と

いった工程、これは火を入れずにエンジンを回しても一切その作用が起こらないので効果が出ないのは

前述の通りです。と言いますか2stエンジンの基本です。

これを加味せずに「実働時に近い圧縮」が行われていると考える事は本来おかしいのですが、以下に

もう少し掘り下げた理由を記してみましょう。


まず、4stの様に圧縮工程の密閉性が高く、なおかつ「未燃焼混合気の戻し」が一切無いシステムなので

あればその「実働時に近い圧縮」といった理屈もまだ分からなくもありませんが…

2stエンジンとはまずはそのチャンバーのカデナシー効果があってこその2stなので、チャンバーにて反転して

未燃焼混合気を戻すといった作用の元となる「燃焼圧力波」が一切発生していない「未燃焼状態」でクランクだけ

回転させても実働時に近い状態を作り出せているのか、といえば私は否だと考えます。


そもそも、2stエンジンはピークパワーが出る回転域ではシリンダー内への混合気充填量、効率が最大に

なるからこそ「大きな燃焼圧力」が生み出せるのであり、5000rpmでも10000rpmでも「1発の燃焼圧力」が

2st程には大きな差が出ない4stと同じにしてはいけないのです。

要は、2stはパワーバンド回転域以外ではアクセルがたとえ全開でも上記の絵の左側の状態であり、混合気の

充填状態が右側の絵の状態に近づいた回転域のみがパワーバンドに「なる」、という事なんですよ。


だからこそ、混合気充填効率が極端に悪く、なおかつ燃焼すらしておらずチャンバーの効果自体が0の

状態であるキックやセルを用いた極低回転のエンジン回転のみで「実働時」に近い状態を求めて圧縮圧力を

計測する、というのはおかしいと私は分析しています。


たまに「2stエンジンは掃気等の効果もあるので、圧縮比を計算するよりも圧縮圧力を計測して

やった方が正確に近くなるので有用」といった意見を見ますが、私はこれは正反対だと考えます。

排気、吸気、圧縮工程がきちんと区分けられている4stの方が、圧縮圧力計測って性能指標にしやすいのでは、

と考えていますよ。

曖昧すぎる、と言いますか各部の関わりあいが多すぎる2stだから「こそ」圧力計測はあてにならないでしょう。


…ならば圧縮比計算法ならそれが可能なのか、と言われればそんな事は「計算だけ」では当然不可能ですよ。

前述の様に、いくら圧縮比計測法が静時と実働時で不変の物だとしても、実働時の「加味」といった物は

行ってやる必要性はありますからね。

これはもう少し具体的な例を出してご説明してみましょう。


まず簡単なお話として…同一排気量で単気筒の2stと4stのエンジンを比較すると分かるのですが、ノーマルの

2stエンジンなら原付一種クラスだと「7:1」程度しか無い圧縮比は、4stだと「10:1」とか平気であります。

これは2st視点から見るととんでもない高圧縮で、実際に2stでそこまでやると間違いなくボン!となる事は

目に見えているLVなんですよね。

ここはエンジン自体が2ストロークで1サイクルなのか、4ストロークで1サイクルなのかの違いもありますし、

実際の熱問題もありますが要点はそこではないんです。


4stエンジンの場合、圧縮工程ではチャンバーからの未燃焼混合気の「戻し」、すなわち未燃焼混合気の

再充填効果が全く無いからこそ、「吸っただけの混合気」のみの総量を考えてかなり高い数値まで

圧縮比を上げられるのです。

(もちろん、クランク2回転で1回しか燃焼しておらず熱的にもやさしい、といった点もありますが)


これは言葉を返せば、2stエンジンに対しチャンバー効果の全く無い「マフラー」をこしらえて装着した

場合であれば、圧縮比自体は10:1に近い仕様でもある程度の運用は可能だと私は考えていますよ。

もちろん、その場合はシリンダーの掃気ポートから引き込まれる未燃焼混合気(新気)しかシリンダー内に

充填されない上、排気ポートから逃げている未燃焼混合気も「取り戻せない」ので、大きなパワー、すなわち

強い燃焼圧力波を発生させる事は不可能であろう事は言うまでも無いでしょう。


…世の中には実験された方もおられるかもしれませんが、チャンバーのエキパイ部分の筒だけをシリンダーに

取り付けて走行すると全然パワーが出ませんよね。

これはノーマルマフラーのエキパイ部分のみをくっつけて走った場合でも同じで、いかにノーマルといえど

「チャンバーのカデナシー効果」がどれだけの大きな効果を発揮しているか、という事です。

実験環境が確保できる方であれば、これは是非実際に体感してみると面白いかと思いますよ。


そして、計測数値をそのままエンジンの性能特性、チューニングの指標に出来るか否かといった面に

おいては、圧縮比計算でも圧縮圧力計測でも、エンジン実働時のチャンバー自体の効果をまるで無視した

手法である事にはどちらも変わりは無いのは前述した通りです。

しかし、チャンバーの効果を勘定に入れやすく出来るのは、一般車両、市販レーサーにおける

限界点、といった物が明確に示されているデータのある圧縮比計算の方なのですよ。

DioとJOGですらすでに測定回転数も規定圧力も大きく異なっている圧縮圧力とは訳が違いますね。


純粋なレーサーの圧縮比というモノは、超高効率のレーシングチャンバーにおける、素晴らしく高効率な

未燃焼混合気の「戻し効果」を大前提としている上での設定値なのですから、一般的なチューンにおいては

そういった「エンジン実働時の極限に近い混合気充填効率がある状態」を鑑みた上での圧縮比設定値、と

いったモノを大きく上回る事は無い、とも言えますね。これも前述の通りです。


実際、ホンダ系ならばDioでもリード90でもNSR50でもNSR250Rでも、圧縮圧力の値となれば「10.5kgf/cu」程度が

基準となっていますから、正直その数値では「性能比較」なんて出来ないのは当然の上、指標にするなんて

余計に無理ですしね。

全て同じ位だ、と解釈しても良いといった方向性に解釈が進んでもおかしく無いでしょう。


そして圧縮比の比較であれば…Dioにしてみれば「7.1:1」、リード90は通勤二種でデチューン気味な事もあって

「6.3:1」、高性能MT車のNSR50だと「7.2:1」といった感じです。

そしてストリート車では超高性能と言われたNSR250Rでも「7.4:1」程度なんですよね。

純粋なレーサーの場合だと、私が実測した訳ではありませんがRS125Rハイオク仕様で「8.4〜8.7:1」

OFF車のCR80だと「8.4:1」程度、レーサーは年式によって変更がありますが、ストリート車程に低い数値では

ありませんね…ってか当然ですが。

そしてHRCワークスレーサーのNSR500だと「8.3:1」(95年式)となっています。


…で、これらの数値を鑑みれば、性能特性の分析の一要素においては、「圧縮圧力」を比較するのが良いのか

「圧縮比」を比較するのが良いのかは一目瞭然でしょう。

これらの車種の圧縮比の数値を比べるだけでも、なんとなく見えてくる物はあるかと思いますよ。


最初のJOGとDioでも、圧縮圧力だけを見るならDioの方が2.5kgf/cuも高いのですが、実際にエンジンに

力があると感じるのはどちらの車種でしょうかね?

