さてさて、今回は表題通り、「WR遠心力がプーリーを押し出す力」について記してみたいと思います。
とはいっても、その力が分かったところで何の役に立つんだ、という突っ込みもあるかと思いますが…
これは実用的な面において、なおかつプーリーそのものの良否判断にも通ずる部分があるので、その
あたりに興味がある方は是非最後までお読み頂きたく思いますです。
※定番ページ内リンクです。
・WR遠心力の計算式
さて、ここを見られている皆さんであれば、スクーターのWR(ウェイトローラー)がどんな働きをしているのかは
おおむねご存知かと思われますが、改めて記しますと
その遠心力がプーリーを「横方向」にスライドさせる力に変換されている
WRを回転させてその「総重量」を用い「遠心力」を生み出しており
そのWR重量調整で変化させる「変速回転数」についてはざっとだけ記しますが…
まず、トルクカムでベルトを張る(挟む力)と、センタースプリング反力の合力であるドリブン側の
「ベルト側圧」が最初にありきで、ドライブ側WR遠心力でプーリーを押し出す力がその
ドリブン側合力を上回った時点で初めて「変速=加速が始まる」という事になります。
トルクカム側合力というモノの計算式は、当HPでこれを記している現在ではまだ公開してはいませんが
実際には存在はしますのでそういうものだ、という事でよろしくです。
では早速ですが、「遠心力」の計算式としては
質量(kg)×半径(m)×角速度(ω)^2(2乗)
「質量」はWRの総重量になり、単位はkg換算なので仮に総重量51gだとすれば「0.051kg」です。
「半径」というのはWRが回転している位置の半径、という事なのですが…
これ、仮にホンダ系大径プーリーであれば、クランクシャフト中心点からWRの中心位置までは「約23o」と
なっているので、最小変速状態のWR回転半径をm換算すれば「0.023m」となります。
そして次に「角速度」という数値なのですが…
これは、「物体が回転している速さ」を表しているものであり、「rad/sec」ラジアン・パー・セコンドと読みます。
(※ラジアン毎秒、とも読みますし式上での表記はω(オメガ)です)
この角速度が判明しない限り、遠心力というモノは把握出来ないのですが、要は単位時間あたり何度くらい
回されているのか、という事なんですよね(笑
その角速度の計算式は、
角速度ω=2πn
なので、2×π×n(回転数)なのですが、この場合のnは「毎秒」の回転数になりますから、変速回転数が
6000rpmであったとすれば、これは「毎分」の数値ですから「毎秒」に換算すれば「100rps」です。
(※「ぱー・みにっつ」ではなく「ぱー・せこんど」という事ですね)
で、これで回転数(rps)も出ましたから、角速度の計算を行ってみますと
2×π(3.141592…)×100(rps)=
628.31853…rad/sec(ラジアン・パー・セコンド)
と、必要な数値が揃ったところで次に「遠心力」の計算になりますが。
計算式としては「質量×半径×角速度^2」なので
×
半径0.023m
×
角速度の2乗=(628.31853…×628.31853…)=394784.18…
=463.08184…
質量0.051kg
しかし、ここで大切なのは、この解の「単位」としては「N(ニュートン)」であり、
「kgf(キログラム重、キログラムフォース)」ではありません。
なので、Nをkgfに換算する為に解を9.80665で割ってやりますが、そうすると
463.08184…(N)÷9.80665=47.2212(kgf)
結果、WR総重量が51g、回転半径がホンダ系大径プーリーの最小変速状態の23o程度で、変速回転数が
6000rpmの場合であれば、WRが発生している遠心力は約47.2kgf程度となります。
が、これはあくまで「WRの遠心力」であって、この力が実際にプーリーを押し出す力に変換されるにはもう
ワンクッションだけ作用があるので、次はそちらをご説明しますね。
