WRがプーリーを「押し出す力」について



さてさて、今回は表題通り、「WR遠心力がプーリーを押し出す力」について記してみたいと思います。

とはいっても、その力が分かったところで何の役に立つんだ、という突っ込みもあるかと思いますが…

これは実用的な面において、なおかつプーリーそのものの良否判断にも通ずる部分があるので、その

あたりに興味がある方は是非最後までお読み頂きたく思いますです。


※定番ページ内リンクです。




・WR遠心力の計算式


さて、ここを見られている皆さんであれば、スクーターのWR(ウェイトローラー)がどんな働きをしているのかは

おおむねご存知かと思われますが、改めて記しますと


WRを回転させてその「総重量」を用い「遠心力」を生み出しており

その遠心力がプーリーを「横方向」にスライドさせる力に変換されている


という感じになりますね。


そのWR重量調整で変化させる「変速回転数」についてはざっとだけ記しますが…

まず、トルクカムでベルトを張る(挟む力)と、センタースプリング反力の合力であるドリブン側の

「ベルト側圧」が最初にありきで、ドライブ側WR遠心力でプーリーを押し出す力がその

ドリブン側合力を上回った時点で初めて「変速=加速が始まる」という事になります。


トルクカム側合力というモノの計算式は、当HPでこれを記している現在ではまだ公開してはいませんが

実際には存在はしますのでそういうものだ、という事でよろしくです。


では早速ですが、「遠心力」の計算式としては


質量(kg)×半径(m)×角速度(ω)^2(2乗)


になるのですが…

「質量」はWRの総重量になり、単位はkg換算なので仮に総重量51gだとすれば「0.051kg」です。

「半径」というのはWRが回転している位置の半径、という事なのですが…

これ、仮にホンダ系大径プーリーであれば、クランクシャフト中心点からWRの中心位置までは「約23o」

なっているので、最小変速状態のWR回転半径をm換算すれば「0.023m」となります。


そして次に「角速度」という数値なのですが…

これは、「物体が回転している速さ」を表しているものであり、「rad/sec」ラジアン・パー・セコンドと読みます。

(※ラジアン毎秒、とも読みますし式上での表記はω(オメガ)です)

この角速度が判明しない限り、遠心力というモノは把握出来ないのですが、要は単位時間あたり何度くらい

回されているのか、という事なんですよね(笑


その角速度の計算式は、

角速度ω=2πn

なので、2×π×n(回転数)なのですが、この場合のnは「毎秒」の回転数になりますから、変速回転数が

6000rpmであったとすれば、これは「毎分」の数値ですから「毎秒」に換算すれば「100rps」です。

(※「ぱー・みにっつ」ではなく「ぱー・せこんど」という事ですね)


で、これで回転数(rps)も出ましたから、角速度の計算を行ってみますと

2×π(3.141592…)×100(rps)=

628.31853…rad/sec(ラジアン・パー・セコンド)

となります。


と、必要な数値が揃ったところで次に「遠心力」の計算になりますが。

計算式としては「質量×半径×角速度^2」なので


質量0.051kg

×

半径0.023m

×

角速度の2乗=(628.31853…×628.31853…)=394784.18…

=463.08184…


となります。

しかし、ここで大切なのは、この解の「単位」としては「N(ニュートン)」であり、

「kgf(キログラム重、キログラムフォース)」ではありません。


なので、Nをkgfに換算する為に解を9.80665で割ってやりますが、そうすると


463.08184…(N)÷9.80665=47.2212(kgf)