どちらのエンジンもピークは7000rpm程度で発生し、圧縮比も排気量もほぼ同一といって良いと思いますが、

少なくとも圧縮圧力を性能指標の差にしたいのであれば、この数値差と実際のエンジンパワー感の差の謎を

解明しないと始まらないでしょう。


ちょっと変わった例えであれば、前述の2stスポーツモデルであるNSR50、これに対してヤマハの

TZM50Rを出してみますが、この車種の圧縮比って「7.5:1」あるんですよ。

これだとDioとJOGの比較とは逆で、圧縮比が高いTZMの方が実際の走行フィーリングにおいては

NSR程は加速しない、と感じますが…エンジン的には結構トルクフルなフィーリングはあったりします。

ただ、「実際に競争させた場合」ではNSRの方に軍配が上がりやすいといった面は確実ですね。


こういった様に、圧縮比で比較を行ってもそれがダイレクトに絶対的な性能比較になる、とは限らない

面もありますし圧縮比だけが高けりゃハイパワーという訳でもありませんが、エンジン自体の分析の

一環とする要素、としては


圧縮圧力計測と圧縮比計算ではどちらが「指標としやすいのか」


と、これに尽きると私は考えていますよ。


…一つの余談で、レーサーのRS125のポートタイミングは参考にする方って多いと思いますが、圧縮比は

どうして参考にしないのかな?というのは私の長年の疑問でもあったりしますよ。

ポートタイミングは参考にしても圧縮比は参考にならない、なんて無茶な話は本来無いのですけれどね。


で、はっきり言えば、圧縮圧力でモノをどうこうと言っていても、チューニングにおいての性能指標になどならず、

他車への応用も一切効かない超限定的な手法にしからない、と断言しても良いでしょう。

特定の1車種のみのノーマル仕様や、ひとつのメーカーのボアアップキット等のみを使って

「それに対してのみ」の調整を行うのであれば使えるのかもしれませんが、私個人としては他の車種、

仕様に対し全くもって応用の利かない手法だ、と割り切っているのでわざわざそんな非効率で不正確な

手法を行う事はありませんね。


分かりやすく言いますと、JOGで圧力計測のデータを溜めてる方と、Dioで圧力計測のデータを溜めてる方が

エンジンの圧縮について話をするとしても、話が合わなくて当然になってしまうんですよ。

それはその車種特有の状態、といった物の分析や追及なのであり、エンジン自体の基本といった物を

すっ飛ばしている事に他ならない、と私は考えます。


で、そういった圧縮圧力に関するあれやこれやを明確かつ正確に分析出来るのであれば、まだ

圧縮圧力計測も性能指標にする価値があるとは私も考えましたが、残念ですが私はそこいらまで

到達するには至っていませんのでね。

少なくとも、エンジンの静時においての圧縮圧力を計測しそれを正確にアテに出来るといった手法も

サービスマニュアルの基準値を比較要素に出来る、という確証も、どうあっても考え付きませんでしたから…



・1次圧縮との兼ね合いについて


さて、次に多少前述した「1次圧縮」と2次圧縮との兼ね合いを少し書き連ねてみたいと思います。

皆さんご存知の通り、「1次圧縮」という物はクランクケース内部、腰下の内部に吸入された混合気が

ピストンの下死点への下降により、体積を押し縮められている状態を指します。


とはいえ、実際には1次圧縮室、クランクケース内部ではそこまでみっちみちに混合気という気体が

詰め込まれている訳ではなく、リードバルブなんかも私は中、高回転域ではびらびらと揺れて振動して

いるだけだと考えていますし、2次圧縮程の密閉性や正確性はない、と考えても良いでしょう。


が、だからといって1次圧縮が混合気充填効率に対し全く影響が無いのか、と言われればそうではありません。

エンジンの基本は「シリンダー内部へ混合気を吸わせる事」ですが、2stの場合はクランクケースの

内部からシリンダーへ掃気される新気の充填効率を、混合気の1次圧縮による反力で補っている事はまず

間違い無いと分析していますね。

とはいえ、あまりこだわりすぎても意味が無いのですが…それを言ってしまうと分析が成り立たないので

そういうものだ、といった認識でお願いします(笑


で、この1次圧縮という物…何故か高い方が良い、といった風聞もありますがこれは本来そういった物では

なく、「圧縮」ですからやはりやりすぎてもいけない物なんですね。

よくハマってしまうのが、「1次圧縮が高すぎる事によるピストンのポンピングロス」

なのですが、これも「ノーマルだとどの程度の1次圧縮なのか」をある程度は把握していないと、上げて良い

物であるのか、むしろ下げた方が良い物なのかの判断が付きません。


2次圧縮比が高すぎてもピストン上昇時のポンピングロスは起こるのは当然ですが、1次圧縮が高すぎても

2次圧縮程の影響力はありませんがそれなりにピストン「下降時」のポンピングロスは起こる訳です。

特に、ボアアップを行っている場合には自動的に1次圧縮は上がってしまうものですし、他を完全なる無加工で

2次圧縮比もノーマルと同等値に調整していたとしても、実際のポンピングロスはノーマルより増大して

しまうのは言うまでも無いかなと。


が、ボアアップのみの場合は、多少ピストン下降時のポンピングロスが大きくなり、ピストン重量も増えて

しまったとしても、それを全て補える位の排気量増大による吸入負圧向上により、強い燃焼圧力派を

生み出す事が大前提なので、1次圧縮が上がったからといってそこまで実走行でのロスが生まれる訳では

ありませんけれどね。


で、ここで私がその1次圧縮に対してちょっとだけ記したいのは…これって圧縮ですから一応としては

1次圧縮も「圧縮比」で数値化出来るという事です。


んなもんどうやって計測したんだ、と思われるかもしれませんが、もちろん2次程正確には出せる物では

ありませんので詳細は解説しませんが、相手は容積、容量ですから計測&計算が全く不可能な訳では

無いんですよね。

ざっとではありますがご紹介しますと…

1次圧縮計測の一部工程(笑
見たまんまですが、クランクケースの各部にしっかりにフタをして液体を流し込み、容積等を計測しています。

もちろん、この他にはシリンダーにピストンを突っ込み、「裏側部分」あたりの容積を計測したりもしていますよ。

そして、この腰下に対し「漬かる」部分のシリンダーの一部等も、各部寸法より体積を割り出して計算の加味としていますが…加味する部分がかなり多いので苦労しました(泣



シリンダー側掃気ポート通路部の容積なんかも実測して勘定に入れていますし、正直めんどくさいです。

とまあ、こんな感じで写真のAF18系エンジンの1次圧縮「比」を算出してみた訳なのですが…

これ、いくつくらいの対比であったと思われますかね?実際には私の計測&計算によりますと



AF18Eノーマルエンジンでの「1次圧縮比」は


約「1.24:1」程度になっていました



さて、ここをご覧の皆さんはこの数値をどう捉えられますでしょうか?

高い?低い?もしくは丁度良いのか?と…色々解釈はあるかと思いますが、こういうのは当然のごとく

サービスマニュアルに数値が載っている訳ではありませんから判断のしようが無いですよね。

なのでこういう場合は…「似通った仕様の他のノーマル車を計測して比較してみる」んですよ。

今回の実例はAF18系エンジンですが、それならば特性が似ているJOGやライブDioを比較対象として

測ってみれば良いんですよね。そうすれば完璧に正確では無いでしょうがある程度の傾向、といった物が

「メインとするエンジンに対して」浮かび上がってくるんですよ。前述の他車種の圧縮比と同じですし、私の

口癖でもある「一つしか知らないと比較、判断が出来ない」という事にも繋がります。


もちろん私も他車種の1次圧縮「比」を測ってはいますが、さすがに今回はそれは非公開とさせて頂きます。

今回のコンテンツの本題は、この車種だったらこの位である、といった具体例を挙げる事ではなく、

圧縮圧力ではなく2次圧縮比を求める事の有用性をお伝えする事が主目的ですので。


…ぶっちゃけて言うと苦労して測ったAF18系の1次圧縮比も公開はしたくないのですが、ついでですから

容積対比も出しておきますと「TDC時=253.9cc/BDC時204.5cc」でしたよ。

おおむね49cc分程度の差がある、というのもなかなか面白い点ではありますね(笑

(※もちろん小数点以下の数値は計算の端数で出た物なので正確な訳ありませんが)