・ランププレートとWRガイドの角度の作用
これは先程算出したWR遠心力がありますが、その力はクランクシャフトに対して「垂直方向」に働きますよね。
実際には回転しているので円周上にその力が発生している訳ですが、この力を90°真横に向けた方向、
すなわちプーリーを「真横」にスライドさせる力に変換しているのは、WRガイド&ランププレート角度に
なります。
これはイメージをいつもの下手絵で記しますのでそちらもどーぞ。
WRガイド角度は「30°」でランプ角度は「25°」になっています。
が、これはあくまで「斜面の角度」なのであり、計算式に必要な「θ1&θ2」を求めるには、図中にも
ありますが「tan(タンジェント)角度」になりますね。
・ランプ斜面側=tan25=0.4663
変換される場合はこうなる、という事です。100%のままでは無いんですよね。
ランプ角度は25°の場合、プーリーを押し出している力は「45.24kgf」程度である
遠心力のみを考えていると、WRガイド角度やランプ角度なんてどうでもいい、といった事になってしまうのは
言うまでもありません。
で、ここで少し閑話休題としますが。
上記の下手絵は記憶にある方もおられるかと思いますが、これは古くはスクーターチャンプの2001か
2002に掲載されていた図解であり、それに角速度を加味した上で実際のWRガイド角度やランプ角度を
追記してみた、といった絵になります。
スクーターチャンプの図解ではページの制限もあるでしょうから、あまり深くは突っ込まれてはいませんが
実際に物理的な力を求めるには、今回記している様な数値の加味が必要である、という事で。
ホンダDio-ZX系のプーリー構成の場合、HG刻印のランププレートは25°一律角度なのですが、WRガイドは
最初は30°から始まり、最終的には35°までスロープ的に変化しています。
なっている計算を行う場合は、まずはWRの回転半径を加味せねばいけませんが、それに加えてWRガイドの
角度も一律ではなく変化しているので加味しなければいけない、という事になるんですよ。
ちなみに、ホンダ系統のプーリーだとWRガイドに加えてさらにランププレート角度まで2段に折れていく
物も存在しており、そちらも加味しなければならない場合もある、という点も忘れてはいけませんね。
計算式の一環で、「tanθ」を用いる部分がありますが…これは計算が面倒な場合、Windowsにオマケで
付いている関数電卓を呼び出し、仮に角度が30°なら30と入力して「tan」を押せば答えが出てきます(笑
いつも言ってますが、私は数学をあれこれと解説したいのではなく、その計算式等をどうやってスクーターの
動作原理の解析に使うのか、をお伝えしたいワケなのでよろしくです。
ある程度の理論さえ分かっていればそういった物を使うのも悪くないと思いますよ。
・WR遠心力がプーリーを「スライドさせる力」
ちょっと言及してみたいと思います。
とはいえ、これはすでにある程度の計算式も出していますし、それ以上でもそれ以下でも無いのですが…
まず私が皆さんに一番にお伝えしたい事は、
その場合、プーリーをスライドさせていく為の「押し出す力」も
どんどん増大されていく
角度変移ととても大きな繋がりがあるから、なんですよ。
駆動系の構成や効率を考える場合、先に「トルクカムありき」というのは何度かご説明しているかと
思いますが、トルクカムの作用力、という物も仮に溝角度が45→60°、となっている溝形状であれば
変速後半では明らかにトルクカムの作用力、すなわちベルトを挟んで張る力、というモノは低下していく
傾向になります。
増大していくのに、ドリブン側ベルト側圧は低下していくんだ?と思われる方もおられるかと思いますが。
これは簡単な話でして、
スズキ車の様に、トルクカムが45°一直線で最初から最後まで設計されている事が前提、といった
構成の車種の場合だと、トルクカムの作用力は加速していっても低下具合が小さめなので、