となりますね。

結果、WR総重量が51g、回転半径がホンダ系大径プーリーの最小変速状態の23o程度で、変速回転数が

6000rpmの場合であれば、WRが発生している遠心力は約47.2kgf程度となります。

が、これはあくまで「WRの遠心力」であって、この力が実際にプーリーを押し出す力に変換されるにはもう

ワンクッションだけ作用があるので、次はそちらをご説明しますね。


・ランププレートとWRガイドの角度の作用


次に、WRの遠心力を物理的なプーリーを押し出す力に変換してみましょう。

これは先程算出したWR遠心力がありますが、その力はクランクシャフトに対して「垂直方向」に働きますよね。

実際には回転しているので円周上にその力が発生している訳ですが、この力を90°真横に向けた方向、

すなわちプーリーを「真横」にスライドさせる力に変換しているのは、WRガイド&ランププレート角度

なります。


この計算式においては、当HP内の「駆動系の熱ダレについての一考 補足編」でも少しだけ出していますが


遠心力(F)/(WRガイド角度tanθ1+ランプ角度tanθ2)


となります。

これはイメージをいつもの下手絵で記しますのでそちらもどーぞ。


プーリースライド力の求め方



モデルはホンダDio-ZX系のプーリーとしていますが、このプーリーだとWRが最小変速状態であれば

WRガイド角度は「30°」ランプ角度は「25°」になっています。

が、これはあくまで「斜面の角度」なのであり、計算式に必要な「θ1&θ2」を求めるには、図中にも

ありますが「tan(タンジェント)角度」になりますね。


…いつもの事でこの三角関数は端折らせて頂きますが、解としては


・WRガイド斜面側=tan30=0.5773

・ランプ斜面側=tan25=0.4663


となりますが、この力の変換、というモノは図中の赤矢印の遠心力が、緑と水色の方向に働く力に

変換される場合はこうなる、という事です。100%のままでは無いんですよね。


そして両方を足した数値は(0.5773+0.4663)=1.0436であり、これに先程のWR遠心力を加味すると


47.2212(kgf)÷1.0436=45.2483(kgf)