ほいでもって、こういった感じで私は1次圧縮に関しても容積対比で出してみている訳ですが、これは

さすがにある程度の「参考値」であり、大きな指標にする物では無いと考えていますのでその辺りは

ご了承下さいな。

1次圧縮を上げ下げしてみて、エンジンの傾向等で判断する方を旨とはしていますので。

ただ、そういった「傾向」を見極めるには、やる前から「どっちに向くのか」はある程度把握していないと

いけない、というだけの事ですけれどね。


なので、これをもってして私は



1次圧縮はあらゆる状況でノーマルより高い方が良い


といった方向性は「否定」します



これはフルノーマルやライトチューンに対して、多少の補正であればやる価値はあるかと思いますが、

特に二種車輌の場合、上記のAF18の様な一種車輌の様には1次圧縮でのロスは低くなく、元々ただでさえ

低中回転にピークパワー、パワーバンドを発生させづらい2stのエンジンの基本から逸脱している仕様ですから、

二種+ボアアップ等に対し、あまりに1次圧縮を高めよう、ノーマルより絶対に高くしよう、という方向性は私は

好きではありません。


一つの例えでヤマハの3WFなんかだと、根本的に3YK等と腰下の寸法が変わらない上、腰上に

関してはそのままボアストロークアップにて82ccまでスープアップしているに近いですよね。

一種並みの腰下のままで排気量が上がっていますから、1次圧縮が高くなりすぎない様にする為の

構成も各所に見られますし、1次圧縮過剰というのはメーカーでも回避している事は間違い無いです。

排気量UPに対してクランクケース容積も大きく保つ、といった方向性もあわせて考えられていると思いますよ。


ざっとだけ数値を出しますが、3YKがストローク39.2o、コンロッド長80oでピン上寸法が25o位なのに対し

3WFだとストローク42o、コンロッド長84oでピン上寸法は33o位あるんですね。

ストロークで上側に1.4o分、コンロッド長で4oも長くなっているにも関わらず、さらにピストンのピン上を

8o程度伸ばしているのは間違いなく何らかの理由がありそうだと分析出来ますよ。

他の二種車だとピストンだけを見てもここまでピン上が長いのはグランドアクシス位なのですが、同じく

5FAエンジンも各部で1次圧縮を抜こうとしている形跡は見られますね。リード90やV100に比べてもこれらは

かなりの首長ピストン構成だったりしますんで。



で、こういった「エンジンそのものの構成」を考えてみる時、本題である2次圧縮についてはどうやって

把握しているかで大きく異なってきますが…まず、コンプレッションゲージでの計測値をアテにしていると

した場合、それは「2次圧縮のみ」を把握出来る物では無い、という致命的な欠点があります。

…ここまで読まれた方であればもうお気付きかと思いますが、



仮に「上」の方でポンピングロスが大きく、伸び悩む上に狙った回転域にて

ピークパワーが発生していない、しづらいといった状況が起こった時に



コンプレッションゲージを用いた上で


プラグホールにかかる圧力を計測して指標としている場合だと


1次圧縮が高いのか、もしくは2次圧縮が高いのかを見極めづらく


原因の切り分けが出来なくなってしまっている



と、こういう事になってしまうんですよ。

私も完璧に1次圧縮「比」を出せる訳ではありませんが、傾向に関してはどんなエンジンでも

未見の場合には最初にアタリをつけて高そうなのか低そうなのか位は考慮しますし、その上で

2次圧縮比を測定し、実走のフィーリングに対しての分析の一環とする訳です。

1次圧縮が高めのエンジンの場合、2次圧縮比はベターな点よりは多少低めに取らないとバランスが

おかしくなる、というのは冗談ではなくハイチューンであればある程モロに出て来ますよ。


なおこれはどこかで以前に見た意見なのですが、

「2stエンジンは1次圧縮工程があるので、2次圧縮を正確に判断するには実際に圧縮されている

具合をコンプレッションゲージで測る方がベター」

といった物がありまして、これは私の見解では否定せざるを得ません。


前述の通り、エンジンに火が入っていない状態で2次圧縮圧力を計測しても性能指標には

ならないと判断していますし、なおかつそういった計測の場合、1次圧縮との兼ね合い、といった物は

1次圧縮がほぼ不変である事が前提で無いと、「2次圧縮のみ」の判断なんて出来る訳がありません。


ボアアップもストロークアップもクランクケース加工もリードブロック交換も一切行わず、ノーマルの

「腰下の状態」を完璧に維持したままなのであれば、1次圧縮は変わらない物として2次圧縮の具合の

変化をコンプレッションゲージで判断してもいけるのかな、とは思いますが、そんな限定的な状況って

どれだけあるのでしょうか?というのは少し考えてみれば分かると思いますよ。


…いつものクチで言いますと、勝手な想像ではありますがコンプレッションゲージに頼っている方というのは

1次圧縮は高ければそれで良し、デメリットを鑑みていないといった方向性にも取れてしまいがちなんです。


後、言うまでもありませんがピストンリングやシリンダーが極度に劣化したりしてもすでにアテにならないのは

当然ですが、だからこそコンプレッションゲージというモノは「同一構成エンジンの劣化判断」の為にある、

と言っても良いんですよね(笑


むしろ、「実働時の圧縮に近い計測が出来る」といったメリットと言われている部分が、逆にトラブルシュートを

難しくしてしまっているデメリットにしかなっていない、と言っても良いでしょう。



と、これが私が2次圧縮の把握をコンプレションゲージに頼らない大きな理由の一つでもあります。

他にも理由は色々ありますが、一見実働時に近く、色々まとめて把握出来そうな計測方法ではありますが

きちんと考えていくと不都合のある点が多い、という事はお分かりかと思いますよ。

…とはいっても応用が利かない上に他車へのデータ流用も出来ないとなればかなり致命的だと私は

考えてしまいますが。


いまいち「上」のパワー感がなく、コンプレッションゲージを使って計測してみてその数値が高すぎたとして

2次圧縮を落とし、まともに走るエンジンになったとしても、それは2次圧縮を下げたのには間違いありませんが、

「どの位」2次圧縮を下げたのかが分からないのと同義ですからね。

これに有用性、応用性があるとは私には分析出来ませんでした。


一つの経験則になりますが、以前3YK型JOGのチューンにて、そこそこいじくったエンジンにて

ピークが12000rpm程度に出ているエンジンがあったんですよ。

このエンジンのクランクシャフトを交換し、1次圧縮がみっちみちのぱっつぱつになる様な物体を

投入したところ、腰上やその他の構成は一切変更していないにも関わらず、今まで12000rpm程度で

発生していたピークパワーが、なんと11000rpm強程度まで下がってしまったんですね。


…12000rpm程度で変速を行っても何かぱっとせず、感覚的にはオーバーレブってもいないのに

加速力は明らかに低下していて、11000rpmちょいの変速にセットするとやっとある程度まともな

加速力が得られたという感じでしたが、それでもクランク交換前と比較すると明らかにパワー感は

落ちていまして、1次圧縮UPがデメリットにしかなっていなかったと言う結論でした_| ̄|○


そして、ここで各部のバランスを見極める為に、2次圧縮比で「7.8:1」程度に設定していたものをどんどん

下げていく方向性でヘッドをこしらえ、最終的にクランク交換前と同じ12000rpmピークを発生出来たのは

2次圧縮比はなんと「7.0:1」という、ノーマルより低い状態にせねば元の特性に戻りませんでした。

リードブロックも大きな物を無理矢理ケース内にめり込ませて使っていたというオーナー仕様でもあったので

余計に1次圧縮がオーバー傾向になってしまった、という分かりやすい事例でしたね。

結局、オーバー1次圧縮でメリットが出たのはクラッチイン直後のパワーバンド下の部分の領域のみ、という

お粗末な結果でした(笑


とまあ、これは一例ですが、こういった状況に陥った場合、1次と2次の圧縮を別途に切り分けて物事を

考えないとどうにもならなくなる、といった事例だとお考え下さいな。

この3YKの場合、「2次圧縮比をノーマル位にまで落とさねばならないといった状態なので、

1次圧縮自体は明らかに高すぎるエンジン構成になってしまっている」といった事があわせて

分析出来ましたからね。


それと、1次圧縮というモノは、適正値より高くなってしまうとパワーバンド内のパワーを殺して

パワーバンド「以下」の回転域のパワーを上げてしまう物だという点もお忘れなき様にお願いしますね。

だからこそ高けりゃ良い、という物でも無いんですよ。

1次圧縮を上げまくったらその分全域でパワーUPする、なんて上手い話はありませんからね。