そのドリブン側ベルト側圧をドライブ側ベルト側圧が上回る、すなわち加速出来る様にする為には
その場合、加速させるには最低でも10の力でプーリーを押し出さなければならないのですが…
スピードが出てくると同時に変速比が小さくなっていき、そのトルクカム側圧は「9→8→7」と段階的に
落ちて行くものですが、ドライブ側ベルト側圧はセンタースプリングの反力増大に対して打ち勝てるLVで
増大していけば良いだけで、「10.5→11→11.5」といった感じで側圧のバランスが取れる訳です。
ドライブ側ベルト側圧も過大に増大させていかねばいかず、「11→12→13」といった過度のベルト側圧が
必要になってしまいます、と言いますかそうしないと「一定回転変速で」加速出来ないんです。
エンジンパワー、すなわちベルトを引く力が同等のエンジン同士で上記の様な二通りの駆動系
構成があったとすれば…
当然のごとく、熱も発生しやすくなるのでベルトに対して熱も加わりやすく、動作不良の原因となる「熱ダレ」も
誘発しやすくなりますし、常に過剰な側圧が掛かっているのであれば、ベルトの減り自体も速くなっていって
しまう、というオチで、メリットなんて一つも無いんですよ。
その場合のベルト側圧はノーマル以上に大きくはなりますが、それでも「過剰」なまでの側圧は要らないんです。
スズキ系に見られる、45°一直線トルクカムというのはいくら他で一定回転変速の為の辻褄を合わせて
いるとしても、かなり非効率である、と分析していますのでね。
アドレスV100の一部の形式なんてその最たる例でして、作用力があまり低減しない45°一直線溝の
トルクカムが最初にありき、の設計ですから、ランププレートの後半角度をぐいっと寝かせてやり、
上記でご説明している「プーリーを押し出す力」を大きく増大させているんです。
負担やロスはかなり大きいですし、トルクカムへの負荷もかなり強大ですから、トルクカムピン外周に
ローラーを追加して少しでも負荷を低減する仕組みになっていますしね。
私、スズキはおそらく45°一直線トルクカムを使わなければならない何らかの理由がある、と記して
きましたが、その真偽はともかくとしても設計に無理があるのでは?と昔から思っていますよ…
が、かといってランププレートのみを後半角度が普通レベルの物を使ったとしても、これは変速回転数が
一定にはならずどんどん上がる傾向も出てくるので、決してベストとは言えないというのも難しい点ですね。
なお、スズキついでに余談ですが…
45°一直線溝のトルクカムが世の中に出始めた頃、あるメーカーのトルクカムは使用しているとその内
トルクカム皿の中心部の筒部分の溶接が取れてしまうといった、破壊されるトラブルが散見されて
いたかと私は記憶しています。
いましたが、それも原因の一環である事は間違いないでしょうが他にも要因は存在するはずです。
前述の通り、トルクカムの作用力があまり低下していく方向に向かない45°一直線溝の場合だと、仮に
ノーマルのトルクカムが45→60°であった場合、ノーマルと比較するとトルクカムにかかる負担というモノは
それなりに大きくなって当然なんですよ。
そういった品を社外品でこしらえるならば、最低でもノーマル純正品「以上」の強度や溶接具合を付与して
いないとどう考えてもトラブルの元になる、というのはここまで読まれた皆さんであればお分かりかとも。
持たせている純正V100のトルクカムでも、過走行すれば筒がもげるなんてトラブルもあるので、社外品で
さして強度を付与していないのであれば、そんなもんぶっ壊れて当然だ、としか私には思えませんでしたよ(笑
っと、文字ばかりになっているのでここいらで箸安めに画像を一発(汗
これはホンダプーリーのカットモデルですが…
おおむね30°から始まり35°ちょい、位で収束しますがWRガイドは決して一定角度ではありませんので、計算時にはそこの加味が必要です。