といった解となり、


WR総重量が51gで、WR回転半径が23o、変速回転数が6000rpmでWRガイド角度が30°、

ランプ角度は25°の場合、プーリーを押し出している力は「45.24kgf」程度である


という結果が導き出されましたね。


…遠心力とそんなに変わらないじゃないか、と思われるかもしれませんが、仮にこれを無視してWRの

遠心力のみを考えていると、WRガイド角度やランプ角度なんてどうでもいい、といった事になってしまうのは

言うまでもありません。


で、ここで少し閑話休題としますが。

上記の下手絵は記憶にある方もおられるかと思いますが、これは古くはスクーターチャンプの2001か

2002に掲載されていた図解であり、それに角速度を加味した上で実際のWRガイド角度やランプ角度を

追記してみた、といった絵になります。

スクーターチャンプの図解ではページの制限もあるでしょうから、あまり深くは突っ込まれてはいませんが

実際に物理的な力を求めるには、今回記している様な数値の加味が必要である、という事で。


なお、図中ではWRガイドもランププレートも一発角度ではなく2段階に折れている絵を描いていますが

ホンダDio-ZX系のプーリー構成の場合、HG刻印のランププレートは25°一律角度なのですが、WRガイドは

最初は30°から始まり、最終的には35°までスロープ的に変化しています。


WRの回転半径は変速して加速が進むにつれどんどん大きくなっていくので、もっと変速比がハイギヤ傾向に

なっている計算を行う場合は、まずはWRの回転半径を加味せねばいけませんが、それに加えてWRガイドの

角度も一律ではなく変化しているので加味しなければいけない、という事になるんですよ。

ちなみに、ホンダ系統のプーリーだとWRガイドに加えてさらにランププレート角度まで2段に折れていく

物も存在しており、そちらも加味しなければならない場合もある、という点も忘れてはいけませんね。


後、つまらない補足になりますが…

計算式の一環で、「tanθ」を用いる部分がありますが…これは計算が面倒な場合、Windowsにオマケで

付いている関数電卓を呼び出し、仮に角度が30°なら30と入力して「tan」を押せば答えが出てきます(笑

いつも言ってますが、私は数学をあれこれと解説したいのではなく、その計算式等をどうやってスクーターの

動作原理の解析に使うのか、をお伝えしたいワケなのでよろしくです。


なお、遠心力の計算そのものはWEB上での数学サイト等で簡単に計算出来る便利なところもあるので

ある程度の理論さえ分かっていればそういった物を使うのも悪くないと思いますよ。


・WR遠心力がプーリーを「スライドさせる力」


さて、次にやっとこさ表題でもある、WR遠心力がプーリーを「スライドさせる力」という物について

ちょっと言及してみたいと思います。

とはいえ、これはすでにある程度の計算式も出していますし、それ以上でもそれ以下でも無いのですが…

まず私が皆さんに一番にお伝えしたい事は、


変速(加速)するにつれ、WR回転半径はどんどん大きくなっていくが

その場合、プーリーをスライドさせていく為の「押し出す力」も

どんどん増大されていく


という事になります。


何故にこれが大切なのかと言いますと…ある程度は他のコンテンツで解説しているトルクカム溝の

角度変移ととても大きな繋がりがあるから、なんですよ。

駆動系の構成や効率を考える場合、先に「トルクカムありき」というのは何度かご説明しているかと

思いますが、トルクカムの作用力、という物も仮に溝角度が45→60°、となっている溝形状であれば

変速後半では明らかにトルクカムの作用力、すなわちベルトを挟んで張る力、というモノは低下していく

傾向になります。


となれば、WRガイドやランプ角度がどうであれ、変速(加速)していくにつれ、ドライブ側ベルト側圧は

増大していくのに、ドリブン側ベルト側圧は低下していくんだ?と思われる方もおられるかと思いますが。

これは簡単な話でして、


ドリブン側ベルト側圧を低下させていく方向性が先にあるからこそ


ドライブ側ベルト側圧は「それなりに」上昇していく設計であれば良い


というだけなんですよ。


当然、これだけでは分かりづらいと思いますのでもう少し例えを出しますと…

スズキ車の様に、トルクカムが45°一直線で最初から最後まで設計されている事が前提、といった

構成の車種の場合だと、トルクカムの作用力は加速していっても低下具合が小さめなので、

そのドリブン側ベルト側圧をドライブ側ベルト側圧が上回る、すなわち加速出来る様にする為には


標準的な構成のプーリー&ランププレートよりも、はるかに大きなドライブ側ベルト側圧を


掛けていく設計にしないと変速(加速)しづらくなってしまう


という事に他なりません。


仮の数値を当てはめるとすれば…通常構成のトルクカムが「10」の力でベルトを挟んでいるとします。

その場合、加速させるには最低でも10の力でプーリーを押し出さなければならないのですが…

スピードが出てくると同時に変速比が小さくなっていき、そのトルクカム側圧は「9→8→7」と段階的に

落ちて行くものですが、ドライブ側ベルト側圧はセンタースプリングの反力増大に対して打ち勝てるLVで

増大していけば良いだけで、「10.5→11→11.5」といった感じで側圧のバランスが取れる訳です。


しかし、これがトルクカム作用力があまり落ち込まず、「9→8.5→8」といった感じで作用し続ければ

ドライブ側ベルト側圧も過大に増大させていかねばいかず、「11→12→13」といった過度のベルト側圧が

必要になってしまいます、と言いますかそうしないと「一定回転変速で」加速出来ないんです。


これ、別に動作原理としてはどちらでも加速、すなわち変速は行ってはいけますが…

エンジンパワー、すなわちベルトを引く力が同等のエンジン同士で上記の様な二通りの駆動系

構成があったとすれば…


「ベルトに優しい」のは一体どちらだと思いますか?