「適度」に行っていけばそれも可能ではありますが、「過度」にやるとデメリットしかない、という事です。


これもいつものクチですが、何か仕様変更を行った場合、「0発進から数mだけ乗って感覚を確かめる」と

いった手法だと、1次圧縮過剰なパターンでも気付きづらい、という点も大いにありますし。

人間、心理的には発進が良くなれば他もそれなりに悪くはなっていないだろう、と感じてしまう物では

あるのですが、1次圧縮の様にエンジン回転域の全ての範囲に対して影響があるチューンの場合だと

さすがにそれは絶対にやってはいけない事である、とも言えますのでご注意をば。


なお「トルクとパワー」のコンテンツでも書きましたが「トルク型」といわれるノーマル風エンジンの場合だと

特に1次圧縮過剰であまり上の方にピークパワーが出ていない事も多いですし、そんな事をするから

「トルク型」の特性にしか出来ないのでは、と思えるフシもあったりしますが。

ちなみにそういうエンジンの場合、排気音とかを聞いただけでもある程度判断出来る、という事もあったり

するんですよ。これってご説明しづらいですが、各部の効率が悪いエンジンってのは如実に「音」にも

反映されたりしますので(笑



と、1次圧縮と2次圧縮の兼ね合いといった点に付いてはこの辺でひとまず筆を置きたいと思います。

こういった点でも、コンプレッションゲージでの圧縮計測という物に対してのデメリットというモノははっきり

出ていますので、エンジン構成のバランスを突き詰める、といった面では手法としてはいかがなものか、と

いう事もさらに付け加えさせて頂きますね。

もちろん、両方を併用して使っていれば悪くは無いと思いますが。


…正直な所、私はヤマハ系の横型エンジンの場合だと、チューンしていく場合にはノーマルでも1次圧縮効率は

高めになっていると分析していますから、ノーマルより過度に高い1次圧縮というのはまずやらないですし、

ボアアップ等でやむを得ない場合だと可能であればどこかで1次圧縮を抜く事も考えますし、それも全く

出来ない場合は2次圧縮比を「適正値」まで下げて対応したりしますしね。

あ、もちろんこの2次圧縮比の適正値、というのは市販車のノーマルより低いという訳ではありません。

ノーマルだと「6.0:1」とかしかない2次圧縮比の車輌の場合、いくら1次が高くともチューン車としてはちと

能力不足だと私は分析していたりしますよ…



・ヘッド側での加工調整時の問題


さてさて次はですね、実際の2次圧縮の決定時において大切な事である、ヘッド加工時の問題といった物に

少し触れてみましょう。

とはいえ、これはシリンダーヘッドを全面に渡って整形し直していく場合の段取りと言いますか

設計における注意点ですので、あまり馴染みの無い方もおられるかもしれませんが…

こういった点でも、圧縮圧力計測を指標とするスタンスでは不味い面がある、といった点もついでに

ご紹介しておきたく思いますです。


まず、シリンダーヘッドという物は「容積」の決定は当然としまして、他にも色々と意味のある部分が

存在しており、ただの空間ではありません。

これを始めにざっとご説明してみますね。


2stのシリンダーヘッドの基本的構造



この様に、ざっと大きく分けて3つのエリアに分かれているのが2stのシリンダーヘッドでして、一般的に上から


・燃焼室


・スキッシュエリア


・スキッシュハイト


と、この3段階に分かれていますね。

…ちなみに一番下のスキッシュハイト、というのは適当な呼称が無いので勝手に作りましたが、これは

ボア径とほぼ同じ円筒形の部分である、といった解釈でお願い致します。

(※この部分は設計により全く存在しない場合も多々ありますが一応という事で)


で、「燃焼室」というのはもちろん、頂点部分にプラグが位置しており、ピストンのTDC時には一杯に

圧縮された混合気が文字通り「燃焼」している部分になります。

そこで発生した燃焼圧力派がピストンを強く叩くのがエンジンのトルクの源になる訳ですが…


次の「スキッシュエリア」というモノは、ピストンがTDCへ向かって上昇している時に、「圧縮されつつある

混合気を燃焼室部分へ効率よく収束させまとめていく」といった効果を発揮しています。

これって実はすごく大切な事でして、メーカーにもよりますが純正ノーマルのヘッドみたく、スキッシュエリアが

中途半端になっていたり、存在しているのかどうかも分からない様な構成の物もありますよね?

当然、そういった物では良い燃焼効率は得られなくて当然になります。

と言いますか純正ノーマルにそんな物を求めてもしょうがないのですけれどね(笑


で、ちょっと解説が飛びましたが話を元に戻しまして…

こういったシリンダーヘッドを作成する場合、当然ですがまずは現物を加工する前に「設計」を行って

いかなければならない訳です。

これ、私は正直圧力計測の方はどうやってヘッドを設計して辻褄を合わせているのかは全くといって

良い程存じませんので憶測ですが、とりあえずは細かい事を抜きにしても目標とするヘッドの容積

決めなければならない、といった方向性になるはずですね。


圧縮比計算を行っている場合、前コンテンツでご説明しています様に、加工元となる元の状態のヘッドの

容積や排気ポートタイミング、ピストンTDC点での「肩落ち」やピストントップ容積は計測しているのが

大前提なので、圧縮比をこれくらいにしたい、となればヘッド容積においてはいくつにすれば良い、という

数値は一番最初に出てきます。と言いますか出さないとチューンになりません(笑


で、これを圧縮圧力計測している場合だと…圧縮を上げたい場合、他を一切変更しないとすれば

シリンダーヘッドの容積を現状よりは「小さくしたい」はずですよね?

ここでまず疑問が出ますが、その具合、「容積のダウン量」ってのは一体どうやって決めるのでしょうか?

とりあえず削ってみてヘッド容積を減らし、エンジンに組み付けて暖機し、コンプレッションゲージを当てて

圧力を計測してみないと圧縮の具合自体の判断が出来ないのでは、と私は考えていますよ。


そして前述の様に、こんな手法を一から取っていく場合だと、


「知らないエンジン」に対して一切応用が利かない


のと同義になります。

…まさか「このエンジン構成だとヘッドは○ccで何kgの圧縮になるから、コッチの構成だと○cc程度で良い」と

いったあてずっぽうでは無いと思いますが、少なくとも私が伺った事のある「圧縮圧力計測」を用いたヘッドの

作成を行われる方だと、はっきり言ってそんな感じでしたが。

悪く言えば一度走ってみないとどうなるかの方向性も分からない、という事であると私は解釈します。


これも前述しましたが、仮にDioのノーマルエンジンに対し、ベターな圧縮圧力の出せるヘッドをこしらえたと

すれば、それがJOG用のベターになる様に「応用」出来ますか?という事に他なりません。

同じ車種のエンジンだとしても、排気ポートのタイミングが変わったり、社外品ボアアップキットなんかを

くっつける事が前提であれば、ノーマルエンジンの圧縮圧力なんて全く指標にならないでしょうし。

…仮にそれが出来る、という方がおられるのであれば、私個人としては恐ろしくてその方のこしらえる

ヘッドというモノは出来る限り使いたくありませんね(汗

それでは「どう見てもあてずっぽうな物」だと私は解釈してしまいますから…

そんな事が経験や感覚だけで分かったら神様ですよ(笑



で、もう少しだけ突っ込んだお話をしてみますと…

上記のシリンダーヘッドの構造ですが、これって燃焼室自体は「半球形状」がベストに近い、というのは

ありまして、私もそう考えていますし、「可能であれば」自分でこしらえる物でもそうしてみたいです。

が、それって細かな調整やセッティングを旨とするならば事実上の作成は不可能なんですよね。


何故かと申しますと、仮に圧縮比計算を行い、容積として「10cc」のヘッドが欲しい、といった計算に

なったとしましょう。

この場合、ヘッドの設計においては上記の通り3つの部分に分けて各部の容積を算出して設計して

行く訳ですが、具体的に各部の設計寸法として


・燃焼室=「5cc」

・スキッシュエリア=「4cc」

・スキッシュハイト=「1cc」


といった感じに設計したとします。

スキッシュエリアから下は、基本的にはスキッシュエリアの「範囲」というモノはある程度ベターな物が

存在するので、斜辺の角度はピストントップの肩角度にあわせるという基本を鑑みればどうあっても

設計上の容積的な変更は行いづらいんですよね。

(※スキッシュ角度はこれが基本なので、ピストンの「肩角度」も見ずにヘッドをこしらえる、ってのは

絶対に出来ない手法だったりしますが)


で、そうなれば「燃焼室は半球形状を形作りつつ、正確な5ccに整形せねばならない」のですが。

これ、多少加工の心得がある方ならお分かりかと思いますが、半球形状で底面の直径と中心高さの

決まっている空間を、容積が正確になる様にびしっと加工する事って簡単でしょうか?