通常の駆動系構成ならばこういった設計がほとんどですが、変速(加速)が進むにつれて「プーリーを押し出す力」の効率は少しずつ落としていく傾向になっていますね。
加速していく段階では、WRの回転半径増大と共に遠心力も強くなり、プーリーを押し出す力はどんどんと
強くなりますが、それが右肩上がりではなく、WRガイドやランプ角度が浅くなっていく段階から後は徐々に
緩やかな上がり具合になる、という事で。
…文章のみでは分かりづらいかもしれませんが、ここまで読まれた方であれば理解して頂けると信じて
おりますです。
次に、WRの遠心力を物理的なプーリーを押し出す力に変換してみましょう。
この計算式においては、当HP内の「駆動系の熱ダレについての一考 補足編」でも少しだけ出していますが
遠心力(F)/(WRガイド角度tanθ1+ランプ角度tanθ2)
モデルはホンダDio-ZX系のプーリーとしていますが、このプーリーだとWRが最小変速状態であれば
…いつもの事でこの三角関数は端折らせて頂きますが、解としては
・WRガイド斜面側=tan30=0.5773
そして両方を足した数値は(0.5773+0.4663)=1.0436であり、これに先程のWR遠心力を加味すると
47.2212(kgf)÷1.0436=45.2483(kgf)
WR総重量が51gで、WR回転半径が23o、変速回転数が6000rpmでWRガイド角度が30°、
…遠心力とそんなに変わらないじゃないか、と思われるかもしれませんが、仮にこれを無視してWRの
なお、図中ではWRガイドもランププレートも一発角度ではなく2段階に折れている絵を描いていますが
WRの回転半径は変速して加速が進むにつれどんどん大きくなっていくので、もっと変速比がハイギヤ傾向に
後、つまらない補足になりますが…
なお、遠心力の計算そのものはWEB上での数学サイト等で簡単に計算出来る便利なところもあるので
さて、次にやっとこさ表題でもある、WR遠心力がプーリーを「スライドさせる力」という物について
変速(加速)するにつれ、WR回転半径はどんどん大きくなっていくが
何故にこれが大切なのかと言いますと…ある程度は他のコンテンツで解説しているトルクカム溝の
となれば、WRガイドやランプ角度がどうであれ、変速(加速)していくにつれ、ドライブ側ベルト側圧は
ドリブン側ベルト側圧を低下させていく方向性が先にあるからこそ
ドライブ側ベルト側圧は「それなりに」上昇していく設計であれば良い
当然、これだけでは分かりづらいと思いますのでもう少し例えを出しますと…
標準的な構成のプーリー&ランププレートよりも、はるかに大きなドライブ側ベルト側圧を
掛けていく設計にしないと変速(加速)しづらくなってしまう
仮の数値を当てはめるとすれば…通常構成のトルクカムが「10」の力でベルトを挟んでいるとします。
しかし、これがトルクカム作用力があまり落ち込まず、「9→8.5→8」といった感じで作用し続ければ
これ、別に動作原理としてはどちらでも加速、すなわち変速は行ってはいけますが…
「ベルトに優しい」のは一体どちらだと思いますか?
という事に他なりませんね。
…必要以上の側圧をベルトに掛け続けても、ベルトを引く力(駆動力)が増大する訳ではありませんし
エンジンパワー自体を向上させ、ベルトを引く力が増大すれば自動的にトルクカムの作用も強くなり、
もちろん、こういった事を探るのはとても難しい事ではありますが、私としては2stスクーターに限るなら
もちろんこれでも辻褄は合いますが、それだけの過剰側圧をベルトに掛けている、という事は各部の
これに関しては当時、WEB上でも金属強度が足らないとか、溶接がヘボいからだとかの意見を耳にして
カメファク製品とかはよくもげる、とかってのも耳にしましたが…前述のトルクカムピンの回転機構まで
写真写りがおかしいかもしれませんが、ランププレートは25°一直線になっており、WRガイドはわずかに湾曲していってます。
が、実際にプーリーを押し出す力「そのもの」が低下していくワケでは無いので誤解無き様にお願いします(汗