という事に他なりませんね。


…必要以上の側圧をベルトに掛け続けても、ベルトを引く力(駆動力)が増大する訳ではありませんし

当然のごとく、熱も発生しやすくなるのでベルトに対して熱も加わりやすく、動作不良の原因となる「熱ダレ」も

誘発しやすくなりますし、常に過剰な側圧が掛かっているのであれば、ベルトの減り自体も速くなっていって

しまう、というオチで、メリットなんて一つも無いんですよ。


エンジンパワー自体を向上させ、ベルトを引く力が増大すれば自動的にトルクカムの作用も強くなり、

その場合のベルト側圧はノーマル以上に大きくはなりますが、それでも「過剰」なまでの側圧は要らないんです。


もちろん、こういった事を探るのはとても難しい事ではありますが、私としては2stスクーターに限るなら

スズキ系に見られる、45°一直線トルクカムというのはいくら他で一定回転変速の為の辻褄を合わせて

いるとしても、かなり非効率である、と分析していますのでね。

アドレスV100の一部の形式なんてその最たる例でして、作用力があまり低減しない45°一直線溝の

トルクカムが最初にありき、の設計ですから、ランププレートの後半角度をぐいっと寝かせてやり、

上記でご説明している「プーリーを押し出す力」を大きく増大させているんです。


もちろんこれでも辻褄は合いますが、それだけの過剰側圧をベルトに掛けている、という事は各部の

負担やロスはかなり大きいですし、トルクカムへの負荷もかなり強大ですから、トルクカムピン外周に

ローラーを追加して少しでも負荷を低減する仕組みになっていますしね。

私、スズキはおそらく45°一直線トルクカムを使わなければならない何らかの理由がある、と記して

きましたが、その真偽はともかくとしても設計に無理があるのでは?と昔から思っていますよ…

が、かといってランププレートのみを後半角度が普通レベルの物を使ったとしても、これは変速回転数が

一定にはならずどんどん上がる傾向も出てくるので、決してベストとは言えないというのも難しい点ですね。


なお、スズキついでに余談ですが…

45°一直線溝のトルクカムが世の中に出始めた頃、あるメーカーのトルクカムは使用しているとその内

トルクカム皿の中心部の筒部分の溶接が取れてしまうといった、破壊されるトラブルが散見されて

いたかと私は記憶しています。


これに関しては当時、WEB上でも金属強度が足らないとか、溶接がヘボいからだとかの意見を耳にして

いましたが、それも原因の一環である事は間違いないでしょうが他にも要因は存在するはずです。

前述の通り、トルクカムの作用力があまり低下していく方向に向かない45°一直線溝の場合だと、仮に

ノーマルのトルクカムが45→60°であった場合、ノーマルと比較するとトルクカムにかかる負担というモノは

それなりに大きくなって当然なんですよ。

そういった品を社外品でこしらえるならば、最低でもノーマル純正品「以上」の強度や溶接具合を付与して

いないとどう考えてもトラブルの元になる、というのはここまで読まれた皆さんであればお分かりかとも。