旋盤加工であれば姿バイトを研がなければ難しいですし、手旋盤ではいくらなんでも毎回同じ寸法に

加工をやってのける、となれば超人的な技量が必要ですから、少なくとも私の様なプライベーターには

絶対に不可能である、と言っても良いでしょう。

仕上がり寸法がトータル容積で10ccのはずが、9.8ccとか10.4ccになってもなんらおかしくありません。


ここまで書くともうお分かりかと思いますが…


こういった手法を取って多少の容積誤差が出た場合でも


圧縮圧力を計測すると計測値に反映されない事もある


と、こうなる可能性も高いんですよ。

ちなみに圧縮比計算ならばそれだけ容積が違っていれば、目的の圧縮比とどれだけ相違があるのかは

計算ですぐに出ますけれども。


半球形状燃焼室が絶対に出来ないとまでは言いませんが、これを圧縮比計算にてこしらえようとすれば

何個も何個もヘッドを潰さないと出来ないでしょうし、その1個が出来たところでちょっと排気タイミングを

速めようとして排気ポートを上に削ったりしたらもう使いづらくなりますが、それで仕様の異なる物を別に

作ろうとした場合、またそんなリスキーな事を繰り返さないとヘッドが作れない訳です。

万が一加工に失敗しても簡単に入手できる物ならともかく、高価な物や珍しい物でそんな事はちょっと

敬遠したいところですしね。


なので、しっかりとした数値で指標と合致する物をこしらえよう、とした場合はこれまた圧縮比と圧縮圧力の

どちらが「やりやすい」のかも明確だと私は考えていますよ。

なので、私はヘッドを設計する場合には上記の図の様な「円錐台」が2つくっついた物+スキッシュハイトの

円筒部がある設計を旨としますし、設計とあまりにかけ離れる様な手法自体を取らないので、設計からして

ちと無理のある半球形状は事実上作成が出来ない、と言っても良いでしょう。

…別にやっても良いですけど、燃焼室をぴったりあわせる為に他の部分の寸法が大きく異なってしまっては

何の意味も無いと考えていますんで、ね(笑

燃焼室だけが半球形状であれば他は気にしないのか?という事と同義になりますしね。


あ、ついでに余談ですが、どっかでも書いたかと思いますが私はシリンダーヘッド周りの設計においては


燃焼室よりスキッシュエリア周辺の特性の方がエンジン特性に影響を及ぼしやすい


と分析していますよ。

もちろん、スキッシュエリア範囲がボア径の半分くらいあるのとかは問題外ですが、狭すぎてもいけませんし

広すぎても駄目であり、なおかつピストンの肩角度より角度が寝てるなんてのも話にならないので、これらを

加味していくと燃焼室側での容積変更の融通を利かせないとどうにもならない訳でして、これも私が燃焼室を

半球形では作らない(と言うか作れない)ひとつの理由になります。


それともう一つ、ピストンTDC時のピストンのフチとスキッシュエリアのフチの距離、スキッシュクリアランス

かなり大切だったりします。

これってノーマルだと2.5oとか平気で開いている物なのですが、これは経年劣化でカーボンが溜まっても

やすやすとスキッシュクリアランスが0にならない様な「余裕」であり、スポーティーなエンジンになればなる程

このスキッシュクリアランスって狭めなんですよね。


これも、仮に「1.5o」にしたいとなれば、まずピストンの肩落ちが「0.2o」あったとし、ヘッドガスケットの厚みが

「0.5o」なのであれば、0.2+0.5で0.7o分が元々存在しますから、ヘッド側のスキッシュハイト部分は残りの

「0.8o」分の円筒形をこしらえれば良い、という事になります。

(※スキッシュハイト部分の高さがイコールでスキッシュクリアランスではありませんのでご注意をば)


なので、ココの容積は高さが決まればもう決定されてしまいますし、スキッシュエリアの範囲と角度もおおむね

適用寸法が決まっていれば、トータル容積においてはもう燃焼室の容積の増減で行うしか無いんですよ。

私の設計の段取り上では、こうやって最後に燃焼室の容積でトータル容積の辻褄を合わせるので、先に

燃焼室部分が半球形で間違いの無い容積にする、という事自体が出来ないんですね(笑


むしろ、燃焼室部分の容積を先に決め打ちした場合、他のスキッシュエリア範囲やスキッシュクリアランス、

はてはトータル容積や圧縮比まで狂ってくるという事と同義になるんです。

加工ベースとなるヘッドの形状や肉厚によっても設計寸法には融通を利かせなければならない物ですし、

何が何でも半球形でびしっと決める、という方向性は他の犠牲が大きすぎるワケです。

だからこそ私は燃焼室容積の誤差があっても悪い意味でかまわない、とも取れる圧縮圧力での計測は

性能指標どころかヘッドの作成においても参考にはしません、という事で…って何回言ってるんだか(爆


…もうココまで書いたら歯に衣を着せずはっきり言いますが、


圧縮圧力測定を指標としてヘッド設計を行った場合


結果的に「ゲージの計測数値」さえ合っていれば良い、とも取れるので


上記の様な細かな点を一切合財無視していても「ヘッドが作成出来る」


と言い換えても良いでしょう。


実際、エンジンに組み付けてエンジンをかけ、走るなりした後で圧力計測を行わないと正確な数値は

計測出来ませんから、どっちみち結果オーライの手法になりがちである、と私は考えますよ。

と言いますか、圧力計測が指標だとヘッド設計において各部の役目の切り分けや、一つの点を

変更してこしらえる、といった事自体が不可能に等しいので、本当に悪く言えば適当になりがちでも

あるだろう、と私は受け止めていたりします。

もっと悪く言えば適当でも誤魔化しが効く、という事ですが。


もちろん、A社のシリンダーとピストンを使って、加工寸法がこうであれば○ccのヘッドで圧力が

○kgになる、といったノウハウがあれば話は別ですが、それにしても正確性に欠けると私は思いますし

排気ポートをちょっと削っても圧力は変化しないからヘッドはそのまま、って事があるのであればそれは

単なる逃げの手法にしか見えないですから。


そしてそれに加え、ヘッド周りのトラブルが出たとしても、要因の追求や切り分けが難しくなってくると

いった点も大きなデメリットになります。

これ、「圧縮比が同じ」でも、スキッシュエリアが無茶だったり、スキッシュクリアランスがおかしかったり、

はたまた燃焼室が悪さをしていたりするとトラブルや不調の原因になるんですよ。

こういった場合、圧縮比が適正や低めでもそういった点を解決しないと気持ちの良いエンジンには

なりえないので、これをまとめて圧力計測しているとトラブルシュートにも弱い、とも言えますね。


あ、私は「結果的に速けりゃ良い、パワーが出ればそれで満足」ってタイプの人間じゃないのは

いつも言ってる通りなのでそのあたりは誤解無き様にお願い致しますです。

それと、「お前はそこまで言うならそんなシビアなヘッドの分析、設計、作成が可能なのか?」と思われる方も

おられるかもしれませんが、それを聞くのははっきり言って愚問です、とだけお答えしておきましょう。



と、ヘッド設計における圧力計測のデメリットはこんな感じになりますね。

設計等が絡んでくるのでちょっと難しいとは思いますが、ここでも他の項目と同じく、圧力指標による事の

デメリット、圧縮比計算による事のメリットを比較してみました。


本当は設計の話にはもうちょっと突っ込んでみようと考えていたのですが、私のやり口をバラしていって

いるだけになってもイヤなのでこの辺にしておきます(笑


結局、ヘッド設計の面では結局何が言いたいかと言いますと、


圧縮圧力計測を指標としたシリンダーヘッド設計の場合


実際に走ってみるまで特性における傾向が分かりづらいのと


細かな点における仕様変更等がやりづらい


そしてトラブルシュートにも大いに不向きである


と、こういう事になります。

と言いますか、これが仮にノーマルエンジンでヘッドだけいじくるとすれば、ノーマルの圧力計測値と

ヘッド容積等を測っていればまだなんとなく指標になるかもしれませんが、排気量を上げてポートタイミングも

全然違う腰上に対してヘッドを設計する場合、どうやって基準を設けて設計を行えば良いのかな?と。

この点においては私の脳味噌では全く想像も付かなかった、という事も補足として述べさせて頂きますね。

もしその手法を教えてやっても良いぜ、という方がおられれば是非ご教示願いたく思いますです。



・排気量の大きなエンジンと小さなエンジンとでの容積対比具合の差


さて次はですね、ヘッド容積を調整して圧縮比を変更するといった場合において、排気量の差、と

いった物による計算数値の差といった物に焦点を当ててみましょう。

これは実際に、自身のエンジンのヘッド容積を計測してみて、他を一切換えずにヘッドのみを単純に

面研したりして圧縮比を変更するといった手法を一例としてみます。


まず、単純にヘッドを作り換える、といった大事ではなくとも、ヘッドガスケットをノーマルより薄い物に

してみたり、少しヘッドの面研を行って圧縮比を高める、といった手法を行う場合ですが、これって

圧縮比計算を行う場合だと、「容積対比」を行うのはすでにご説明している通りです。

が、「手法」としては単純に、面研の場合だと○o面研したといった表現もよく耳にしますが、これは

あくまで「全く同一の車種、同一のエンジン構成で無いと比較が出来ない数値である」といった点が

まず大切になります。


ではここで一例として、単純に排気量の違う2種類の車種を出してみたく思いますが、ノーマルから

どちらもヘッドを「0.5o面研した」場合の圧縮比を計算してみましょう。


・スーパーDio-ZX:排気ポート開口部=シリンダー上面から25.5o ヘッド容積「5.7cc」で圧縮比約「7.0:1」

A:排気ポート開き始め=シリンダー上面から25.5oの体積=(3.9/2)2乗×π×2.55=30.44cc
B:ピストン上死点時のシリンダー上面からの下がり量0.1o=0.11cc
C:ヘッドガスケット 40φ×0.5o×1枚の体積=0.62cc
D:シリンダーヘッド体積=5.7cc
E:ピストントップ部分体積=1.4cc

A+C+D−E/B+C+D−E=

(30.44cc+0.62cc+5.7cc-1.4cc)=35.36cc÷(0.11cc+0.62cc+5.7cc-1.4cc)=5.03cc

=7.02:1


まずはスーパーDio-ZXのノーマル車ですね。ちなみに以前書いてるのと数値が微妙に異なっているのは

個体差という事でよろしくです。実際多少の差異ってのはあるものなので…


で、0.5oの面研だと、スキッシュハイト部分40φを0.5o落とす事になるので、約0.62ccのマイナスになります。

ちなみにこのエンジン、ボア径は39φですがスキッシュハイト部分の径は40φですね。

通常は多少ヘッドがずれて取り付けられても良い様に、ボア径よりはちょっと大きいのがヘッド径の

基本になっていたりしますし、これはオリジナルヘッドの作成時も同様です。

後、ヘッドガスケットも通常はそうなっていたりしますんで、この辺りをボア径と同じだと思い込んでは

圧縮比計算に齟齬が出てくるのでご注意をば。


・スーパーDio-ZX:排気ポート開口部=シリンダー上面から25.5o ヘッド容積「5.08cc」で圧縮比約「7.8:1」

A:排気ポート開き始め=シリンダー上面から25.5oの体積=(3.9/2)2乗×π×2.55=30.44cc
B:ピストン上死点時のシリンダー上面からの下がり量0.1o=0.11cc
C:ヘッドガスケット 40φ×0.5o×1枚の体積=0.62cc
D:シリンダーヘッド体積=5.08cc
E:ピストントップ部分体積=1.4cc