カメファク製品とかはよくもげる、とかってのも耳にしましたが…前述のトルクカムピンの回転機構まで

持たせている純正V100のトルクカムでも、過走行すれば筒がもげるなんてトラブルもあるので、社外品で

さして強度を付与していないのであれば、そんなもんぶっ壊れて当然だ、としか私には思えませんでしたよ(笑


っと、文字ばかりになっているのでここいらで箸安めに画像を一発(汗

これはホンダプーリーのカットモデルですが…


Dio-ZX系プーリーのカットモデル 写真写りがおかしいかもしれませんが、ランププレートは25°一直線になっており、WRガイドはわずかに湾曲していってます。

おおむね30°から始まり35°ちょい、位で収束しますがWRガイドは決して一定角度ではありませんので、計算時にはそこの加味が必要です。

通常の駆動系構成ならばこういった設計がほとんどですが、変速(加速)が進むにつれて「プーリーを押し出す力」の効率は少しずつ落としていく傾向になっていますね。



が、実際にプーリーを押し出す力「そのもの」が低下していくワケでは無いので誤解無き様にお願いします(汗

加速していく段階では、WRの回転半径増大と共に遠心力も強くなり、プーリーを押し出す力はどんどんと

強くなりますが、それが右肩上がりではなく、WRガイドやランプ角度が浅くなっていく段階から後は徐々に

緩やかな上がり具合になる、という事で。

…文章のみでは分かりづらいかもしれませんが、ここまで読まれた方であれば理解して頂けると信じて

おりますです。



・社外品プーリーの「効率」の見極め方


さてさて、今回のコンテンツはあまり深く掘り下げるつもりは無いのでこれで最後になりますが。

なので皆さんお待ちかねであろう、「実際の運用においてのプーリーの良否判断の手法」の一つをご紹介して

みたいと思います。


で、その「効率」という物ですが、これはこのコンテンツの表題通り、


WRにて発生している「遠心力」が


「プーリーを押し出す力」に「どれだけ効率よく変換されているか」


という事になります。


もちろん、これは細かい事は抜きにしても、単純にプーリーを押し出す力を強くするにはエンジンの

パワーを上げてトルクカムを強烈に効かせても、WRをがんがん早く強く回せばその分加速していく

物ですが、そうではなくて「エンジンパワー、特性が同一の場合」であれば、プーリーの対比という物は

意外と簡単に見て取れる物だったりしますよ。


…説明的に絵を描く必要が無いので文字ばっかりで申し訳ありませんが、これはまずノーマルもしくは

基準となるプーリーを用いて走ってみて、その時点での全開加速時の「変速回転数」と「WR重量」

メモしておきます。


次に、比較してみたい別のプーリーを取り付け、一切色気は出さずに


WRを以前のプーリーと同じ重量のまま入れてみて


全開加速走行をしてみます。


で、変速回転数がいくつか、を見て取り、それが


元々のプーリーでの変速回転数に対して高いのか低いのか


をタコメーター目視で判断します。

あ、もちろんこれはしばらく走って駆動系を暖めた上で判断しないといけませんよ?

入れ替えたばかりの冷たいプーリーでは温間時よりも変速回転数がいくらか上がって当然なので。


そしてその、プーリーを入れ替え、WRはそのままで全開加速させた状態の変速回転数、これが

元々のプーリーと異なっていた場合は…


・変速回転数が元のプーリーよりも高くなっていた場合=


「プーリーを押し出す力」の効率は元のプーリーよりも


「悪くなっている」



・変速回転数が元のプーリーより低くなっていた場合=


「プーリーを押し出す力」の効率は元のプーリーよりも


「良くなっている」



と、おおまかですがこういった判断を下す事が出来ます。

とはいっても、これは2〜300rpmの差であれば対して気にするものでもありませんし、慣らしや

固体差といってもギリギリ許せますが、500rpm以上変速回転数が上下してしまった場合には

明らかにプーリーの性能、としては効率の差が出ている、と判断出来ますね。


ひとつ、分かりやすく例えを出しますと…

仮に51gのWRを用い、ノーマルプーリーで全開加速した車輌の変速回転数が「6000rpm」で

あったとし、社外品のプーリーに付け替えてみるとします。

で、今度はWR重量は「同一」なのにも関わらず、変速回転数は「6500rpm」にまで上昇した状態で

加速していってしまいました。


この場合だと、社外品プーリーの場合は変速回転数が上がっていますから、WRが発生している

遠心力はノーマルよりも大きな数値になっているんですよ。

これは当然の話でして、51gx6000rpmの遠心力と51gx6500rpmの遠心力ならどっちが大きいのか、と

言うだけの話ですね。


で、遠心力が大きく発生しないと変速出来ない、すなわち加速出来ないという事は…

WR遠心力がプーリーをスライドさせる力へ変換させる為の効率が悪くなっている、という事に

他なりません。


最初の方の計算式を当てはめれば、WRが51gで6000rpm変速出来ている場合のプーリーを押し出して

スライドさせる力は45.2kgf程度ですが…

これが社外品プーリーの場合、


6500rpm分の遠心力が51gのWRに掛からないと

ノーマルプーリーと同じ45.2kgf分のスライド力が出せない


という事なんです。


これはちょっと勘違いしやすくてややこしい点なのですが、仮にこの社外品プーリーにおいてノーマルと

同じ6000rpm状態の51gWR遠心力で出せるプーリースライド力は、39kgf程度にしかならないんですね。

現実問題として、ノーマルでは51gのWRで6000rpmの45.2kgfで変速開始出来ているワケですから、たった

39kgfではまだプーリーがスライド出来ず、6500rpmの遠心力が掛かって始めて45.2kgfのスライド力が

発生するプーリー構造である、という事ですね。


なので、


ノーマルプーリーと同一のWRをセットしているにも関わらず、変速回転数が大きく


「上がってしまう」様なプーリーの場合、「遠心力がプーリーを押し出す力=スライド力」に


変換する効率が「ノーマルプーリーよりも低下している」


と、こういった一つの判断が出来たりします。


もちろん、これが全てのプーリー特性を決める訳ではありませんが、ローギヤ化やハイスピード

プーリー的な構成を持っているとか以前に、この「プーリースライド力」の発生具合こそが

私にとってはプーリーの特性においては最重要視すべき点となってますね。


私がノーマルプーリーもしくは純正流用品を好むのはここいらへんに最大の理由があります…と

いうのは賢明な読者の方々向けであればもはや説明するまでもありませんが、このあたりを鑑みても


WR遠心力のプーリースライド力への変換効率で、ノーマルに勝る物がどれだけあるのか


という、単純明快な事だったり(笑

…そもそも、プーリーというのはハイスピードプーリー化したい、とかロースピード化して発進具合を

上げたい、というのは至極単純な手法でどうとでもなる物ですが、こういったガイド角度等を自由に

コントロールする事はほぼ不可能なので、プーリーにおいてここの効率が悪いと話にならないです。

なお、この効率が良ければ全て良しという物でもありませんが、ノーマルより明らかに悪いのは駄目でしょう。


社外品の場合だと、無理なプーリースライド「量」を稼ぐ為に、WRガイドの最後の方がかなりおっ立って

いたりする物もありますが、ああいうのって最大変速に近づけば近づく程、プーリースライド力の低下を

著しく促進しすぎるので、変速回転数が上昇気味になり一定回転変速が行われない、といった致命的な

弱点がある場合もあったりしますので、ね。


なお、こういったテストを行う場合だと、駆動系の構成としては「一定回転変速」が行われているという

基本中の基本に則った構成が出来ていないと、こういったプーリーの判別も難しい、といった点も改めて

付け加えさせて頂きます。

もちろん、社外品プーリーを入れるだけですでに一定回転変速が破壊される、なんてのも嫌ですが…

…これがDioとかJOGにトルクカムだけ45°一直線の物を使っていたりすれば、その時点で一定回転の

変速なんて出来やしないので、その時点でアウトどころか問題外です、という事で(笑


後、ここでちょっと補足ですが…

変速回転数の変動チェックをする場合、プーリーを変更した場合だと、WRの最小回転半径もノーマルと

異なっている場合があり、その場合だとWR重量が同一でも、発生する遠心力は異なってきます。

しかし、この点は一般的な車種専用設計のプーリーであれば、そこまで大きな差が出ている物というのは

構造的に作る事が不可能なので、あまり気にしなくても良いでしょう。

(※当然、寸法は計測しておくのがベターではありますが…)