A+C+D−E/B+C+D−E=

(30.44cc+0.62cc+5.08cc-1.4cc)=34.74cc÷(0.11cc+0.62cc+5.08cc-1.4cc)=4.41cc

=7.87:1


と、0.5oの面研では圧縮比的には0.8位のUPになりました。

実際の運用においては圧縮比を上げました、的な数値ですし、もうちょっと行っても悪くは無いと思える

値になっていたりしますね。


そして次に、比較として排気量の大きいリードの90のノーマル車を出してみましょう。


・リード90:排気ポート開口部=シリンダー上面から32o ヘッド容積「12.3cc」で圧縮比約「6.0:1」

A:排気ポート開き始め=シリンダー上面から32oの体積=(4.8/2)2乗×π×3.2=57.87cc
B:ピストン上死点時のシリンダー上面からの下がり量0.4o=0.72cc
C:ヘッドガスケット 50φ×0.2o×1枚の体積=0.39cc
D:シリンダーヘッド体積=12.3cc
E:ピストントップ部分体積=2.1cc

A+C+D−E/B+C+D−E=

(57.87+0.39+12.3-2.1)=68.46cc÷(0.72+0.39+12.3-2.1)=11.31cc

=6.05:1


と、リード90のサービスマニュアル値は「6.3:1」なのですが、これまた多少の誤差はあるという事で

近似値だとお考え下さい。(個人的に測った物の数の分母が小さめというのもありますが…)


でもって、こちらも上記のDioと同じく0.5oの面研を行ったとし、内径49φのスキッシュハイト部分を

0.5o面研すると-0.94ccになるのでヘッド容積は「11.36cc」となります。


・リード90:排気ポート開口部=シリンダー上面から32o ヘッド容積「11.36cc」で圧縮比約「6.5:1」

A:排気ポート開き始め=シリンダー上面から32oの体積=(4.8/2)2乗×π×3.2=57.87cc
B:ピストン上死点時のシリンダー上面からの下がり量0.4o=0.72cc
C:ヘッドガスケット 50φ×0.2o×1枚の体積=0.39cc
D:シリンダーヘッド体積=11.36cc
E:ピストントップ部分体積=2.1cc

A+C+D−E/B+C+D−E=

(57.87+0.39+11.36-2.1)=67.52cc÷(0.72+0.39+11.36-2.1)=10.37cc

=6.51:1


さて、リード90の場合だと「言葉尻では」同じ数値である0.5oの面研でも、圧縮比の変化具合に関しては

小さめになっていますね。

…こういうのは元々のヘッド容積も違う上、面研する部分の直径も違うので当然といえば当然なのですが、


「この位ヘッド容積を変更すればこの位圧縮比が変わる」といった「変化率」とも言うべき物は

圧縮比計算においては存在しておらず、いちいち計測&計算を行ってみて数値化するしか手は無い

はっきり言うと圧縮比というモノは楽には出せない数値であり、横着こいて変化率的な数値を

求めようとしてもそんな事は不可能である


と、こう言えるでしょう。

…グラフ的なモノを作っても無駄で、実際の容積等が変化したり、させたりすればその都度いちいち

再計算を行わなくてはならない、という事ですね。


そして、上記のリード90の場合、元の圧縮比が6.0:1程度しか無いのでは、6.5:1になったからといって

大したパワーUPは望めないのが現実だったりします。

これはヘッド側容積的に0.94ccのマイナスにしていますが、その程度では一種のノーマル程度の圧縮比にも

なっておらず、それでは「排気量なりのパワー」を得る事すら難しいと断言しても良いでしょう。

私は2stエンジンにおいては、最低でも原付一種ノーマル程度の圧縮比は必須だと考えていますし、

元々の余裕がかなり大きい二種ノーマルであれば、その位にチューンするのが最低限です。


で、ここからが本題なのですが、上記の2車種の比較の場合、どちらの車種も「0.5oの面研」といった、

単純なる言葉のみの加工寸法的なモノを施している訳ですが、もっと正確に「1ccのヘッド容積ダウン」

いった事であれば双方の圧縮比はどう変化するでしょうか?


これはここをご覧の皆さんがご自身で計算されてみるとよく分かるかと思いますが、


元の排気量が大きければ大きい程


一定量の容積変化を起こした場合の


容積対比としての「変化具合」は小さくなってくる


んですよ。

簡単に言いますと、50ccのエンジンでヘッド容積を1cc減らすのと、100ccのエンジンでヘッド容積を

1cc減らすのでは、前者の方が圧縮比の変化具合は大きめになる、という事です。


で、何故にこれが圧縮圧力計測の話に繋がるかと言いますと…これは実は簡単な話でして、

容積等を気にせずに面研してみたヘッドがあるとして、それをノーマルエンジンにくっつけた場合であれば

排気量の大きい車種の方が、圧縮比の上がり方はマイルドになる傾向なので「適当」でも安全マージンは

かなり大きい、という事になるんですよ。

それに加え、二種の特性である「ノーマル時の圧縮比が低めの設定である」事も鑑みれば余計に余裕が

あるものだ、と捉えても良いでしょう。


これは単純に原付一種と二種のエンジンを用い、圧縮比の調整等を何回か行ってみれば簡単に

見えてくるものなのですが、はっきり言って圧縮比を「詰めよう」とすると一種の場合だと二種の様には

簡単ではなく、ヘッド容積や各部測定にもかなりのシビアさが求められるんですね。

もっとはっきり言えば、ヘッドを1からこしらえるとして、目標の寸法に対して「小さい方向へ」0.3cc程度の

容積誤差が出たとしても、一種の場合だと不味い事になりがちな反面、二種の場合だと圧縮比的には

ほとんど変わらない、という事も多々あります。


だからこそ、


排気量の大きめのエンジンの場合、2次圧縮調整に関しては

かなり適当な手法でもハイリスクをこうむる可能性が低い


と、こういった事になるんですね。

これは別に二種を馬鹿にする訳ではありませんが、こういう基本的な構成面での余裕があるからこそ

コンプレッションゲージでの計測でもある程度はやっていけるのかな、と私は分析していますよ。


正直、一種と言いますか50ccのエンジンで、なおかつ排気ポート開口部がかなり高いエンジン仕様の

場合だとさらに輪をかけて容積対比のシビアさは加速しますから、コンプレッションゲージというモノは

アテに出来るどころの騒ぎでは無いんですよ。

もっと言えば、50ccそこそこのエンジンでコンプレッションゲージをアテにし、明確に数キロ単位の圧力差が

出てしまう位にまで容積変更を行っているのはもはや自殺行為に他なりません。


こういうのもあって、二種メインの方だとコンプレッションゲージの使用に抵抗が無い方も多いかと

私は受け取っているのですが、だからといって推奨が出来る訳ではありませんからねえ…

ここだけの話、二種車で「圧縮圧力が1○kgfある」といってこしらえられてたエンジンを分析したところ、

圧縮比自体は一種のノーマルにすら達していなかった、といったオチもあった事がありますからね(笑

私にしてみれば、圧縮圧力は指標どころか何のアテにもなっていない計測値である、としか表現が

出来ませんので…


元々の排気量が大きい場合だと、圧縮比にしてもかなり寸法を変化させないと明確に数値が変わって

来ないという事にもなりえる反面、元々の圧縮比が低めなのもあり、適当にガンガン変更を行っても

一発でパーになる様な高圧縮にはなりづらいとも言えたりするんですね。

で、当然ですが元々が50ccとかでなおかつ排気ポートの開角度がBBDC95°とかのエンジンであれば

ヘッド側での容積がコンマ5ccでも狂うともう大変な事になる、という事で。


正直これは、「二種車しか手がけた事が無い」場合だとなかなか到達出来ない分析でして、こういった

点もふまえ、私のいつも言ってる「それしか知らないと勉強になりづらい」という事の一環でもあります。

ひとつの事例で成功した物が、やすやすと他にも応用が利く、と勘違いするのは危険ですよ。

そもそも、「応用」というモノは双方をそれなりに理解していて初めて出来る事ですから。

一つの事しか把握していないのに、知らない事に対して無理に考え方を合わせるのはただの「こじつけ」です。

「JOGがこれで行けたからDioもこれで行けるわ〜」なんてのはその最たる例、という事で。



そして…いくら二種にノーマルからの余裕があるとはいえ、ハイチューンしていくといつまでも余裕が

残ってくれる訳ではありませんし、圧縮比にしてもあまりに高すぎるとトラブルが出てくる事はあります。


それに関連し、ここで一つついでのお話を書きなぐっておきたいと思いますが…

よく、圧縮比を上げすぎた状態で走行すると、パワーバンド内で「ノッキング」が起こってくる、という

意見が見られますよね。

これ、私から言わせればノッキングなんてものはそうそう簡単に起こるものではなく、意図して起こそうと

思えばかなり無茶苦茶をしないと起こせないものだ、と認識していたりします。


少なくとも、圧縮比をそれなりのところに合わせていれば、点火時期やエンジン構成にもよりますが

無茶が無ければ基本的にはよほどの事が無い限り、ノッキング音のする異常燃焼なんてものはまず

起こりえないんですよ。と言いますか私はほとんど起こした事がありません。


…スキッシュエリアの角度がピストン肩より寝ているとか、スキッシュクリアランスが0.2oしかないとかの

無茶苦茶構成なのであれば、圧縮比が9.5:1とかあればノッキングは起こりがちにはなりますが、普通に

常識的なエンジン作りを行っていた場合だと、多少のデトネーションは起こっても、カンカンとか

チャリチャリとかいう「ノック音」を併発するノッキングなんて起こりようがありません。


これもはっきり言いますが、そんな異音がする程の異常事態が起こるのであれば、それは確実に

圧縮比が高すぎるか、ヘッドそのものの構成の不適合があるからだと断言しても良いでしょう。

特に、スキッシュ周りの設定が間違っていると圧縮比はそこまで異常に高くなくとも異常燃焼の原因に

なりますし、点火時期がノーマル程度で異常に遅い事にかこつけて、無茶苦茶に圧縮比を上げていたり

しても同様ですね。


が、それでも一番にトラブルが出てくるのはピストントップの真ん中辺りのダメージであり、スキッシュの

フチがとろける様なノッキング的トラブル、というのはよほどの事が無い限り起こってはおかしいんです。

で、こういうおかしなノック音とかが頻発する、というエンジンなのであれば、その時点で構成が極度に

おかしいと断言してもよく、セッティングで誤魔化せる範囲ではない、という点は大いにありますね。


で、私が何を言いたいのかと言いますと…

少なくとも、圧縮比計算でエンジンを構成している人の場合、多量のノッキングが出て来るほどにおかしな

状態になってそれが改善しない、なんて私は聞いた事がありませんし、私もわざとでない限り起こった事は

ただの一度も無いんですよ。


その反面、コンプレッションゲージ基準で圧縮を決めている方からはそういった話が散見されますが、

これを鑑みても、圧縮圧力指標でのエンジン作りはリスクが大きいのは間違いないと分析しています。

やすやすと起こりえるはずの無いノッキング等を頻発「させられる」という時点で、どれだけ無茶になって

いるんだろう、としか私には受け取れなかったりする面もありますので、ね…


燃焼トラブルが起こる場合、通常は早期着火の「プレイグニッション」が起こって「デトネーション」に

繋がってしまうのであり、「ノッキング」が起こる時点で何かが大間違いである、という事はほぼ間違いないと

私は踏んでいますよ。

そしてコンプレッションゲージによる曖昧な圧縮決定もその一環を担っているという事で。



・最後にまとめと私の個人的スタンス


さて…長きにわたって圧縮圧力計測と圧縮比計算法の差異、といった物をご紹介してきましたが、

これでおおむね双方のメリット&デメリットが出せたかな、といった感じですよ。

他にも突き詰めればキリがないのですが、これらをもって私は圧縮圧力計測よりも圧縮比計算の方が

有用であると、この方向性をご提示したく思います。


と言いますか、すでに何度もコンテンツ内に記している通り、コンプレッションゲージを用いた圧縮圧力の

計測では、圧縮比計算と比較すればチューニングエンジンを形作るひとつの指標としては何一つメリットが無い、

と判断して間違いないであろう、と私は考えていますので、ここを読まれた皆さんもじっくり考えてみられると

面白いかとも。


私自身、圧力指標に関してはあまり良い思い出は無かったりするのですが…ここでも一つの経験則を

ご紹介してみますが、昔、「○社のボアアップキット専用の加工シリンダーヘッド」という品物を

某SHOPから購入した事がありまして、その売り文句は「圧縮が1○kgf-cuになる」といった品で

あったにもかかわらず、実際に組んでみるとかなり性能がヘボヘボ、圧縮比を計算したら「6:1」すら

はるかに下回っていて5台だったという…こんなモン走るわきゃねえだろといった経験もあったりするので。

ちなみにコレ、原付一種のボアアップキット用のヘッドだったのですがノーマルでは「7:1」超えている車種の

物だったのに、現物はそれよりもはるかに低い圧縮比という意味不明さでした。

…ノーマルより圧縮比が低いのに圧縮圧力はノーマルより高くなる、なんて事はまず考えられませんしね。


もちろん、それをこしらえた側にも何かしらの設計思想はあるはずですが、そちらさんで加工した社外品の

ボアアップキットに「合わせた物」であったにも関わらず、さっぱり走らない上に私的分析ではかなり

おかしな構成になっていた、ともなれば…「圧縮圧力基準」のチューンに対しては懐疑的になっても

しょうがないのは自明の理なんですけれどね_| ̄|○

少なくとも、圧縮圧力うんぬんを指標としてはいても、それは圧縮比で見ると話にならない物であった、と

いう事に他なりません。


これがどこの品だった、とかまではもちろん公開しませんが、私は「そこ」に対するイメージ自体は少なくとも

エンジン構成を形作る、といった点においてはかなり信頼度が落ちたのは事実です。

また、圧縮やヘッドが駄目だったからといって「そこ」の全てを否定したりはしませんし、他には良い物が

あったのも事実だったりはしますけれども…


これはそのSHOPとかのみに限らず、私の書いている事や他人様が書かれている事等、全ての「意見」に

おいて当てはまりますが、


仮に何かひとつがおかしかった、駄目だったからといって


「そこ」や「その人」の全てを否定する事はデメリットしかない上


頭が固くなるだけの思考停止である


と、こう言っても良いでしょう。

「坊主憎けりゃ袈裟まで憎い」という感覚は、自分自身の思考範囲を狭める愚かな行為である、と

言い切っても良いと私は考えていたりしますね。

仮に意見が違っていたとしても、納得しましょうとは言いませんが相手さんのいう事は「理解」はしていないと

文字通り話にも比較にもなりませんから。


私、いつぞやは某匿名掲示板でこの圧縮関連の件について無茶苦茶書かれてた事がありましたが

あそこまで悪意を持って自分の意見が貶められた事についてはさすがに腹も立ちまして、そんな風に

考えられている方も世の中にはおられる、と解釈した上で、今回のコンテンツの様に、おかしな誤解を

生まない様な解説等を可能な限り多岐に渡って書き連ねたワケですね。


ただし、これはそのいつぞやの批判に対して自分の掲示板で宣言した通り、この一連のコンテンツが

結果的に「圧縮圧力計測」の有用性を貶める事になっても知りませんという事は言わせて頂きますね。

もちろん、こういった意見が気に入らない方もおられるのだろう、というのは想像が付きますが、だからと

いって自分からの意見を発しない、というのは「私」ならありえない、というのは皆さんお分かりかと思いますよ。



そして最後にスタンス、と言いますかこの2次圧縮に対しての取り組み方なのですが。

私は、こういった2次圧縮に関する事を人様に問われたりした場合、現状を伺った上で明確な

「こういう方向に向ければ良いでしょう」といった指標を文字通り指し示す事をモットーとしております。

これは仮に、現在ノーマル車で圧縮比UPを行ってパワーを上げたい、と考えている方がおられれば、

ある程度は前述している様に、「ノーマルが7:1なら7.5:1位まで上げてみればベターです」といった、

相手さんが明確に取り組める方向性の数値、といった物をご提示する訳です。

あ、もちろんその手法が知りたい方であればさらに手法もご提示しますし、ある程度までは他のコンテンツでも

ご紹介している通りです。


これ、アドバイスとしては「それならノーマルよりは圧縮を上げれば良いよ」といった物でも間違いでは

ありませんが、可能であれば「どの位までやればベターなのか」を指し示す、すなわち「指標」と出来る

数値、寸法等を「こちら側が」出せなければ明確なアドバイスになっていない、と私は考えています。


また今回のメインのお話に戻りますが、これが仮に「圧縮圧力を計測し、○kgfまで上げればベターだ」と

いった事を明確に出しもせず、「圧力計測数値は変動するものだから自分で基準ノウハウを溜めろ」という

意見も散見されたりしますが、これではさすがに「アドバイス」とは言えないでしょう。


自分の手を動かして計測し、ノウハウやデータを溜めるのは当然のごとく必須ではありますが、その

「指標、基準」となる値すら最初に出さず、とりあえずやってみろというのはいくらなんでも暴論です。

圧縮圧力計測の場合、全く同一構成のエンジンで、なおかつそれなりにノウハウを持っている方相手で

無い限り、そういった数値を他人様にアドバイスする事も難しいでしょうし、なおかつ実計測を主と

するならばコンプレッションゲージのメーカーやモデル名、はては校正具合までを指定しなければ

ならないというハードルの高さになります。

それでははっきり言ってまぐれ当たりを見つけろ、と言ってるのと同義にしか聞こえません。


前述しましたが、これも「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」という事を参考とすれば、アドバイスを