で、プーリースライド量に対して大きな効率の変化を生み出すのは、前述の図にもある様にtanθとなる

WRガイド角度&ランププレート角度なんですよね。

ランププレートの角度が変えられない、社外品でも換えていない車種の場合だとランプは無視しても

良いのですが、そうでない2段ランプのある2stDio系とかだとそうは行きません。


それと、ヤマハの3YJと3XGプーリーなんかだとよく分かりますが、3YJの方が最後までWRガイドがずっと

緩やかなままですが、3XGだと最後の方はWRガイドが立っており、3AAトルクカムを組み合わせた場合は

最大変速付近で変速回転数が上昇気味になる、といったデメリットも出てきたりします。

組み合わせとしては3YJプーリーと3FCトルクカム、すなわちWR遠心力の変換効率は最後まで程よく

維持出来、なおかつトルクカム溝は最終的にかなり90°に近くなり、余計な負荷をかけていないという

構成が一番各部のロスが小さいのですが…実はこれをノーマルでやってのけているのが3YK1〜4型の

7ps-JOG-Zなんですよね(笑

私の知る限り、このJOG-Zほどノーマルでパワー変換効率が良い純正駆動系構成、ってのはありません。


ロー側のWRの落ち込みが3XGプーリーに比べて小さく、ドライブ側ベルトかかり径が3XGよりも大きく

なってしまうというデメリットは3YJプーリーでは出ますが、加工調整が認められないFN仕様でもない限り

WRの落とし込みなんかを加工して調整すれば全体的なバランスはこっちの方が良かったりしますよ。

私は基本的に、ヤマハ50cc系チューンにおいては3YJプーリー+3FCトルクカムの小加工を用いる事が

多かったりしますね。


そして最後に、これは私の経験談ですが。

もう最近はこれはどこそこのメーカー品である、というのも隠す必要も無い時代になってきましたから、

あえて名前を出しますが、キタコのプーリーなんかを一例とします。

このキタコプーリー、今のモデルはどうか知りませんが、少なくとも私が若かりし日に使った物だと、

WRを「ノーマルの重量のまま」入れてみると変速回転数ががつんと跳ね上がってしまい、かなりおかしな

状態になってしまったことがあるのですが。


が、当時若者の私は、その「症状」を「なんかエンジンが機敏に反応するようになったぞ!」といった感じで

喜んでいたんですよ(笑

今思えばどう見ても子供騙し品を掴まされただけなのですが…


で、これって見方を換えれば、ノーマル状態ではわずかにパワーバンドを外した変速になっている車輌が

結果的にプーリー変更により、WRがそのままでも美味しい領域にて変速する様になったとも取れます。

別にそれでユーザーが喜ぶならばそれで構わないでしょ、と私は一応思ってはいますけれどね。

実際に、プーリースライド力ではなく変速比の変化で、発進が良くなったり最高速が伸びたりするのも

プーリー変更のメリットの一つなのですが、4stでもないのに「回転が上がって云々」みたいな症状を

あえて狙って物をこしらえている、というのは納得出来る物ではありませんが(笑

そんなフィーリングを得たければノーマルプーリーを用いてWRをちょっと軽くすれば済む話です。


…大昔、キタコのプーリー付属のセッティングマニュアルに載っていた「WR重量調整法」にしても、

てんで的外れな計算式をそれっぽく載せていただけですし、こういった点に関しては私はこのメーカーは

子供騙しが得意だなあ、と思っているのはわざわざ記すまでも無いでしょうけれどね。


とまあ、文字ばかりになりましたが、今回はこのあたりでおしまいにしたいと思います。

ややこしい事は抜きにしても、ノーマルプーリーから何か別のプーリーに交換してみた場合、全開加速時の

変速回転数が「WR重量が同一のままにも関わらず」大きく変化してしまった、となればそれはプーリーの

スライド力効率を判断するべきである、という事ですね。

もちろん、これは他の部分を一切合財変更せず、プーリーのみの変更で無いと判断は出来ませんから、

そのあたりにも注意が必要です。


そして、自分以外の人とWR重量がいくつ、といったお話をする場合でも、使っているプーリーそのものが

異なっていると、WR重量やエンジン構成が全く一緒でも、まず変速回転数は同一にはならないので

単純に比較する事も出来ない、という事を認識しておくべきですね。


…後、当然ですがタコメーターが無いとか一定回転変速しているかどうか分からない、とかでは

残念ながらプーリーのあれこれを判断出来る以前の問題である、という事で。

それに加え、4st単気筒のスクーターであれば特に一定回転変速で無くとも不具合は少ないですし

ベルトへのストレスも2stよりははるかに低いので同一視してはいけない、とも補足しておきますね。


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