行う側が「歴史」ともいえる指標や参照値を提示すべきであり、それも出さないのに経験だけを積んで

それを自分の指標にしろ、というのではまさに「愚者」を生み出す事にしかなりえないんです…


…こういうのってですね、自分でエンジンを預かって加工調整するのであればともかく、人様への

アドバイス、といった事になると圧力指標は全くもって正確性に欠けてしまうと、私は考えていますよ。

要は、圧力計測値の様な曖昧な事ではアドバイスにはならない上、人様に正確に自分と同じ環境で

測って貰える保障、という物もどこにもありません、と…

当然のごとく、圧力計測値がいくつ、というのを人様から伺ってもまず指標にはしづらい、というのも大前提です。


これが圧縮比計算であれば、計測自体は最初は上手く行かないかもしれませんが、計算式を間違えて

いなければ、ノーマル車の計測を行ってもサービスマニュアル基準値の近似値は出せますし、何より自身の

練習や手数、経験によって計測精度も高まっていく上に、後々に色々なエンジンに応用出来るかもしれない

データも取っていけるとも言えます。


現在はDio乗ってる方が次にJOGに乗る、という事は別に珍しくありませんし、ある程度のLVにまで技量が

身についた方であれば、「A社のシリンダーとB社のヘッドでバッチリだ!」なんてLVのエンジン構成といった

曖昧な物だけでは済ませないのが定番ですから、後に続き、なおかつ応用の利く、汎用性のあるデータや

経験を積んでいく方が、長い目で見れば自分にとってメリットは多いんですね。


私自身、10代の頃であればさすがにこんな小難しい事まで気にしたりはしていませんでしたが、これも

いつものクチでして、手数や経験だけではどうにもならない所まで来てしまったら、イヤでもお勉強して

面倒くさい計測等もやらなければ1歩も進めなかった、という…たったそれだけの話なんですよ。

私も伊達に長い事やってるワケではありませんから、「慣れ」だけで出来る事には限度がある、という事も

一応は性根に入っているつもりなので。

…別に嫌味を言っている訳ではありませんが、このやり方では限界があるといった事を自分自身で

認める事もチューニングにおいてはとても大切である、と私は信じておりますです。



ではここでいつものパターンですが、コンテンツの最後にある程度のまとめとして抜粋した文章を

書き連ねておきます。

…今回の様に本文が長いとまとめとは言えない位にココも長くなりますが(笑



以上、今回のコンテンツ、「2ストエンジンの「圧縮比」についての一考 総評編」のまとめとさせて頂きますね。

総評、と自分で名付けるだけあって、圧縮比の捉え方、といった件に関してはそれなりに包み隠さずに

色々な面から書き連ねましたが…

これはあくまでエンジン構成を形作るうちの一つの要素のみに限っての言及でして、他の部分でもやはり

ある程度モノを解説しようとすればこれ位の文章量になってしまう事は間違いありませんね(笑


これは私、何度も言っていますが「本来難しい事を簡潔に説明する」という事は神様でも無い限りは

不可能なので、駆動系とかもそうですが構成がシンプルだからといって動作原理が簡単な訳ではない

いう事もお忘れなき様にお願い致します。

今回のコンテンツでも直接関係の無い部分や小難しい事はかなり端折ってますしね。

とはいえ、ここまで読まれた皆さんならばそんな事はまず無いと信じていますが(汗



・最後にあまり関係ないおまけとか


で、あんまし関係ありませんが私、このコンテンツを書くに当たって色々人様のサイトを見て回ったり

していたのですが、昔からどうも納得出来ない事があるんですよね。

それは何かと言えば、単純に言葉のアヤだとは思うのですが、「吸気ポート」という言葉なんです。


排気ポートの反対側の穴の通路の事をそう指しているみたいな事が散見されるのですが、これって正確には

第3掃気ポートですよ。

その第3掃気ポートの事を何故か「吸気ポート」って呼称している方って一定数おられるかと思うのですが…

「吸気ポート」ってのはクランクケースリードバルブエンジンの場合、リードブロックが刺さっている穴の事が

「吸気口」といった扱いになるのであり、正確にはポートではありませんし吸気ポート、といった意味合いを

指すのであれば通常はリードブロックのはまる穴というか場所を指すんですよ。


何故にシリンダーの後方に空いてる通路を吸気ポートって言うのかな、と考えていたのですが、これって

「ピストンリードバルブエンジンのシリンダーに開いている吸気ポート」と混同しているのかな、と分析しました。


ピストンリードバルブエンジンの「吸気ポート」
拡大してご覧頂きたく思いますが、これは代表的なピストンリードバルブエンジンの背面側になります。

縦型JOG系のシリンダーですが、このエンジンはピストンリードバルブ方式で、図中の吸気ポート自体はピストンの上下により閉じている事もある訳ですね。

リードブロックからの通路もまとめて、この穴までが腰下に対して文字通り「吸気」を行う通路になっているので、本来はこういう箇所を「吸気ポート」と呼ぶんですよ。


このピストンリードバルブエンジンの吸気ポートの上側には当然のごとく第3掃気ポートも存在しますから、

この二つはエンジンの仕組み上完全に別物だったりします。

…穴の構成、と言いますか見た目がクランクケースリードバルブエンジンの第3掃気ポートと混同されるのは

単純に場所が似通っているからとか、そういうイメージ的なものなのかな、と私は考えていますが。

これもエンジンの基本をちゃんとお勉強していれば勘違いを避けられる物なのですが、「圧縮」という言葉では

ありませんが、他にきちんとした意味合いのある言葉を大きく間違って使っているとよろしくないという事は

私が言うまでも無いかと思いますよ。

初心者の方が「クランクケースを開ける」ってのを駆動系カバーを開ける、って意味合いで言ってる事が

あるのと同じ感じですしね…


で、もちろんクランクケースリードバルブエンジンでもシリンダースカート部に穴があるモノもありますが、

クランクケースリードバルブ式の場合だと、「吸気」されるポートというモノはリードブロックの刺さっている

開口部だと言っても良いので、またちょっと解釈が異なります。

吸「入」ポートと表現した方が良いのかもしれませんが、通常のクランクケースリードバルブエンジン構成では

シリンダーには「吸気」ポートはありません、という事で。


これもですね、言葉悪いのを承知で言いますが、エンジンの基本をある程度勉強していればこういった

イージーミスってあまり出ないんですよ。

「負圧」を「不圧」って表記したり、羽のついてない「リードブロック」単体を指して「リードバルブ」って表記を

したりするのも同様でして…趣味のエンジンをチューンするのにいちいち細かすぎる事を言うのも

アレなのですが、他人様との意思の疎通を図ろうとすれば、言葉ってのは出来る限り正確に近い方が

誤解を生まなくて済むんですよね。

特に、文章が意思疎通の一番のツールであるネットではとても大切な事になります。


圧縮比の最初のコンテンツにも書いたかと思いますが、「圧縮」といえば何を指すのか、という事もこれまた

同じなんですよ。

圧縮「圧力」を指しているのか圧縮「比」を指しているのかという事ですが、通常は圧縮といえば圧縮比を

指すのが基本なんです。

仲間内や狭いコミュニティ内だけで通じる言葉はある意味では方言であり、色々な方とお話をするのであれば

方言ってのは出来る限り出さない様にするのが筋ですし、私にしても地方の人間ですから普段使っている

「しゃべり言葉」をそのまま文章に記したら大抵の地域の方はワケ分かんなくなりますからね(笑



さてさて…今回は数ある当HPコンテンツの中でもかなり上位にランクインする長文になってしまいましたが、

いかがでしたでしょうか?

本来ならばもっと早い時期にこれを書き上げるべきだったのですが、あれやこれやと構成を考えたり

推敲を重ねているとこんな文章量になってしまいましたよ。

結果的に完成まで足掛け4年位掛かってますが、ここまでの45000文字のテキストを全てご覧頂けた皆さんには

何か少しでも得られるものがあれば、と願っておりますです。



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